コンビニに行ったら元アイドルがお酒を買っていたので俺の家で飲まないかと誘ってみたらOKしてくれた件
「あれ……? あの女の子、どっかで見たことがあるな」
どこにでもあるコンビニチェーン店に入り、今日の酒とつまみを買いに来たのだが――やけに可愛い子がストロング系のお酒を手に持って、缶詰を物色していた。
しゃがみこんでいるため、顔は見えない。
けれどしっとりとした長い髪。明らかに一般人とは違うオーラを発している彼女は深夜のコンビニではかなり目立っていた。
俺の目にはそう見えたのだけれど、実際はもっと地味だったかもしれない。
だが、間違いなく可愛い。はずだ。
「あ、あの」
何を思ったのか、俺はその女の子に声を掛けてしまう。それもかなり震えた声でだ。
ああ! なんで声掛けちゃったんだろ! 恥ずかしいいい!!
御年二十の大学生が心の中でそんなことをぼやいていた。
「なに……?」
正直、言葉を失ってしまった。もちろん彼女が想像通り、いや、それ以上に可愛かったのもあるのだが。
俺は彼女を知っていた。
今日芸能界を引退すると発表した元アイドル、南七瀬だったのだ。
え、嘘? 待て待て。これは現実なのか?
もしかして俺酔ってる? 知らぬ間にスピリタス(アルコール度数96%)一気飲みしちゃってる!?
……うん。夢だな。よし、せっかくだ。夢の中ぐらいアイドルと晩酌したって構わないだろう。
「よければ一緒にお酒飲みません? 俺の家、ここからすぐですから」
「……いいよ別に。でも、何もしないって約束してくれるのなら、だけど」
「もちろんです! 何もしませんよ!」
あからさまに怪しい言い草である。
だが、自慢ではないが俺は世界中の男が羨んでしまうほどの紳士である。
……決して変態紳士ではない。
ともかく許可は頂けたのだ。夢であっても女の子を待たせるわけにはいかない。
そう思い、俺はそそくさと酒とつまみを購入して南さんを自身の家まで案内した。
◆
「ぷはぁ! 美味え! やっぱ安くて酔えるコイツ、最高だよなぁ!!」
「あはは、そうですね……」
ええ、はい。何というか……これが本当に夢であってほしいと切に願ってしまっている自分がここにいます。
よく『アイドルはトイレに行きません』なんて言う迷信があるが、あくまでそれは理想であって、同じ人間なんだからトイレぐらい行くだろう。
それぐらいはアイドルオタの俺も理解している。
けれどお酒を飲んだら面倒くさい親戚のオッサンみたいな絡み方をしてくるアイドルなんて理解できるわけがないだろ!
夢を壊すなよ! いや夢だから実際の南ちゃんはこんなんじゃないのだろうが、どちらにせよ俺の夢を壊しているのには違いない!!
「うへぇ~ねぇ~……うっ」
恥ずかしげもなく俺に抱きついてくる。柔らかい女の子の体が自身に触れる。
……でも――酒くさいんだけども!
それに「うっ」って言ったよね。吐くの、ねぇ吐いちゃうの?
夢だとしてもそれはキツイ。せめてトイレで吐いてほしいな。
もちろん、それに対してドキドキしているのだけれど。間違いなく彼女の胸が俺の背中に当たっているという事実にもドキドキしていた。
現状はどうであれ、俺は間違いなく幸せを実感している。
いやー。いつ飲んだのかはしらねえが、スピリタスには感謝しないとな。
でも目が覚めたら路上で寝ていたなんて事実に気がつくのも嫌だな。まあそれぐらい構わないか。いい夢を見させてもらっているわけだしな。
そうだ。せっかくだし南さんに告白でもしてみるか。
どうせ夢なんだから、どんな結末であれ現実の俺が恥ずかしい思いをすることなんて微塵もないだろうし。
息を整え、俺の背中にもたれ掛かっている彼女に、
「あなたが現役時代から、ずっと好きでした! よければ俺と付き合ってくれませんか!」
と言った。
答えが返ってくるまでの数秒。あれほどうるさかった彼女が黙ったこともあり、時間が止まったかのように思えた。
その間。俺はどうしてこんなことを言ってしまったんだろう、と死ぬほど後悔をしていたのだけれど、南さんは優しくこう告げた。
「いいよ。君、わたしが地下アイドルだったころから来てたよね。ずっと話してみたいと思っていたんだ。まあ、まさかここまで話が飛躍するとは思っていなかったけどね」
ああ、覚えていてくれたんだ。
告白を承諾してくれた以上に、その事実に対して俺は泣いてしまいそうになる。
「ありがとう……。いや、本当に嬉しい! ああ! なんて素晴らしい夢なんだ!」
そう。これはあくまでも夢なんだ。
たとえアイドルを引退し、一般人に戻った南さんであっても俺と付き合ってくれるはずないし。そもそも見知らぬ男の家に上がるなんてありえるわけがない。
「えっと……君は何を言っているの? 夢?」
「……え? あの……南さんに訊くのもあれなんですけれど、もしかして本物ですか?」
「うん。そうだよ」
言って、南さんはにんまりと笑ってみせた。
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