ようこそメルエル喫茶店へ
今日も店の扉が開かれます。
カランコロンと高らかな音色でドアベルが店内に響きわたります。開いたドアからは外の暖かな陽気が流れ込んでくるようです。
「いらっしゃい」
店内の奥からは女性特有の優しい声音が聞こえてきます。
奥から出てきたその女性は、髪の毛の毛先が少しくるっとしていて長さは肩ほどまでの黒髪が美しい女性。
この喫茶店に来る人の多くは、彼女つまりはこの店のオーナーであるメルエルさんを初めて見た時にはあまりの美しさに言葉を失ってしまいます。
「何にされますか?」
メルエルさんはそう言うと席に着いた私にメニューを渡してくれました。
「えっと、紅茶でお願いします」
「はい、少し待っててくださいね」
私がそう頼むと、メルエルさんは返事をし紅茶をつくりに行きます。
私は紅茶が届くまでの間、少しだけほつれの見られる私のカバンの中から分厚い本を取り出しました。表紙には題名にこう書いてあります。
[誰でも分かる簡単魔法講座!]
誰でも分かると書いてありますが、内容は題名のように生易しいものではありませんでした。お陰で魔法学校のテストでは危うく赤点をとりそうになるほどです。
「はぁ」
私は思わずため息を着くと、私の目の前にコトリといい匂いのする紅茶が置かれます。
「どうかされました?」
「あ、いえ特に何かがって訳ではないんですけど」
私は愛想笑いをしながらそう言います。すると、私がそう言い終えた後にメルエルさんは何かを見つけたようで、大人っぽい表情からどこか無邪気な笑顔になります。
「その本懐かしい」
メルエルさんは私が手に持っている本を指さしながらそう言いました。
「こ、これですか?」
「えぇ。これでも私も昔は魔法学校に通ってたのよ?」
メルエルさんはそう言うとふふっと笑います。
「あなたもあそこの生徒なのかしら?」
「え、えぇ、まぁそうですけど」
私は少し詰まりながらそう返します。
あなたも、という事はもしかしてメルエルさんも魔法学校の元生徒だったのでしょうか。
「あ、今あなた私が魔法学校の元生徒なのかって思ったでしょ?」
「っ!?」
私はメルエルさんに心を読まれてしまい、思わず驚いてしまいます。私がそれを顔に出しすぎたのか、メルエルさんはふふっと笑い、少し妖美な笑顔を浮かべながら私にまた話しかけてきます。
「あら、少し驚かせちゃったわね」
「あ、いえいえ」
私はそう言ってメルエルさんに否が無いことを伝えます。
えぇ、人に心を読む力はありません。多分偶然予想が当たっただけなのでしょう。
私がそう思いながら、クイッと一口紅茶を飲むと、メルエルさんがまた話を始めました。
「あぁ、そういえばの話、私があなたの心の中を当てたのって、私の魔法の力なのよ?」
「けほっ!え、え!?そうなんですか?」
私は思わず驚いて咳き込んでしまいます。そして、私が尋ねた質問に対してメルエルさんは親切に答えてくれました。
「そうよ。私が学生時代に得意としてたのが白魔法なの」
「し、白魔法・・・」
私はメルエルさんの言葉に思わず驚きを隠せません。なぜなら白魔法とは、攻撃魔法が少ない代わりに、回復や索敵さらには、今メルエルさんが使ったような心を読む、などといったサポートの上級魔法を得意とした魔法だからです。
扱える人は極端に少なく、使えたとしてもその力のほんの少し。それを得意と言ってしまえる人は、どれだけ低く見積っても100年に一度の天才と言われるべき人なのです。
「白魔法は便利だからね、お客さんの気分とかもそれで予め確認しといたりして、出すメニューを決めてるのよ」
メルエルさんはそう言うと、一度店の奥にトタトタッと走ってメニュー表を数枚持ってきました。
「ほらこれ。数パターンあるのよ」
「あ、本当ですね。私が貰ったのは・・・これですね」
私はメルエルさんが持っているメニュー表をビシッと指をさしながらそう言いました。
「そうね、あなたがこの店に入ってきた時に心の中が少しモヤモヤっとしていたからね、心がパァーっとなる様なメニューがあるものにしたのよ!」
メルエルさんはそう言うと、にっこりと幽玄な笑顔を浮かべます。
「だから、私の靄がかった様なこの気持ちがすっきりしたんですね!」
私は思わず大きな声でそう言ってしまいました。しかし、メルエルさんはそれを咎めることも責めることも特にせず、むしろ少女に戻ったかのような風貌を見せました。
「そうそう!私がこのお店をしていてね、一番嬉しいのはあなたみたいに笑顔になるお客さんを見ることなの」
「そうなんですか」
「うん、だから私はこの仕事を辞めれないの」
メルエルさんはふふっと綺麗に笑います。
「って、あららいけない。つい楽しくてお話しすぎちゃいましたね。そろそろ私仕事に戻りますね」
メルエルさんはそう言うと、先程とは打って変わってゆっくりとした歩幅でカウンターの奥に行きました。
私はそこから数十分を過ごした後に、お勘定をしに行きました。
「250ゴルドになります」
私はメルエルさんに250ゴルドを手渡しました。
私が手渡すとメルエルさんが私に話しかけてきます。
「魔法学校頑張ってね!応援してる」
メルエルさんは私にそう言って激励の言葉を送ってくれました。
私は一度会釈すると、メルエルさんの目を見て口を開きます。
「また、ここに来ます!」
「ありがとうね」
私とメルエルさんは簡単にそんなやり取りをし終えると、私は店のドアを開きました。
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外からはリオール街の賑やかな声が聞こえてきます。
さて、今日はどんなお客さんが来店するのかな。
私は一人、カウンターでコーヒーを入れながらそう思います。
初めての短編です。
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人気が出れば週一くらいで連載しようと思うので!