最強(最凶)魔術師の義姉を救うまで(短編化)
エディには義姉がいる。
とても優秀な魔術師だ。しかし、変わっている。
魔術師は変人奇人が多いというが、エディの姉も例に漏れず変人だった。
一年かかる術を一週間で修得したかと思えば、熱中し過ぎて廊下で倒れてたりする。そんな危なっかしい姿をみて、姉は自分が守らなくてはと騎士になることを決意する。
両親は魔術師だが、息子のエディには生まれつき魔力がなく魔術も使えなかった。
自分は魔力無しの出来損ないなんだと俯いてばかりだったエディは、父親が引き取ってきた義姉、アルマに最初こそ嫉妬心を抱いていた。
しかし、魔術以外はポンコツなアルマが心配になり、やがて過保護なシスコン弟へと成長する。
エディはアルマの月のような金の瞳が好きだ。
静かに夜を見守る月のように優しい目が、何よりも好きだった。
穏やかな生活を送っていたエディだったが、両親が死んだことで運命が大きく変わっていく。
その日は門限に間に合わず、アルマと走って帰った。エディは玄関から入ったが、アルマは裏口からこっそり入ろうとしたようで、結果として両親の死体を見てしまう。
ショックで魔力コントロールが効かなくなったアルマは魔術を暴走させ、止めるためにエディは何度はじかれても姉に手を伸ばす。
姉の手に触れた瞬間、エディは学校にいた。
時が巻き戻っていたのだ。
そこへ、ひとりの男が現れる。その男が言うには、エディは時間操作が使えるのだと。その力を使って姉のアルマを守れと告げ男は姿を消す。
魔力がない、魔術も使えないエディが、禁術である時間操作が使えるなど、到底信じられないことだったが、念のためアルマと共に遅めに家へ帰ると、近所に住む叔母から両親の死を告げられる。
第一発見者にならなかったアルマが暴走することはなく、エディとアルマはその日から叔母の家で暮らすようになった。
高校生になったエディはアルマの世話をしつつ学校生活を送っていたが、ある日アルマが行方不明になる。
いなくなったアルマと入れ違いで現れたのは、エディに姉を守れと告げて去ったあの男だった。
男はアルマが魔術によって造られた魔術兵器だと言う。
男はロブと言い、古代魔術の研究をしているそうで、発見したのが記憶を失って人として暮らす魔術兵器、アルマだった。
アルマに兵器としての記憶が戻らなければ、悪しき者がアルマを見つけなければ、魔術兵器が生まれることはない。
そう考えたロブはエディにアルマを託した。しかし、アルマは姿を消してしまった。
ふたりはアルマを追って、旅へ出る。
道中、気になる噂を聞く。
一組の母娘が紛争地域を回り、魔術師率いる敵軍を壊滅させているという。
娘の魔術師はたいそう美しく、金の瞳が特徴的だと聞き、エディとロブは母娘が現れたと言われた場所へ向かうが、ふたりが着いた頃にはすでに戦場は更地に変わっていた。
アルマを追っていくうちに、エディとロブは世界を巻き込んだ大きな計画を知ることになる。
魔術兵器を使い、魔術師を皆殺しにして魔術のない世界を創る。それが、アルマを造り出した女の目的だった。
女もまた、アルマ同様に魔術兵器だが、造られたのは300年も前の話だ。
自分を造り、人を殺す道具として扱い、使えなくなったら壊そうとした魔術師を憎み、女は自身に埋め込まれた魔石を使いアルマという魔術兵器を造り出した。
魔術師のいない世界を作りたいという思いと、自分以外にも同じように魔術兵器として苦しむ者がほしいという、歪んだ思いがアルマを生み出したのだ。
生みの親を母と慕い、母のために兵器として生きるアルマ。兵器としての記憶を取り戻したと同時に人として生きてきた記憶を失ったアルマは、魔術師の世界を滅ぼそうとする。すべては母のために。
母親に喜んでほしい、親を慕う子どもの思いが、世界を破滅へと導く。
エディは禁術の時間操作を使い、犠牲を厭わずただひとりの姉を救うためだけに世界を救う。
魔術の使えない自分でも、姉のためなら役に立てるのだと、幼いエディの心を救ってくれた姉のために。
何度も巻き戻り、とうとう女がアルマを造った年まで巻き戻ることに成功。アルマの心臓とも言える女の魔石だけをえぐり取り、女の体を破壊。
母親の死を前に絶叫するアルマに笑いかけ、エディは魔石を使いアルマの記憶を消去する。
魔術兵器としての記憶を失ったアルマは、エディを唯一の家族として慕う。その姿に、エディはこれ以上ない幸福を感じた。
時間操作の代償として、寿命を削ったエディがアルマと共に穏やかに過ごせたのは2年ほどだったが、死の間際にアルマの魔石を破壊したエディは、動かなくなったアルマと共に永い眠りについた。