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Q.平凡な高校生は異世界で生き残れるのだろうか?  作者: 光合セイ
第二部 戦国日本編

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10話 参謀・嘉瀬アキラ

「先ずは此度の戦、誠に大義であった」

「はぁ、どうも」


 全員が出て行って部屋に取り残されたアキラは、一人心寂しく感じながら信長と相対していた。

 隣になんかふくよかな男がいるが、多分万が一に備えての親衛隊みたいなヤツだろうから無視をする。


「権六から聞いたが、どの武家にも士官していないようだな。行くアテもなしに、今は権六の古屋を借りて寺子屋を開いていると」

「はい。最近子供の数も増えてきて忙しいですね。前にここらで寺子屋を開いていた方が亡くなった影響でしょうか」

「…………であるか」


 信長の顔が少し暗くなったような気がしたが、気の利くアキラは面倒臭そうな雰囲気を感じて無視することにした。


「ところで何故俺は残されたんですか? 他全員出て行っちゃったんですけど」


 信長の隣の親衛隊員を除いて。

 というかこの人だれ? 名のある武将だったらお近づきになっておきたいな。


「……信盛よ。例の物を出せ」

「はっ」


 信盛という名前らしい。

 知らんな、歴史の授業では出てこない。


 信盛さんが手をパンパンと叩くと、襖が開かれてアキラの前に大量の大きな小豆袋が続々と出される。

 積み重なっていく小豆袋の中でじゃりじゃりと音が聞こえる。一つを手に持ってみようとしたが、兎に角重くて軽い力では持てない。


「これは……?」

「先程其方に渡すと言った三百貫だ」


 ……持って帰れるか! 重すぎるわ!


「見ての通り其方を残したのは恩賞の重さもあるが、それ以外にも理由がある」

「はぁ……なんでござんしょ……」


 アキラの頭は既にフリーズしていた。

 嬉しさと悲壮感が混同した何とも言い難い複雑な気持ちでヒクつく口を、何とか取り繕わなければと必死になる。


 そんなアキラを尻目に、信長はニヤリと笑って問うてくる。


「其方、我が家臣にならんか?」

「……え?」

「我は昔の素行が原因で家臣が少なくてな。寺子屋を開きながら武功も立てる其方の力を欲しいと思うたのよ」


 ……まぁ、そんなことだろうと思っていたけども。

 この時代の男は何かしらで身を立て、大名家の政治に関わり、戦場で武功を立てることを求められている。

 寺子屋を開くほどのこの時代からしたら突飛した知識量を誇り、桶狭間の戦いという逆境も逆境な戦で武功を立てた。客観的に見て優良物件すぎる。


 まぁ、お断りしますけども。


「是非とも遠慮しときます」

「な、貴様、正気か!?」


 反応したのは信長ではなく、隣の信盛さんだった。

 男なら大名家に仕えて当然、とでも言わんばかりの平静顔をキメていた顔がみるみるうちに焦燥の色に変わっていった。

 断られた側の信長といえば、眦を一つ動かすこともせずに、ただ静かにアキラの次の言葉を催促するのみだった。


「理由を聞こうか」

「俺が農民だったならいざ知らず、そも俺は寺子屋を経営しているんで、今の環境をわざわざ投げ出すこともないでしょう。今回の恩賞で家計簿も潤いましたしね」

「其方の今の我に対する不敬の罰則として、この恩賞を没収すると言ったらどうする?」

「それでも生活は出来るんでお断りします。生活術って知ってます? 民草舐めない方がいいですよ?」


 そりゃ忠実な農民だって、或いは戦闘続きなら誰だって一揆を起こしかねない。

 戦国なんてどこもかしこも不経済である。不経済の中で生活出来るのは、民が相応の生活をしていたからで。


 今やこの国の民として生きているアキラが、その術を知らないわけがなかった。


 塾経営で多少お駄賃は貰っているわけだし、何も完全に八方塞がりしているわけではない。今の楽な暮らしを捨てる必要なんて感じないのである。


 生活を脅かされるなら話は別だが。


「ふむ。では寺子屋の先生殿よ。知識を貸すだけならどうか?」

「どういうことです?」

「其方が持てる知識を我に差し出し、その対価として其方の欲する恩賞を授ける。所謂、参謀役だな」

「信長様! それは流石に……!」


 信盛さんの言いたいことはわかる。何というか……条件が良すぎる。

 直属の家臣にはならない。だが参謀ということは政治や軍事に口を出していいってことなのだろう。なんだそれ。


「まぁ、危険ですよね。俺が口を出すってことは、この国が滅茶苦茶になる可能性だって過分にありますし」

「舐めるな。最終決定を下すのは貴様ではない、この我だ。例え下策だろうと他国の調略が含まれていようと、全て噛み砕いて我が糧にしてくれるわ」


 うわぁワイルド。流石ホトトギスを殺す男。やることが割とガッツリアウトなのに不思議と安心感がある。


「であれば織田様の言う通りにしましょう。あ、給料はこんなにいりませんよ。持って帰れないので」

「傲慢が過ぎるぞ、参謀役。三千貫の俸禄など聞いたことがないわ。五十貫から始めることとする」

「一貫でいいです。重過ぎる」


 現代換算12万円である。月一働きでも十分だ。

 こうして『織田家参謀・嘉瀬アキラ』が誕生したのであった。



ーーー



「宜しかったのですか、信長様?」

「何がじゃ、信盛」

「あのような出自も不明な男を陣営に取り込んでしまったことがです。他国の間者の可能性も御座いましょう」

「その時はその時よ。あれはあれで使()()()


 信長がそういうと、信盛ははっはっと笑った。


()()()()の頓知ということですかな」

「黙れ。儂は一休ではない」

「使えるものを仕えさせる策は、何も直臣にするだけではない。なるほど、ひとつ賢くなりましたな」

「…………ふん。まぁ良いわ」


 信盛の言葉を聞き流し、信長は少し思考を挟む。


(そういう意味で()()()()のは、やはり猿であるな……)


 木下秀吉。愚かしくも賢く、冬場に信長の草履を懐に入れて温めたクソ猿。

 少々下品ではあるが、あれは使える。武勇はないが、知恵はある。思考速度は人の輪を取り持つ能力はピカイチ。


 かつて織田家の参謀役を果たしていた男と猿を重ね合わせ、信長は少し郷愁感に苛まれる。


「ふん……行くぞ信盛。最近は美濃が騒がしい。まずは此方に手をつける」

「ははっ! 早急に手配致します!」


 義兄が統べる西美濃攻略。

 この戦で外参謀の能力を推し量る。



ーーー



「……どうしよっかこれ……」


 三百貫とかいう岩よりも重い物体を押し付けられ、操術で持つにしても限度がなぁ……とアキラは呆けていた。


「あの……お力をお貸ししましょうか?」

「ん?」


 声の主は中学生くらいの少女だった。

 年齢的にはまつちゃんと同じくらいだろうか。綺麗な顔を歪めるように困らせながら、アキラへと声を掛けてきている。


「あはは、ありがとう。けど女の子の力じゃ無理だよ。流石にまぁ、俺でも無理だからね……」

「あ、いえ持つのはわたくしではなく……」

「儂だ。嘉瀬殿」


 少女の背後に控えていたのは柴田勝家だった。

 織田家家老がなんでここに……職務はどうした職務は。


「何故、柴田殿が……」

「この御方を警護するためだ」

「え、じゃあこの娘は……」


 ふと過ぎる嫌な予感。家老が守るということは、この少女はそれなりの地位にいるということであり……


 少女はぺこりと丁寧にお辞儀して、恐らく身分が圧倒的に下なアキラに挨拶をする。


「市と申します。兄の信長がお世話になります、参謀役様」

「お市様とは露知らず、大変失礼致しました」


 お市の方かよ。



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