1話 中世日本
ズズ……と茶を啜る音が、やけに大きく耳に届く。
囲炉裏を囲むアキラと優梨、そしてド派手に真っ赤な和服を肩に掛けた実質半裸のムキムキ男。
そのムキムキと言えば、アキラ達の目の前で呑気に茶を啜っている。見た目だけで言えば阿呆のそれだが、茶を啜る仕草が洗練されており高貴な身分に見えなくもない。
いやどうしてこんな状況に。
本当に何故。なんでこんなムキムキと対面して囲炉裏を囲っているんだ。新たな旅が始まったんじゃないのか。
仮面の……否、リーシャと別れて早々、こんな急ブレーキを踏まされるとは思わなかった。リーシャと合わせる顔がないくらい恥ずかしいぞ今。
「……さて、そろそろ互いの素性を語り合おうじゃねえか、ご両人。お主らは何処の国から流れて来たのだ?」
「「…………」」
「黙っていても始まらねぇぞ?」
――と言われても。
俺たちの素性なんて、ただ学校に通っていたら異世界に飛ばされ、紆余曲折を経てなんでか現在ムキムキと一緒に囲炉裏を囲んでいるだけの日本人に過ぎないんだが。
文字に起こしてみると気持ち悪いくらい意味がわからないな。もうやめよう、二度としない。
「えっと……私達は怪しい者ではないんです」
「怪しい者は皆そういうだろ。オレが知りてぇのはアンタらの出身地域だけだ。何も赤裸々な話はしなくていい」
「私達も何処から話せばいいかわかってないんです。此処が何処で、どういう場所なのかも」
「へえ、ご両人は神隠しにでもあったのか? 嘘にしちゃ出来が悪いな?」
いえ事実です。嘘ではありません。
とは思うが口には出さない。事実、現在の位置がわからないで此処にいる、なんて状況は現実的に考えてありえない。
「……柏原さん、実際俺たちに起こってることなんて話しても信じてくれないよ。怪しまれるだけだろうしね」
「じゃあどうするの? あの人すごい睨んできて怖いんだけど」
「此処は任せてよ。冒険歴なら俺の方が上だからさ」
そう言ってアキラは目を座らせる。
一応念のため、やむを得ず戦闘が開始してしまった場合のために体内の魔力を地面に流しておく。
「俺たちは外国から来たばかりなんだ。悪い場所ではないんだが、少し閉鎖的な環境でね。性に合わなかったのんで逃げて来たばかりなんだよ」
「ほ〜ん? ンで嘘をついてまで身分を隠す必要なんかあったんか? テメェの女房の言い分にゃ、まるで神隠しなあったみてぇな風だったが?」
ちなみに彼には、アキラと優梨は婚姻していると嘘をついている。
その方が二人で一緒にいる名分になるし、何があっても彼女のことを護る立場にいれると考えたのだ。
最優先は優梨の守護。
これだけは間違えてはならない。
「どっちかっつーと村八分だな。俺が巻き込んでしまった彼女は兎も角、俺は除け者扱いみたいなことされたし」
間違ってはいない。
マグナデアでは勇者ではないと王宮で除け者扱いされたし、暗殺される間際まで行っていたらしい。
この旅に優梨を巻き込んでしまったことも間違いないし、これに関しては何一つ嘘は言っていない。
「…………なるほど。ずびっ。大変、だったんだなぁ、ぐずっ。ふじんじゃ、なんつって悪がっだ、ずずっ。俺はお前に敬意を評ずるぜ」
……えっ。涙腺脆っ。
こんなチョロいことある? 涙腺を刺激することなんて一つも話してないんだけど!
「よーし決めたぜ兄弟! オレがアンタらの旅を少しでもラクにしたらァ! それが漢の友情ってもんよ!」
何このムキムキ実はいいヤツ?
すごい助かるけどこれでいいのか。トントン拍子もいいところじゃない? あと大声うるさい。柏原さんが怯えてるじゃねえか。
まぁ助けてくれるならそれに越したことはない。
旅先の現地人の助けほどありがたい物はない。
「そりゃ助かる。俺は嘉瀬アキラだ」
「オレのことは孫四郎って呼んでくれ! よろしくな、兄弟!」
わかっちゃいたが日本だなこの国。
つか肩を叩くな肩を。無駄に馬鹿力だな痛い痛い。
「そんで孫四郎よ。此処は何処で、今はいつなんだ? 森で迷ってから来たもんで、とんとわかっちゃいねぇんだ」
「そんなに厳しい旅だったのか、泣かせてくれるじゃねえかよ、兄弟!」
いいから早く言え。どうせ全部嘘なんだ。
「此処は尾張国。織田信長様が治める機内の大領地よ」
…………は?




