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8話 脆弱性のカリスマ

「それぞれ馬車の席順に陣形を組め! 戦士職は前に、魔法職は後ろにな! 密集しないようにしろよ!」


 ヒューズ騎士長からの指示が下る。


 すると俺たちはゾロゾロと動いて陣形を組む。操術師である俺は戦闘向きの職業ではないにしろ、戦闘できないわけではないので先頭に立っている。


 俺たちの一つ前には鈴木が重そうな槍を担いで立っている。俺の横には弓使いが背中に大きなロングボウを担いだ女子生徒。後ろには魔法を得意とするスキルを得た後衛の生徒が男子女子のそれぞれ2人。


 そして俺たちを守るように馬車で同席していた5人の騎士が囲んでいる。


 鈴木を先頭にして組んでいる陣形は、ペンタグラムと呼ばれる陣形らしいのだが、色々と隙が出来そうで俺は内心ハラハラしている。


 ダンジョンに入る前の高揚する緊張感を紛らわすために、隣の弓使いの女子生徒に話しかけた。


「よ、よろしく」

「……よろしく」


 少女の名は……なんだったか。


 ……ああ、そうだ。伊藤いとう汐梨しおりだ。


 柏原さんのような穏やかで嫋やかな感じではなく、シャルのように淑やかで腹黒い感じでもなく、どちらかと言うと早乙女さんのように凛々しい感じの少女だ。


 しかし凛々しいだけではなく、年頃の少女らしい可愛らしさも残っている。薄めのプレートからは未だ残っている幼さが垣間見えた。理由は言えない。内容も実物も薄いんだもん。


 淡々と挨拶だけ済ませて洞窟の方に体をを向ける。これ以上の言葉はいらないと言ったところだろう。その言葉なき意見には同意なので俺も洞窟へ体を向けた。


「それじゃあ、これから君たちにはダンジョンに入ってもらう。洞窟内には多くのモンスターが蔓延っているが、それ以外にも罠や、場所によっては魔水と呼ばれる、触れれば痙攣を起こすと言う危険は液体も流れている。古代の魔法使いによって作り出された物だからな。死ぬことはないが怪我をしないなんてこともない。こちらでも色々と対策はしているが、充分に気を付けて行くことだ」


 古代の魔法使いが作り出した。


 その言葉に妙な引っ掛かりを覚えたが、何の確証も知識も得ていない状態なので保留。それよりも気になることがあったのだ。


「あ、あの……罠って、具体的にはどんなのがあるんですか?」

「ん? そうだなぁ……落とし穴みたいな王道なものはあるが、危険な代物で言えば吊り天井だな。まぁ、あれは起動出来ない状態にしてあるから、別に心配はしなくてもいいぞ」


 なるほど。ということは、気を配るべきは床一択に絞るべきか。

 落とし穴の先に何があるのかはわからないが、おそらく俺たちが来る前にヒューズ騎士長の部下達が下見に来ていて、ある程度の危険な物は取り除いてくれているのだろう。


 今回の目的はあくまでもレベル上げだ。こんな初歩の初歩で戦力を削るわけでもあるまいし、俺たちが死ぬことはあり得ないだろう。


 緊張する理由はなくなったが、それはそれとして怖いものは怖い。おかげで未だに足がガクブルと震えている。


「ふんっ、知ったこっちゃねえな……行くぞ」


 鈴木がそう言って歩み出す。


「お、おい! まだヒューズ団長の話は続いてるんだぞ!」


 一条が鈴木を止めようとするが、鈴木は歩みを止めない。むしろ迷惑そうに


「ああ? 俺はいち早くレベル上げがしたいんだよ。死にたかねえからな」

「だとしても人の話は最後まで聞くべきだろう!」

「ま、まあまあ、一条くん。ヒューズ団長は俺たちが死なないようにするために色々と配慮してくれてるんでしょ? 俺たちはまだまだ死にはしないからさ」

「キミが言っても信用できないな、嘉瀬。キミは毎回訓練をサボっていたじゃないか。怠惰を貪るような輩の言葉を、俺は信用することは出来ない」


 なんだコイツ。ヒーロー気取りなのか上から目線なのかハッキリして欲しい。どちらにせよ、俺が悪役というのは厄介だが。


「……あ、そう」


 間に入って止めようとしたのは良いものの、すごすごと引き下がって行く俺に冷たい視線が大量に浴びせられた。仕方ないじゃん怖いんだもの。


「何処に行こうとしてんだバカ。早く行くぞ」

「ぐえっ」


 鈴木は引き下がって行く俺の首根っこを掴んで引き摺る。幸いネックプロテクターを装着していたため首吊り状態になるような事態にはならなかったが、後ろに引っ張られる力が強いため引っ張られた時に変な声が出てしまった。


「あの2人ってあんなに仲良かったっけ……?」

「嘉瀬くんがいじめられてた気がするけど……」

「つかアイツ結構力入れて引っ張ってね?」

「あ、嘉瀬が白目になった」


 気づいてるんなら助けてくれ!


 引っ張る力が強いせいで、ネックプロテクターを通して圧迫感が首元に迫る。そのせいで息が詰まって息苦しいから。首吊りになりかけてるから!


「いだだだだっ!? 痛い痛い痛いから!」

「知らねえよ、早く行くぞ」

「早くしたいんだったら首元から手ぇ離して!?」

「……チッ」


 死にたくなかった俺の講義に舌打ちを鳴らし、ぶんっ! と俺を宙に放り投げる。


「ふぉあっ!」

「おら、早く行くぞ」

「わ、わかった……」


 目の前がグルグル回っている。時には天地が逆転したり、揺れていないのに地震が起きたり大変なことになっている。ハッ! まさか混沌極まるとはこう言うことか!……違うか。


 鈴木の後ろをカルガモの子供のようにとてとてとふらつきながら付いて行く俺を見て、他のパーティメンバーの面々は一度顔を見合わせてから俺も私もと付いてくる。


 おそらく自分よりも弱い奴がビビっていないのに、自分がビビっていては示しが付かないとでも思ったのだろう。俺たちに追いつくと真っ先に「大丈夫だった?」「大変ね」と労ってくれた。


「なにゴチャゴチャ言ってんだ。早く進むぞ。他の奴らに獲物を取られちまう」


 俺たちの目の前では、パーティメンバーのリーダーのように鈴木が槍を担いで待っていた。



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