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Q.平凡な高校生は異世界で生き残れるのだろうか?  作者: 光合セイ
第一部マグナデア編

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76話 キミと歩む

「何ボサっとしてやがんだ! 察して離れろボケナス!」

「っ! わかった、ありがとう!」

「死神に感謝してんじゃねぇぞ!」


 それもそうだ。

 だがあんなのに勝てるわけがないと理解している以上、割って入ってくれるのはありがたい。


「柏原さん、こっちだ!」

「え? あ、うん!」


 優梨の手を引いて逃げ出すアキラを尻目に、ゲーデは呆れの孕んだ溜息を吐き出した。


「ったく。いつの世も弱いってのは罪だな」

「逃ガサナイ!」


 追尾しようとする黒某。

 しかしそれをゲーデが許さず前に出ると、両腕を掴まえて押し相撲の姿勢に入る。


「させるわきゃねぇだろうが! わざわざ死体使わず化身アバターで来てやってんだ感謝して戦え!」

「邪魔ダ、死神!」


 両者の魔力が衝突する。

 それを背にしたアキラと優梨は、走って衝突域から脱出した。


ーー


「はぁ……はぁ……ここまで来れば……」

「あ、アキラくん……何だったの、あの人達?」

「敵と味方。口の悪い方が味方だよ。……一応神だから喧嘩は売らない方がいいよ」

「売らないよ! ……本当に、アキラくんはどんな冒険をしてたのかな……」


 呆れとも同情とも取れる言葉だった。

 いや別に神々の戦争に巻き込まれたとか、そんな大したことじゃないから。

 辺境の街でのんびり金稼ぎしてただけだから。……まぁのんびりスローライフではなかったが。


「色んな経験をして来たんだね」

「まぁ尤もアイツらとは初対面だけどね」


 色んな経験をした自負はある。


 ……さて、これだけ離れれば問題はないだろう。

 アキラはアグノスを待つばかりだが、優梨はこの後どうさせれば良いのだろうか。


 アキラと一緒にいた以上、優梨が仮面野郎に目をつけられたのは確定だ。


(俺と一緒に来させるわけには……なぁ)


 第一に取るべきは優梨の身の安全だ。

 俺がいなくなった後に同級生が死ぬなんて、寝覚めが悪いにも程がある。


「アキラくん?」

「ん、ああ、どうしたの柏原さん」

「何か隠してることあったり、する?」


 …………。

 沈黙している時間が、彼女に勘付かせてしまったのだろう。

 少し悩みすぎたか。俺に取れる選択なんて、最初から1択しかないのに。


「柏原さん、少し話したい事が――」



「――準備出来たよ、アキラ」


 アキラと優梨の真横に突然現れるように、白い彼/彼女は姿を現した。

 まるで蜃気楼の中現れる怪物のように、予兆も声掛けも何もせずに現れるのだけはやめて欲しかった。


「…………お前、タイミング読めよ」

「え、今度は誰?」

「キミは勇者の一人かな。初めまして、ボクはアグノス。アキラの契約者さ」


 ペコリと優雅に頭を下げるアグノス。

 優梨も釣られて頭を下げると、すぐにアキラに向き直って問いただしてくる。


「契約? どういう契約なの?」

「ああ、それは――」


「ボクが彼に力を与える代わりに、一時的にこの国を離れて旅に出てもらう。それが彼とボクの契約さ」


 アキラが答えるよりも先にアグノスが答える。

 話をややこしくしないように説明しようと答え方を考えていた隙だったのだが、まぁ大体合ってるしいいか。


「え?」

「そういうことだよ。俺は今からこの国を離れることになるんだ。やらなきゃいけないことも残ってるから渋々だけどね」

「アキラくん……いなくなるの? 今から?」

「そんなに心配しなくて良いよ。やらなきゃいけないこと残ってるから、帰ってくる気はあるしね」


 知らない場所で野垂れ死だけはしない。


「……なんでアキラくんが行かなきゃいけないんですか」


 しかし優梨は納得していなかった。彼女の瞳には業火のように燃え盛る憤りが見える。

 そこまで怒ることなのだろうか。アキラは優梨の怒りを不審に思いながら、2人の間には入らずに聞き手に徹する。


「彼が強いからだよ」

「それなら彼じゃなくて私を連れて行ってください! アキラくんは大切な人が死んで疲れてるんです! 今行かせるのは危険すぎる!」

「キミはアキラが弱いと言うのかい?」


 口調は厳しいが、何処か微笑ましい物を見るような表情のアグノス。

 責めるでもなく対抗するでもなく。まるで物見でもするかのように優梨の言葉を待った。


「強い弱いではなく、彼は今精神的に不安定です。何処か出掛けるにしても間を開けた方がいい」

「それなら待ってみるかい? すぐにキミ達を襲った怖い人が襲い掛かってくるよ?」

「っ!」


 予想外の口撃だったのだろう。優梨は口竦んだ。


「……」

「そういえばそうだな。アグノス、柏原さんのことどうすればいいと思う?」

「どうするって、どういうこと?」

「俺とお前がいなくなったら柏原さん一人になるだろ。柏原さん一人であの仮面野郎に勝てるとは思えねえぞ」


 鑑定した結果から断定した結果を告げる。

 およそ人の範疇を超えた魔力量を、あの仮面野郎は纏っていた。これはオーラとか見た目の話ではなく物理的な話だ。

 魔力を皮膚の表面に纏うことで、鎧のように擬似的に破格の防御力を持っていた。恐らく余力も残しているだろうから、真の実力はアキラの食らった以上の物だろう。


 とても優梨が勝てるとは思えない。

 かと言って一人で逃げさせるわけにもいかない。どうした物かと思案していると、アグノスが一つの案を出してきた。


「連れて行けばいいんじゃないかな?」

「なっ!?」

「……お前まじで言ってんの?」


 正気の沙汰とは思えない発言だ。

 これから何があるのかわからない旅に、同級生を連れていけるわけがないと。そう思っていたのだが。


「ボクはいいと思うよ。キミのメンタルケアもしてくれるみたいだし、彼女の力はキミの旅に必要だ」


 「なくて困る物でもないけどね」と微笑むアグノス。

 その笑顔には「決断はお前がしろ」とでも言いたげな薄暗さがあった。


「………」


 勇者という存在は魔王を倒すのに必要な要素だ。

 連れて行った後、柏原優梨という勇者がいなくなったこの国で魔王という脅威が討伐されるのか。いわゆるバタフライ効果が生まれてしまうのかが不安だ。

 アキラと優梨がいなくなった世界線で魔王が倒されるのなら万々歳。倒されないのなら、その倒されない世界線でアキラが親しくしていた人達が生き残れるのか。


「……俺が柏原さんを守り切れるのか」


 それが一番の問題だ。

 今の段階では間違いなく俺の方が強い。戦闘経験やチートも含めて、これは疑いようがない事実だ。

 しかしこの先には俺よりも強い敵やモンスターが出てくる可能性がある。その敵と相対して、アキラは一人で優梨を守り切れるのか。


 不安要素は尽きない。


 アキラが迷っていると、袖をクイッと引かれる。

 見ると優梨が心配そうな面持ちをしながら、アキラの袖を弱く引っ張っていた。


「アキラくん、私は――」


 優梨が何事かを言おうとした瞬間、遠くから爆発音のような鼓膜に響く轟音が聞こえてきた。


「っ!」

「……ゲーデが負けたかな」


 アグノスの言葉に優梨が動揺する。

 アキラも息が詰まりそうになりながら、声を震わせてアグノスへ問いかけた。


「なんでわかる?」

「ここまで大きな音がしなかったろう? ゲーデは魔法みたいな魔力操作は苦手なんだ。今大きな爆発がしたということは、どういうことかわかるかい?」

「……納得した」


 したくはないが。

 猶予は残されていないということだけは、納得した。


 連れて行くか、いかないか。

 俺は今、この瞬間に決めなければいけない。


 苦虫を噛み潰したような表情をするアキラ。そんな彼の顔を優梨は両手で包むように持ち、自分の視線と交差させる。


「っ」

「アキラくん、聞いて」

「……何?」

「貴方が何処に行くのかはわからないし、その過程に私を連れて行くのに躊躇っているのもわかってる。だから私から、私を旅に連れて行くことを提案させて」


 アキラの頬を包む手の力が強くなる。

 ふるふると手が震えてることも伝わってくる。しかし優梨の目に強い意志が乗っていることを、アキラは一目見て理解した。


「私が死んでも私の責任。だから私も強くなる。貴方と一緒に強くなりたい。これで、アキラくんも文句はないでしょ?」

「――っ!」


 目を見開いて優梨を見る。

 一緒に強くなる。そう覚悟を決めた優梨の心は、最早何が起きても変わらないくらい固い決心へと変貌していた。

 彼と離れたくない。好きな人と一緒にいたい。そんな愛憎から始まった感情は、一人の人間の心を動かすまでに至っていた。


 アキラはその言葉を聞き――


「――アアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」


 突然、咆哮が聞こえてきた。

 この声に聞き覚えはある。あの仮面の某の声と同じだ。彼がアキラ達を追って近づいてきているのだ。

 アグノスは冷静に状況の整理を終えると、やり取りを続けるアキラ達に問うてくる。


「もう近くまで来ているのか。アキラ。どうする? 彼女も連れて行くのかい?」

「……随分と鈍感だな。今のやりとりを見て察せないのか?」

「キミの口から聞きたいんだ。その答えは、キミの決心でもあるからね」

「もちろんだ。()()()()()

「了解した」


 その返事を皮切りに、アキラと優梨の身体が薄い青の粘膜に包まれる。

 いや、これは粘膜というよりも、それ以上に優しい何かだ。


「これは……?」

「ゲート。キミ達を次の世界へと連れていく扉さ」

「扉? これが?」

「アキラの想像している門ではないよ。この青こそ異界への扉。キミ達の身体を粒子化して次の世界へワープするのさ」


 扉も入れりゃ形次第ってか。

 近未来的というかなんというか。使っている技術が科学ではない以上、言葉は合っていないのかも知らないけれど。


「カセアキラ!」


 仮面の某だ。

 アキラを追ってきたようだが、最早手遅れに近いだろう。何せアキラの身体は半透明になっている。

 身体の全てが透明になり、この世界での意識がなくなったそれが次の世界へ飛ぶ合図なのだ。


「……」

「待テ……待って! 行くな、カセアキラ!」

「っ…………」

「アキラくん?」


 半透明になり意識も薄れゆく中で、アキラは唇を噛んで意識が途切れるのを耐える。

 何故だか。この仮面野郎には、言わなければならないことがある気がしたから。残した未練の欠片が、こいつにあるような気がしたから。


「……俺は! 絶対、帰ってくる!」


 この叫びは未来への決意だ。

 そして過去への花向けとする、心からの雄叫びだ。

 アキラは我武者羅になって叫び上げる。


「このマグナデアに、絶対に帰ってくる!」


 叫び、思い出す。

 昨夜の約束。俺と彼・女・の間に交わされた約束を。あの仮面の魔力を浴びて、ふと思い出し、頭で考えるよりも先に口が動いた。


「言っただろうが! もう忘れたのか!? 俺は何があっても此処に帰ってくる!」

「……」

「魔王だろうが何だろうが、お前にあったことの清算も付けてやる! だから待ってろ! 俺の居場所はもう、お前の所にしかねえんだから!」

「……っ!」


 


「返事をしろ! ()()()()!」



「はい! ()()()!」



 仮面が外れ、ずっと見えなかった中の顔が覗く。

 あーあ。すっかり顔がやつれてるし、火傷や切り傷で大変なことになってら。可愛い顔が台無しじゃないか。

 何があったのか知らないし。また今度会う時にでも聞かなきゃいけないな。リーシャの、唯一の主人様として。


「それじゃあ! 行ってきます!」

「行ってらっしゃいませ、主人様!」


 その言葉を最後に、アキラの意識は闇へと消えた。



ーーー



 アキラ達が消えた戦場より遠く離れたカプアの冒険者ギルド。

 その場にいる誰よりも遅く生まれ、その場にいる誰からも可愛がられる幼子が、何かの気配に気付いたかのように。

 否、大事な人の気配が消えたことを察知するかのように明後日の方角を向いた。


「パパ?」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


        そして次の物語へ


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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― 新着の感想 ―
魔剣錬鉄の時点でだいぶ違和感持ってたけど魔王ってリーシャだったの? …頭混乱してきた。 何で世界に同じ人が2人いるんだよ… ????????
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