72話 土の下にて御座候
「やっぱチートってすげぇな……」
何もない【楽園郷】の中にて。
アキラは積もる屍の山に座り込んで左手の甲を見た。……
「最初っからこの力持っときゃ、あんな苦労はしなかったろうなァ」
翳すように、手の甲を左目の瞼に当てる。
昔のアキラからしたら、この力は棚から落ちてきた牡丹餅のような物だ。
腐っているかもしれないが、それでも有用性だけは絶対にある。それは今この力で証明した。
「……ふぅ。まぁ、雑兵相手の集団戦では、バカみたいに強いからいっか」
屍の山から降りる。
スタンと音を立てた靴は新品も同然。ズブズブと地面に陥没していく死体の山を背にして、アキラは右目を輝かせる。
「欠点は魔力の消費量かな。一回使うだけでドッと疲れる……」
魔眼とは得てして魔力を使う物だが、【楽園郷】のような結界眼は使う魔力の量は桁が違う。
結界という大規模魔力術式を展開するだけあって、大人数の視界上書きや世界への魔力浸透等、魔力を使う部分は多く存在する。
一回結界を展開するだけでも、少なくとも魔法を2桁回以上使ったくらいの疲労になる。
「リーシャは上手くやってるかなぁ……」
リーシャも負けず劣らず魔力を使用する。
その分上乗せされる高火力だ。隙がない。
あそこにいた雑兵を【楽園郷】に取り込み、強いやつだけ残してリーシャに戦わせた。
魔力量的に多少強いとは思っているが、リーシャが出せる火力には対抗できないだろう。
「問題は、今この瞬間に撃ってるだろう魔剣に巻き込まれないかだな」
それが一番怖いまである。
威力によっては俺が消し炭として残らないほどだ。そんなの受けたくない。フレンドリーファイアにも程がある。
「……戻るか」
数秒程経った後、アキラは覚悟を固める。
ここに立ってても時間と魔力を費やすだけだ。こんだけ待てば、流石に出力は終わっているだろう。
アキラは瞼を閉じ――
――
――開いた。
そこは既に荒野だったが、音がしないところを見る限り決着はついたのだろう。
良かった。巻き込まれなかった。
しかしリーシャの姿が見えない。
こんなに地面が抉れているなら、魔剣を起動できなかったなんてことはないはずだが。
先に帰ったのか? いや、まさかなぁ……あのリーシャが俺に一言も断りを入れずに単独行動するかぁ?
あるとすれば他の戦場からの救援要請が入って、致し方なく先に他へ走ったという説だが……うーむ。
「他の所に行ってみるか? ここは全然大丈夫そうだが……ん?」
ぐるりと辺りを見回したところで、黒焦げになった腕が落ちていることに気付いた。
「うわ、えっぐ……バラバラ死体かよ」
よくよく見れば色々と転がっている。
引き裂かれた胴体、目、右脚、膝。
死んだ生き物は屍になるが、それでもこんな無惨な死というのは浮かばれない。
せめて土葬でもしてやろうと操術を展開する。
……しかしこの死体損壊の原因は何だったのだろうか。
リーシャの魔剣は『斬る』ことには長けているが、ここまで『断つ』ことには長けていない。
そもそも肉が焼けている時点で、この死体はリーシャの攻撃によるものではないことは明白だ。
誰の攻撃だ?
ここに戦ったリーシャは何処へ行った?
「……っ」
嫌な予感が脳裏に過ぎる。
一刻も早くリーシャの顔が見たい。この予感を否定したい。何処だ、何処へ行ったんだ。
「リーシャ!」
探し出さなければ。
早く、探し出さなければ。
絶対にいる。生きている。生きている、はずだ。
ザッザッ。足音だ。
右と左の足で土を踏む音。
一瞬、リーシャのだと思った。しかし、すぐに違うと勘づいた。リーシャは、そんなに大きな音を立てない。
「……誰だ、テメェ」
背中越しに問うてみる。
斬られるならそれまで。反撃に転じて倒して……いや、殺してみせよう。
殺してくるなら敵だ。リーシャのいない理由なのかもしれない。ならば殺す。即刻殺す。容赦はしない。
「……ふむ。やけに殺気立っているな。誰か身内でも殺されたか?」
「…………」
「失礼した。名乗るのが先であるな」
背後を振り返り、アキラは驚きで目を剥いた。
「っ!」
「我が身は『暴虐』のゼラード。魔王軍の将の1人……だった者だ」
「…………だった?」
身体の右腕の骨は露出し、肉は剥がれ落ちている。もはや立っているのが不思議なほどに酷い有様だ。
すごい生命力だ、と褒めてやりたい。……今みたいに、敵として相対していなければな。
「我に敵対心はない。あったとして、見ての通り戦う余力はない」
「…………仮にも、テメェは俺の敵対勢力だってことを忘れんじゃねぇ」
「それもそうだな。では話が終わり次第、我が首を即刻刎ねるがいい。それで話を聞くのならば安いものだ」
「……何が目的だ?」
俺を落ち着かせようと色々献策してくるが、狙いがわからない限り殺意を隠すことはできない。
油断して殺されるのが一番怖いのだ。大地に俺の魔力を回しつつ、いつでも大規模な操術を展開出来るように準備する。
「我が身は武人の心意気を買っている。貴殿の従者もまた然り」
「やっぱテメェがリーシャと戦って……!」
「――伝言だ」




