71話 「 」
気付けば更地。
踏み固められた芝の下の土も地上に抉り出され、まるで坑道を掘った後のように大地が禿げていた。
その中に立つのは1人。砂埃が周りを囲む中で、リーシャは剣に付いた埃を払うように剣を一薙ぎする。
「ふぅ」
溜め息を一つ吐き出す。
魔剣を使う際は魔力を大量に使う。魔力使用と疲労はイコールだ。全力で振るった力の代償は大きい。
ドッと肩の力が抜ける程度にはリーシャが込められる力の限度は落ちていた。
「流石に疲れました……この後保つでしょうか」
しかし手応えはあった。
『暴虐』だか『謀略』だか覚えてないが、あれだけの威力を喰らえば今や消し炭だろう。
『憤怒の剣』は『威力』に特化した力。真正面から喰らえばどれほどの防御力を誇っていようとも耐えきることは不可能だろう。
「周囲の敵も一網打尽にしましたし……さて、後は主人様の帰りを待つとしましょうか」
「悠長にしてて良いのか?」
それは消えたはずの声だった。
砂埃の中から付いた埃を落としながら、悠々とした態度で歩いてくるザラードの姿だった。
「っ!」
「成程。貴様が『湖光の剣』だったか、それは失礼したな。上玉どころの話ではないらしい」
「何故生きている……」
「対策をしていたからに決まっているだろう」
『威力』への対策?
馬鹿な。そんな物は不可能なはずだ。
『全てを上回る概念攻撃』。
対立相手がどれだけの攻撃力、防御力を誇っていようとも、それを瞬時に計算し、それを上回る数値へと力を変換する。
主人様の言葉を借りるなら、ちぃとだ。
対策しようがない。
搦手か? 相殺か? いや不可能だ。
全てを上回る攻撃が、そんなものに負けるわけがない。
「何をした……!」
「言うわけがないだろう。奥の手だぞ?」
心の中で強く舌打ちする。
全力を出してしまったのだ。余力は少ない。
『憤怒の剣』対策をしているという相手に、何か勝てる手段はあるのか?
「勝機……ないですね」
調子に乗っていたのかもしれない。
主人様と出会ってから出会う相手には連戦連勝。今回も主人様発案の戦闘ならば大丈夫と、何処か心の中で傲慢になっていたのかもしれない。
「……これは、わたしの怠慢ですね」
「何を声音小さく言っている。さぁ、死合おうではないか!」
「わたしでは貴方には勝てないと言っているのですよ。今の攻撃で全力を出して疲れました」
「なんだ、つまらん」
ゼラードは構えた剣を降ろした。
興が冷めたようにリーシャを見る目も冷え切っていた。
「では死ぬか? 我は生きる屍と話したくはないぞ」
「そうですね……生きる屍すらも再度死ぬのが戦場の常なんでしょうが……まぁ、そんなに焦らず話をしましょう。今はわたしも生きてますしね」
「今はな。貴様の生殺与奪の権は我が握っていることを努々忘れるな。我も『湖光の剣』の話には興味がある」
リーシャはへらへらと笑って近づく。
ああ、つくづく思わされる。権力者に頭を垂れず、どんな状況下にあっても自我を見失わない。
最初に会った時と変わった彼は、日々の努力を怠らずに権力とは違う方向で力を付けた。
そして彼は、何処までも彼だった。
そんなあの人に似てしまった。
「……なんのつもりだ?」
「生殺与奪の権利なんて、互いに握り合っているんですよ。戦場なんて、そんな物でしょう?」
剣の鋒を突き出し、ゼラードの心臓に近い皮膚に突き刺す。
暗殺。
アキラに聞いた話の一つ。アキラの故郷の英雄の話、ヤマトタケルがクマソを倒した時の話を参考にした。
簡単に倒せないなら、簡単に倒せる状況を自前で作り出す。それがこの話の教訓なのだろう。
これで倒せないなら仕方ない。
フィリアさんの所へ逃げ帰るか、或いは…………
「そうか。なら死ね」
抜き放たれた剣がリーシャに肉薄する。
しかしリーシャの表情は一つも変わらない。
いや、むしろ口角が上がっているようだった。
「……っ」
魔剣を起動させる。
どんな魔剣であろうとも、構造は全て似てるものだ。魔剣は使用者の魔力を体内から吸い上げ、その構造内に組み込まれた能力を起動させる。
その魔力を意図的に逆流させる。
すると吸い上げる魔力と、逆流させた魔力がぶつかってしまう。どうなるか。
魔力摩擦による爆発反応が起こってしまう。
リーシャの体から発される光に気付いたのか、ゼラードが眉を顰めてリーシャを見る。
「わたしの魔剣を防げるなら、ただの爆発くらい防げますよね?」
煽るように言ってやる。
油断大敵。伏兵は何処に潜んでいるかわからない。
逆を言うと、伏兵は隠してしまえば出てくるまで敵にはバレないのだ。
奥の手を使って切り札を相殺されるなら、こっちも奥の手を使って相打ちに持ち込む。
「自爆か……!」
「冥土には貴方も連れてきます! 貴方はアキラさんの、邪魔です!」
「目標達成です、アキラさん」




