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Q.平凡な高校生は異世界で生き残れるのだろうか?  作者: 光合セイ
第一部マグナデア編

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68話 前処理

 いきなり「英雄になって」なんて言っても、まともな感性の働く人間には何を言っているのか分からないだろう。時間が惜しいが仕方なく、リーシャには一から説明することにした。


 ぽつぽつと早口に捲したてる俺の説明を聞いていたリーシャは、眉はおろか顔すらも顰め――


「……仕方ないですね」


 不承不承ながら引き受けてくれた。


「良いのか?」

「頼んできたのは貴方でしょう?」

「いやでも、こんな簡単に受けてくれるとは思わなかったからさ。もうちょっと抵抗するかと思った」

「わたしは貴方の奴隷ですから、拒否なんてしませんよ」

「……まったくお前は俺には勿体ないくらい良い奴隷だよ!」

「わたしは貴方以外には良い奴隷になりませんよ」


 嬉しいことを言ってくれる。百腕巨人戦以来、かなり距離が近くなった気がしていた。

 どうやらそれは思い違いではなかったらしいな!


「他の主人と違って報酬も出ますしね!」


 思い違いだったようである。銭ゲバエルフめ。せっかく立ち震えた俺の興奮と感動を返せ。

 全俺が泣いてたんだぞ。みんな素面になったわ。


「それで、どうするおつもりですか? 相手は大地をも蹂躙する魔王軍。しかも飢えに飢えた精鋭揃い。勝てる見込みは無さそうですが」

「それに関しては考えがある。謀略ってか力技だけどな。操術師としての本領を見せてやるよ。だから心配すんな」

「そうですか。では、わたしはどのようにして英雄になると? 貴方に獲物を持っていかれそうで怖いのですが?」

「安心しろよ。お前には1番輝いてもらわないと困るからな。ステージは俺が作る。それ込みで大軍は何とかする」

「無茶はしないでくださいね」

「たかだか獣五万匹。多くても少なくても関係ないよ。どうせみんな脳筋だ。()()()()()()()()


 そう言って笑う俺の顔を見て、リーシャは表情を固めて目を見張る。

 まるで何か不吉なものを察知したかのような億劫な表情になり、天を仰いで目を逸らした。


「安心しろ。最後に俺もお前も死なないし死なせない。ただ、一つの物語が終わるだけ。そして英雄が王都に凱旋するだけだ」

「本当、ですよね?」

「信じないのか? 悲しいなぁ。俺はリーシャに嘘を言ったことはないはずなんだけどなぁ」

「……っ。うそ、ばかりでしたよ。あなたは……!」

「あれ、そうだっけ。でも安心しろ。俺は絶対に帰って来る。何があっても、仮に死んだとしても。俺はお前のところに帰って来るさ。俺は棲家は此処だからな」


 俺がポンと肩を叩くと、リーシャは顔を上げる。

 そして俺はリーシャに驚愕する。


 泣いていた。

 眦に涙を溜めていた。


「貴方には感謝をしても、恩を返しきれないんですよ。だから、全部返すまでは、わたしは貴方から離れることは有り得ません」

「え、あ、そう……なの?」

「そう、なんです! だから一生一緒にいてほしい……って言うのは個人的な我儘ですから抑えます。けど、周りの人間を不幸にするのはやめてください」


 あくまでも自分のためではない。そう言い張っているリーシャは、まるで玩具を取り上げられた子供のようだった。


「わかった。肝に銘じておく」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 夕闇が帷を下ろし切った深夜。

 俺の部屋のドアを叩く者がいた。

 王都の周辺地理を頭に叩き込んでいた俺は、唐突な訪問に「栄光派か?」と警戒しながら反応する。


「……誰ですか?」

「シャルロッテです。起こしてしまいましたか?」

「ああ、いえ大丈夫です。今開けます」


 そう言って扉を開いた。

 扉を開いた俺は、まず驚愕した。

 いつもの王女様風のドレスではなく、薄桃色のネグリジェのあられもない姿で立つシャルが……


「し、シャル様!?」

「毎度言っていますが、様はやめてくださいよ。アキラさん」

「い、いえ、何処で誰が聞いてるかわかりませんし……」

「大丈夫ですよ。その時は私が味方します。だから敬語で話さないでください」

「……わかりまし……わかったよ。シャル」


 俺がそう言うと、シャルは笑う。

 まるで「それでいいのです」とでも言うかのように、上からなのか下からなのか目線の位置がわからない。


「えっと……それで、御用件の程は……?」

「少し聞きたいことがありまして……長くなりますし、入ってもよろしいですか?」

「あ、いえ、今少し部屋は散らかってるんで……」

「ふふふっ。異世界の方々は部屋の綺麗さを重視しているのですね」

「まぁ、お客様に失礼ですからね」


 方々……と言うことは、他のクラスメートの部屋にも行ったことがあるのか?

 何をするために? 目的はなんだ?


「取り敢えず、少しだけ待ってくれ。すぐに片付ける」

「手伝いますよ」

「いえ、お姫様の手を煩わせるわけにはいかないよ」

「遠慮しなくてもいいのに……」


 シャルの少しだけ残念そうな声を聞きながら、俺はかつてないほどの速さの片付けを開始した――!



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