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Q.平凡な高校生は異世界で生き残れるのだろうか?  作者: 光合セイ
第一部マグナデア編

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66話 国王の進言

「お前、本当に嘉瀬なのか? 偽物じゃないんだよな!?」

「そう言ってるだろ何回言わせるんだ」


 西門に魔族の影が無くなったのを確認し、俺達は王城へと入城した。二日間の長距離移動と《楽園郷》の行使による反動で心身共に疲れ切っており、一条の質問攻めにも適当に返す中、一条達のお守りをしていたらしいフィリアさんは片膝を付いてベール王に状況の報告をする。


「東門、西門に配備されていた魔族の侵攻は食い止めました。しかし北門からの侵攻は未だ止まず、『黒衣の勇士(クラン・ダウ)』の助力もあり拮抗していますが、やや劣勢との報告が上がっています」

「……相分かった。マルガスは親衛隊の者達にも出陣の用意をするように、サイコスは宮廷魔導士達に隊を二分割して東門と西門に配置するように伝令せよ。南門を攻めるだけの余力はないはずだ。後回しでいい」

「「御意」」


 相変わらず、テキパキとしている。

 フィリアさんの隣で、フィリアさんと同じように片膝を突いていた2人の宰相は、足早に玉座の間から出て行った。

 ベール王は2人が出て行ったのを確認し、こつんと玉座の背もたれに頭をぶつけてから、頭と話題を切り替えた。


「さて、フィリア殿。貴殿には報酬を払わねばならないな。ソフィアの護衛に百腕巨人の討伐。果ては魔王軍の裏取りによる南門侵攻の阻止。払い切れるかわからないが、私に出せるのであればなんであれ出してやろう。何を望む?」

「私は特に――」

「ならん。有能な者に恩を売るのも王の資質を問われるのだ。儂を愚王にさせないでくれ」

「……では――」


 ……悩むなぁ。ちゃっちゃとお金とか言えばいいのに。それか新しい防具とかいいんじゃない?

 と勝手に脳内で言ってはみるが、おそらくフィリア・グラムハイドと言う女性は、物を欲することに慣れていないのではないかと思う。でないとここまで協力したりはしないし、冒険者であれば己の命惜しさに進んで前線に出て行かないだろう。


 天然の英雄気質、とでも言うのだろうか。彼女は彼女に期待する者の声に応え、それだけを理由に今日までの道のりを歩んで来た。したがって彼女は何も欲さず、何も必要としない。自分で全てを出来てしまうが故に。


 俺の妄想や空想でしかないが、今のフィリアさんを見ていると、どうにもその妄想がハマってしまう。


「…………」


 チラリと此方を見た気がした。視線が合ったわけではないが、チリと目元が疼いたような気がしたのだ。フィリアさんは一瞬だけ俯いて黙り込むと、エメラルドグリーンの視線をベール王の視線に合わせた。


「……では、優秀な宝石彫刻師をば」

「宝石彫刻師? 寿ことぶきの予定でもあるのか?」

「いいえ。けれど、送りたい人達がいるのです」

「……わかった。我が国随一の彫刻師を用意しよう。他にはないのか? この程度では足りないぞ」

「申し訳ありません。私には思いつかないのです」

「そうか。ならば思い付いた時に言うといい。貴殿の望みであれば儂は出来得る限り尽力しよう」

「有り難く存じます」


 畏まって礼を言う。それで話は終わったのか、ベール王はうむと頷いて今度は此方を向いた。


「うむ。……次は貴殿だ、カセ・アキラ殿」

「あ、はい」


 懐疑的な視線だ。死んだだのいなくなっただの言われていた人物が、五体満足で生きて帰還してくる。しかも魔王軍侵攻と言う最悪のタイミングでの話なのだ。魔族からの間者として怪しまれるのは当然だろう。


「貴殿はカプアとカゼルタの間で行動していたそうだな」

「そうすね」

「フィリア殿の話によれば、百腕巨人討伐の折にも協力していたらしいな」

「まぁ、はい」

「……何故だ?」

「何故、とは?」

「貴殿は百腕巨人と戦い、戦果を上げたと聞く。操術師は本来戦うこと自体が不得手であるはずだ。報告によれば貴殿は、今や死刑囚の身として服役している『七罪』に攫われていたにも関わらずだ。であるのに何故、百腕巨人との戦いに挑んだ?」

「…………」

「嘉瀬?」


 一条が怪訝な声色で問うてくるが、俺がそれに応えることはなかった。ベール王の問いの意味がわからないわけではない。ただ単純に、


「率直に言うとな。儂は貴殿が怖いのだ」


 ベール王は虚空に向けて独白する。


「あの迷宮散策の折にいなくなったのにも関わらず、わずか数ヶ月で百腕巨人をも倒せるほどの力を付けてくる操術師など言語道断の事ども。しかもフィリア殿に気に入られるどころか、彼の『湖光の一族』と共に帰ってくるなど正気の沙汰ではない。胃に穴が空くような思いで報告を聞いておったよ。――――貴殿は、何処まで力を付ければ気が済むのだ?」


 ……王者の貫禄とでも言うのだろうか。少し凄まれただけで俺の体が怯んだ。まるで蛇に睨まれた蛙のように、体が石化しまかのように動かない。けれど、答えは明白だった。俺は閉じた口を必死に動かして、取り繕うことなく自分の考えを伝える。


「己が命を守れるようになるまで、ですかね」

「であれば、もう充分だろう」

「いえ、俺よりも強いヤツは沢山いますので」

「そうそういないと思うが?」

「いいえ。それは井の中の蛙の意見ですよ、ベール王。この世界には知られていない強者は存在します。いつ、そいつが俺や俺の仲間に矛先を向けてくるのかわからないのです。であればそいつよりも強くなろうとすることは、若輩な者として当然の行動なのですよ」

「ほう? やけに饒舌だな」

「ええまぁ、この数ヶ月で俺よりも強いヤツと何度も戦った上での自分の考えを言語化しただけですので」


 青いな、とベールは思い吐き捨てる。

 考えていた言葉をそのまま言った。そこには確かに嘘や偽りは存在しないのだろう。脳内の言葉を言語化した、と言う部分が本当なのであれば、彼奴の言葉は信用に足る言葉なのだろう。


 しかし臭くはない、ともベールは断ずる。

 彼奴の話した内容が真実であるのかを、神でもないベールはわからない。むしろ怪しむのが当然の結露だ。しかし彼奴の瞳は、嘘を吐くにはあまりにも澄んでいた。この瞳で騙された日には、全ての者を疑わざる負えなくなるだろうな。


 国王たる自分の心をも揺さぶる一つの真実。それを言い放った子供には、少しばかりの敬意を抱いてもいいのではないだろうか。専制君主制の国の王たる自分が、こんなことを考えるのは可笑しなことであるが。


「クっ……」

「……? 如何されましたか?」

「――いや、すまなんだ。貴殿がなかなか面白い答えをしたのでな。つい笑ってしまったよ」

「道化を演じたつもりはないのですが」


「貴殿は十分演じておるよ。たとえそこに意思があろうとなかろうと、今を生きているだけでな」



ベール王のローマ字での綴りは『Veil』。

つまりベールではなくヴェールが正しい読み方なのですが、本作では読みやすさを考えてベールを使っています。

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