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Q.平凡な高校生は異世界で生き残れるのだろうか?  作者: 光合セイ
第一部マグナデア編

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Side.B 我が一撃は七つ在りて

 あれから4日の時が経った。

 ベール王は未だに勇者召喚の報告をせず、自陣の最大戦力たる勇者を王宮内に隔離しており、戦況としては王国軍が押され気味の状況が続いていた。


 しかし未だに魔王軍が攻め切れていないのは、王国各地の戦場で散見される、所属不明の『黒衣の勇士(クラン・ダウ)』による活躍が大きい。

 確認されている人数は、全部で21人。皆一様に仮面を被り、素顔も名前も晒さず、しかし全員が似たような黒衣を纏った、少数精鋭で魔王軍と対峙する匿名の英雄達だ。


 何も知らない王都在住の民衆からして見れば、降って湧いたような希望の光であり、同時に素性がわからないことで、今度は自分達にその牙が向くのではないかと言う恐ろしさを兼ね備えている。



 しかし一条は、そんな変な呼ばれ方をされていると露も知らずに、魔王軍を相手にすると言う矜持に駆られていた。四方に連なる王都の入退門を、煉瓦造りの屋根伝いに移動する。


「一条くん! 今度は西門から来てるみたいだよ! 鈴木くん達と合流して!」

「わかった! すぐに向かう!」


 情報の精査を任せているクラスメートの声を聞きながら、一条は黒煙の立ち昇る西へと向かう。

 その最中に見えるのは、未だ眠らない、あるいは眠れない民家から溢れる蝋燭の光。それを見て一条は郷愁の念に駆られるが、頭を振って思いを吹き飛ばし、眼前に迫る敵に視線を配る。


「ウオォオオォォォォ!!」

「ギャギッ!?」


 およそ生き物と形容し難い紫色の魔物を、咆哮を一つあげるとともに切り捨てる。勇者の力が強まっているのか、剣の切れ味が今までよりも格段に上がっている。ともすれば、魔物の肉片であれば断ち切ることは容易だ。

 切り口から溢れ出す鮮血に、ゾッとした恐怖感を覚える。それを気力とプライドだけで捻じ伏せて、ぐっと前を見る。


 百鬼夜行もかくやと言う勢いで、魔物が次から次へと迫ってくる。当然それに対抗するように、マグナデアの衛兵達が応戦し、人間と魔物が折り重なった死屍累々の山が築かれる。


 一条が剣を振るうと同時に、背後から唯ならぬ殺気を感じ取った。背後を取られていたのだ。視線を流せば赤色のオーガが、斧剣を振りかざし、人間憎しと一条の首を狙っていた。


「その首、貰ったァァ――――ッ!」


 虎視眈々と狙っていた成果が出たのか、嬉々とした大声をあげて斧剣を振り下ろす。剣を振りかざした衝撃で、一瞬の硬直時間を奪われた一条は反撃することができない。


「――させるかよ、ボケ」


 故に、誰かが助けを入れる。

 オーガが放った殺気は、さらに若い男の声によって遮られ、声の主の絶命と共に泡沫のように消えていった。オーガの赤い屍の頭蓋を割るように、槍の矛先を脳天に突き刺す――――仮面を被った茶髪の男。


「オウ、大丈夫か一条」

「……鈴木か。すまん、そっちこそ大丈夫か?」

「ちょー余裕ヨユー……とは、言い難ェな。見ての通りの有様で、少しずつだが士気が下がってる」

「こんな状況、だもんな……仕方ない、か」


 勇者として召喚された補正故か、グロテスクな物、外的脅威に対する恐怖心と言うものが薄れている。そのお陰か、この地獄のような有様に対して何の感慨も憤慨も覚えない。究めて冷静だ。努めて沈着だ。故に、盤面の把握が遅れていた。


「手分けをしよう。二分割して鈴木がそっちの半分、俺はこっちの半分を引き受ける」

「わかってンよ。まぁ、もしかしたらお前よりも多くなっちまうかもしれねェけどな」

「フ。なら競争だな――行くぞ!」


 背中合わせに走り出す。

 走り出す2人の人間じんかんに出来た直線上に、自前の得物を持って立ちはだかる魔物や魔族に突貫を仕掛ける。

 一条の振り翳す剣が魔族の体を抉り、ワインのように鮮やかな心血を飛び散らせる。鈴木の振り回す槍が魔族の体を貫き、勇者の圧倒的な筋力でハンマーのように魔族の五臓六腑を鋭利に砕く。


 まさに戦場。善悪の基準が存在せず、敵も味方も互いを殺し合う殺戮兵器と化して、縦横無尽に戦場を駆け巡っていた。その渦中で光り輝くのは、やはり勇者であった。


 誰よりも自分の力を過信して、誰よりも暴力的に暴れ回る2人の勇者は、近づいてくる魔族も、逃げる魔族も関係なく、全てを射殺さんとばかりに得物を振り回す。


 息を切らす。疲れてきたのだろう。体力は無尽蔵にあるわけではない。そのこともわかっていた。そろそろ引き際だろう。一条が鈴木に言おうとした――――その時だった。


「――――ォォォォ、!」


「っ!」


 咆哮が、聞こえた。


 かつて対峙して来たものよりも遥かに巨大で、強力な存在の咆哮。ヒステリックな叫び声にすら聞こえる、何かが喉に引っかかっるような厄介な大声。


 息を呑んだ音がした。

 それは一条のものか、鈴木のものか。はたまた魔族のものだったのか。しかしそれに答えられる気力を持つ者は、この場には存在しなかった。


 誰も彼もが空を見上げ、降下してくる存在に目を剥いている。


「ドラゴン、ゾンビ……」


 ヒューズ団長が言っていた。

 『死者には気を付けろ』と。


 曰く、死者は死なない。いや、もう死ねない、と言うのが当て嵌まるだろうか。霊長類から昇華され、魂のレベルが精霊に近いものとなっている死者は、存在そのものが精霊の域に達している。そのせいで神秘濃度が高まり、外的要因による殺害が不可能になる。つまり、疑似的な不死者と化すのだ。

 故に死者は生前の力を保ったまま、体力を気にすることなく……気にする余力もなく、ありのままの自分を曝け出して暴力を振るうことが出来る。


 ましてや、ドラゴンと言う存在は、動く屍(ゾンビ)と化すには、あまりにも危険すぎる存在だ。

 力だけで考えればこの世界の頂点に君臨している。

竜殺し(ドラゴンスレイヤー)と呼ばれる英雄が、ドラゴンを狩って回っていると吟遊詩人に伝え聞いたことがあるが、それは噂に伝え聞いただけの話。この国にいるとは思えないし、そんな都合の良いことがあるわけがない。



 だからこその――――死の恐怖。



「……ははっ……」


 もはや笑えてくる。引けば地獄。引かねば地獄。どちらを選んでも後悔の残る未来しか見えない。


 ここで引けば自分の命は助かるだろう。しかし自分が通した先にある、無辜の民草の尊い命はどうなる。

 ここで引かねば時間は稼げるだろう。しかし力尽きた時、未来の自分は最期に過去の自分を呪うだろうか。


 不意にバンッ! と背中を叩かれる。


「テメェが怖がってンじゃねェ! 勝てば良いだろうが!」


 勝てば良い。言うだけなら簡単だ。

 勝機はない。根拠もない。けれどやらねばならぬと、心の奥底で何かが叫んでいる。しかして勝たねばならぬと、魂がそう告げている。眦を下げて屍竜を睨み、地面に落とした剣を、穂先を下げた槍を、2人の勇者は各々の得物を構え直した。


「――行くぞ!」


 声を上げ飛び出そうとした、その瞬間――――





「《剣閃花(フルール)》」





 ――一陣の剣風が吹き荒れた。



「な――――っ?」


 花火のように竜の顔が弾ける。

 それがさも当然のことのように行われた、思いも知れないえげつない行為。顔面が破裂したように抉られ、完全に視界を失い前に倒れ込む屍竜よりも、一条達はそれを成し遂げた()()に視線は吸い寄せられた。


 一人の女性が頭から落ちてくる。

 剣を鞘に収めながら落下してくるのは、鋼色の騎士甲冑とマントで身を包んだ一人の女性。くるりと空中で一回転をして、音も立てずに着地した()()は、背後で唖然とした表情を浮かべる一条と鈴木に目を配る。

 

「イチジョー様、そしてスズキ様ですね? 戦闘中申し訳ございません。お迎えにあがりました」

「あ、貴女は……?」

「申し遅れました。私はフィリア・グラムハイド……ドラゴンスレイヤーと、そう呼ばれています」

「……アンタが、あの英雄譚の」


 鈴木が驚愕と感嘆で思わず声を洩らす。

 都合の良い展開なんてあるわけないと、そう断言していたが、どうやら天の思し召しとは気まぐれなようだ。


「ソフィア姫がお待ちです。御二方には御同行を――」


「ォォォォ――――!!!!」


 屍竜が吠える。

 まるで面目を潰され、傷つけられたグリフォンのように。フィリアの背後に聳える大入道の如く、口に溶液のブレスを含んで、壊れた機械として暴れる準備を始める。


「グラムハイド……70%」


 臨戦態勢の構えを取った2人の勇者とは違い、竜殺したるフィリアは落ち着いた表情だ。背後の屍竜に一瞥をくれてやることもなく、腰に携えた剣の柄に手を掛ける。




 刹那の間、時が止まった。




 眼前に迫る屍竜の咆哮は止まり、構えを取った勇者2人も息を呑み込んだ。故に、止まったのは自分達の間だけだと確信した。

 動いているのは止めた本人(フィリア)だけ。スラリと軽やかに剣を抜き放つと、視線を天に向けて鈍色に光る刃を見る。


 振り下ろす。


 その一工程動作(シングルアクション)だけで、この戦いとも言えない攻防は勝敗を決した。屍竜の身体は見るも無惨に砕け散り、陳鉄の完了を此処に宣言した。


「私は触れる全てを断つ。……あまり、触れない方が良い」


 『憤る魔剣・70%(セブンティグラム)

 そう呟いた彼女の眼前では、七つの爪痕が大地を抉り取っていた。舞い散る肉片は赤黒く汚れた雪のように、美しくも鮮やかに世界をグロテスクに彩る。


 まるで神話の世界から出てきたかのような英雄の神業かみわざに、2人の勇者は今度こそ息を呑み込み、そして安堵とともに吐き出した。

 そしてわかった。理解した。この人だけは、敵に回してはならないと。敵に回したら最後、肉も骨も何もかもを全て断たれ、片すら残されずに殺されてしまうと。


 彼女は無表情のまま此方を向き、そして艶やかな赤い唇を開き、2人に戦闘終了の合図を告げる。


「御同行を願います。急ぎましょう」



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