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Q.平凡な高校生は異世界で生き残れるのだろうか?  作者: 光合セイ
第一部マグナデア編

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Side.B 侍と殺人鬼

 マグナデア王国本土。

 人間陣営本拠である王城。

 そこには異世界から召喚された勇者が、世間の目から隔離されており、彼らは第三次人魔大戦に向けた育成を施されている。

 育成のカリキュラムは豊富で、戦闘訓練や座学のみならず、近接や魔法に分けた人類の用意できる最高レベルの訓練や、今や死刑囚を相手にした実戦訓練も施されていた。

 この死刑囚を相手にした訓練と言うものが、日本で平穏な生活を送ってきた勇者からしてみればかなり刺激的で、初日は嘔吐するものや目眩を起こすものだけならまだしも、自ら辞退する者も出てくるほどに壮絶なものとなった。


 勇者の存在が未だに隠匿される中で、死刑囚にとっては誇りある死だとされており、この刑罰を望む者も後を絶たないが、しかし勇者かから必要とされていないため需要が追いつかない。


 しかしその中でも勇猛に戦いを続ける女の子が一人、殺人を躊躇う勇者の中にいた。


「ハァアッ!」


 女の子の名前は早乙女さおとめ彩花あやか

 元の世界で「サムライ少女」と呼ばれた、勇者随一の剣の使い手である。彼女の振るう剣先が、相対する男の心臓を貫き、男は痙攣してから瞳孔に光を失くし、泡を吹いて絶命する。

 それを見届けた彩花は、数秒ほど合掌し黙祷を捧げ、遺体が担架で運ばれていくのを見届けるのと同時に、次の試合相手を所望する。


「次! お願いします!」


 ガコンッと音が鳴る。

 囚人の入っている檻が開いていき、その奥に一人の少女が現れる。

 自分とそう年の違わない少女だ。ラテン系の顔立ちなのに、髪の色は日本人のそれ。何処までも深い漆黒の黒髪だ。服装は……いわゆる奴隷服だろうか。少しボロく汚れている。


「よろしくお願いします」

「……よろしく」


 挨拶を済ませると少女はスッと目を細める。

 その視線に彩花は背筋を凍らせる。歴戦の戦士の目だ。成人もしていない身で剣道を極限まで極めた彩花は、その異質さに驚愕する。

 怯んだわけではない。しかし身体が動かないのだ。怖くない。恐くはない。けれど、何故だか身体が動かない。


「来ないの?」

「……っ」


 資料によれば、彼女は連続殺人鬼らしい。

 この王都で男7人女2人を殺し回ったのだが、その後捜索に走る衛兵の目を掻い潜ってカゼルタなる街へと逃亡し、一人の少年を拉致して洞窟内へと立て籠ったのだそうだ。

 さらにその戦闘技術も一級品。突如として現れた巨大なモンスターを、その場に居合わせた剣聖や冒険者達と共に討伐したのだとか。


 彩花にとっては明らかに、今まで相対してきた囚人の中でも別格の存在だった。


 身体が震えるのは武者震いだ。その証拠に、身体で感じ取った強敵の予感で、口角が吊り上がってしまっている。

 彩花のその表情を見た少女は、頭上に疑問符を浮かべる素振りをしたが、なかなか動かない彩花を見て仕方ないとばかりにため息を吐いた。


「……じゃあ、私から――」


 一歩。

 強く踏み込んだ少女は刹那の時もおかずに彩花へと肉薄する。常人だったら反応すら出来ないであろうその踏み込みを、彩花は勇者補正か何かで強化されている動体視力のみで右へ逸れて避ける。


「残念」


 少女の胸元がキラリと光る。

 少女は彩花の回避を読んでいたのか、あるいは直感で感じ取ったのか、懐から三本のナイフを取り出して投擲する。


散弾小刀(ショットガン)

「……あぶ、」


 避けられない。

 そう思った瞬間に彩花のスキルが発動する。


「――ない!!」


 彩花の身体を灰色の魔力光が纏い、身体が意識外で思い描いていた体動を表現する。ザザっと崩れそうになる体勢を直す。三本のナイフは彩花から逸れて飛んでいき、何処か遠くの彼方へと消えてしまった。


(『大忍之具足(ヌキアシサシアシ)』……発動してくれて良かった)


 彩花が召喚当時に貰ったチートスキル。

 『大忍之具足』とはそのスキルの固有名である。

 『大忍之具足』の使用者が「避けられない」と判断するのを引き金に発動する半自動(オート)スキルであり、殴殺、毒殺、呪殺、どんな殺害方法であってもその殺人から回避できる、言ってしまえば回避の極地とも言えるチートスキルである。


「……うん。よく避けたね」

「スキルが発動してくれなかったら死んでたわよ」

「それでも良く避けたよ。殺す気でやったのに」


 くるくると放ち損ねたらしきナイフを手元で回して遊びながら、少女は感心したようにうんうんと首を縦に振る。


「それよりも……アンタ今、()()()()()()って言わなかったかしら?」

「うん? まあね。凄かったでしょ。私も初めて見た時すごく怖かったんだから!」

「……何処でその単語を?」

「ひみつ」


 人差し指を口に当てて片目を瞑り即答する少女は、ニッと口角をあげて笑って悪戯に彩花の心を擽る。


「どうしても、かしら」

「うん。どうしても。あの人との秘密の約束みたいで……すごく興奮する」


 ぼそっと呟かれた口は艶やかに色めき立っており、すぐに彩花は、この少女の恋愛事情のもつれだと悟る。

 何かがあったと同時に、おそらく地球人が関与しているのを悟った彩花は、事情を事細かく聞きたい反面、とても聞きたくないと心が叫んでいるのを感じ取って口をつぐむ。


「…………」

「どうしたの? もう終わり? これ、一応私の死刑じゃなかったっけ?」

「……そうなのだけれど、アナタには隠してる情報がありそうだし。このまま生かしておくのも良いんじゃないかなって思ってね」

「最低だね、お姉さん。人倫に反してるよ。殺るときはこう……一思いにズバッ! とやってほしいな」


 殺人鬼が何か言っていた。

 彩花は少女の冗談を受け流して、おちゃらけるその黒い瞳を自分の目と合わせる。


「けど、何かを隠してるのも事実でしょう? 墓の下に持って行く前に話しなさいよ」

「やだね。あの人の事は私は話さないよ」

「その()()()って言うのが気になるのだけれど……。まあいいわ。看守さんには言っておくから、まだまだ生きてなさいよ」


 そう言って剣を鞘に収める彩花に、少女は訝しげな目を向ける。「面倒事が増えた」とでも訴えかけているようだ。

 彩花の納刀を確認したのか、闘技場のスタッフがバタバタと此方へ駆けてくる。少女を捕まえにきたのだろう。


「ねえ、勇者サマ。貴女の名前は?」

「名を聞くのは名乗ってからじゃない? まあいいわ。私は早乙女彩花。職業は勇者よ。アナタは?」

「ティコ・シャンポール。職業は暗殺者。ねえ、たまには私の相手をしてよ」

「気が向いたらね」



 もつれて逸れて、平行線に流れていたはずの運命の糸が、侍と殺人鬼の出逢いによって再び絡まった。



Side.BのBは勇者(Braver)のBです。

アキラ視点の本編をA。

勇者視点の外伝をB。

クリス視点の単話をC。

ちょうど良い感じにABCになってます。

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