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Q.平凡な高校生は異世界で生き残れるのだろうか?  作者: 光合セイ
第一部マグナデア編

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59話 間違いと緩怠

「どうするかって、言ってもなぁ……そりゃあ行きたくないのが本音なんだが……」

「はい」

「命の恩義を返すのが、やっぱり礼儀ってもんなんだよなぁ……」


 俺は頭を抱える。

 背負うものが何も無ければ、守るものが何一つとして無ければ、俺はきっとその大戦へと赴いただろう。

 しかし俺は今や子持ちのパパである。彼女が生まれてからは、未だ一週間も経っていない。そんな子供を置いて戦争に出かけるなど、父親とあってらならない状況だ。

 あの子を父親の愛情を知らない子に育てるつもりはない。毛頭ない。まあ魔力()が繋がった母親が3人もいれば、そんなのも関係なく育つだろうが、それとこれとは話が別だ。


 だからこそ悩む。

 戦争は命のやり取りをする場だ。だからこそ、命の恩義のあるシャルのためには行ってやりたい。更に言えば、あの場で真っ先に俺の心配をしてくれた柏原さんにもお礼を言いたい。微かにしか覚えていないけど、俺の暴走を止めてくれた鈴木にだって恩義を感じている。

 しかし、俺だって死ぬかも知れないのだ。

 俺が死んだら、おそらくナズナに悪影響を与えるかも知れない。血の繋がった親子と言うのは、いつの世も、時代も、世界の垣根を超えても、そう言うものなのだ。


「少し考ぇ……」


 ……いや。

 この話を持ち帰ったとしよう。俺はきっと、リーシャに甘えてしまうかも知れない。ナズナの存在に甘えてしまうかも知れない。それはダメだ。

 考えろ。考えるんだ。俺が出すべき最善の答えを。

 俺は父親だ。同時に、返すべき恩義を貰った一人の操術師だ。家族か、恩義か。選ぶべきなのは……


「シャル」

「はい?」

「俺は……その……」

「行けないなら、行けないと言って頂いて結構ですよ」

「……すまん」


 手に取るのは、やはり家族だ。

 俺は父親として、この場に残り続けなければならない。それが親の情ってものだ。

 あまりにも情けない。元々腑抜けていたとは言え、意気地なしが更に加速している。


「……すまない」

「謝らないでください。それが貴方の選択なのですから、悔いないでください。悔いる時間があるなら、貴方は貴方の未来を考えてください。それが、今の貴方がするべき事です」

「ありがとう」

「いいえ。私は、個人的に貴方の事を気に入っていますから」


告白プロポーズかな?」

「妻子持ちにそんなことはしませんよ。それに、貴方が王女の告白プロポーズをされるなんて、それこそ甘い理想ユメです」

「厳しいなぁ。それと、俺には奥さんいないから」


 俺は苦笑する。

 すると、シャルは楽しそうに吹き出した。

 どうにも、互いに張っていた緊張が解けてきたようた。俺も釣られて笑ってしまう。しかし晴れない。未だに心は曇天模様だ。笑っているのに、何故だろう。

 それに答えてくれる者はいない。だから永遠に解決出来ないままだ。


「ふふっ……! それでは、アキラさん。私は王都へ帰ります。達者に暮らしてください」

「ありがとうございます。シャル姫殿下」

「やめてください。殿下なんて」


 そう言ってシャルは表で待機していた騎士甲冑の人達を連れて出て行った。

 俺もマン茶を飲み干し、愛する仲間と愛娘が待つカゼルタへ帰ろうと席を立つ。俺がサービスドリンクしか飲んでいないのに気付いたのか、店員さんがジト目で見てくるが、俺は王女と話してたんだから許してと苦笑して店を出る。



ーーー



 あたりは流石に未だ明るい。

 夏の陽気が残っている。この地域は、と言うよりもマグナデア全体では時折来る熱波と雷雨で、身体がやられる人が多いらしい。

 俺も気を付けなきゃなと思う反面、俺よりも生まれたばかりのナズナに気を付けなきゃと言う親父心が湧き出てくる。自分でも思うが、やはり俺は娘に弱いらしい。


 シャルの徴兵を断ってからと言うもの、やはり心のうちには曇っているものがある。何かが俺に何かを訴えかけているのだ。それが何かわからない。

 しかし、当の俺はそれを分かろうともしていない。何故なら、これが俺の最善手だから。俺は俺のやるべき事を為さなければならない。


「アキラさん」

「ふわぁ!?」


 ビックリした! 背筋冷やってした!

 突然背後に現れた女性に怯みながらも、俺はその女性の正体を確認する。

 今日、非番だった俺をこの街へと連れてきて、俺とシャルを再会させた張本人。ドラゴンを倒して回っていると言う剣聖。そして自称リーシャの遠い親戚であるフィリアさんだった。


「フ、フィリアさんでしたか。どうしたんですか?」

「私個人としては、貴方はあまり考えすぎない方が良いと思います」

「はい?」

「貴方のそれは、確かに戦う時には最適だ。最善の道を導き出し、被害を最小限に抑えつつ、誰も死なせずに勝利する。凄いと思います」

「はあ……」

「けど、それは生き方には適応されない」

「……?」


 いまいち要領を掴めない俺の様子に、フィリアさんが非難がましく目を細める。


「そろそろ、気付いた方が良い」


 そう言って、フィリアさんは消えた。

 スキルを使った様子もなかった。おそらく、脚力だけで移動を開始したのだろう。やはり彼女のステータスはバグっているのだろうか。


 そんなことよりも、だ。

 最後にフィリアさんが言っていた言葉。

『俺の最善手は、生き方には適応されない』

 だったか。


「……わかってんだよ、そんなこと」


 その誤りのせいで、俺は此処にいるのだから。

 当の昔には気付いていた。心の奥底では気付いていた。俺は何処かで間違えて、ここへ流れ着き、たまたま得られただけの平穏に縋り付いているだけだと言う事を。勇者と共に召喚された俺は気付いていた。


「でも、引き返せないんだよ…………畜生」


 時は戻せない。

 因果は変えられない。

 そこにあるものだけが全てなのだ。間違っていても、運命なんて大それたものを捻じ曲げられる程大きな力を持った勇者なんかではないのだから。


 俺は青い空を見上げた。

 そして眩い太陽に手を伸ばす。

 何かを得られるのではないかと、希望を与えてくれるのではないかと、すがるような気持ちで虚空を掴んだ。

 開いた掌には、当然ながら何も無かった。



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