43話 各々の思惑
灰色のコート。
ティコ・シャンボールが街へ向かう際に着ている服は、アキラから借りた灰色のコートだ。
アキラが戦闘の際に動けるようにと調達した、機能性と伸縮性を意識した、機能性重視の冒険者用の服である。
カプアの街でしか流通しておらず、手に入れるためにはカプアの街に行かなければならない。何故なら、そのコートを作る織物職人が、カプアの街でしか活動していないからだ。
しかしどう考えても機能性を重視した、明らかにダサい服装なので、これだけを買いに行く人は、戦闘を経験しない一般人の中には皆無だ。
それを見込んで、アキラはティコに渡し、着るように言った。「お前は外見が特徴的だから」とだけ言って。
それだけを聞けば、普通の人間性を持っているなら怪しむだろう。しかしアキラがティコへ渡した、と言う順番が問題だったのだ。
当然、ティコはアキラに心配されているのだと思い込んだ。その裏に意図があったとしても、ティコには些細な問題だった。何故なら、アキラからのプレゼントだったからだ。
しかし、その裏に隠されていた意図が、かなり大きな問題だったのである。
ティコは冒険者との戦闘を恐れてカプアの街へと行かない。つまり、他の街では出回っていない服装で、人通りの多い商店街を闊歩していたのだ。
それが目立たないはずがない。
ーーー
「だから私は、それが件の誘拐犯だと踏んだのです。あるいは、殺人鬼でもあれ、と」
「で、でも、それってかなり分の悪い賭けになりますよね? さすがに成功確率が低いとなると、わたしは参加したくないと言いますか……」
「ええ。この賭けへの参加は自由意志です。これは私の勘なのですが……」
襲撃前。フィリアはリーシャに答えを告げた。
「服装と言うものは、着ている者の印象を大きく分ける効果を持ちます。冒険者なら冒険者らしく、いつでも戦闘ができる格好を。一般人なら一般人らしく、お洒落を意識した格好を」
ーーー
分別と言う言葉がある。
蛙の子は蛙となるが、それ以前は蝌蚪なのだ。何処まで言ってもその事実は変わらない。まったく別の生き物として生まれ落ちる。
故に、ティコの姿が何処までアキラに似ている形を取っていても、その中身はティコ本来の物なのだ。
冒険者の格好をしている一般人など、一般人にとってはおそらく、二つとない異分子。分別されるべき存在として、カゼルタの人々との間には大きな壁が出来上がっていた。
とある洞窟で、一人となったアキラは呟いた。
「そろそろ、真犯人が露呈した頃だな」
明るい場所に放り込まれた暗殺者ほど無力で無能なものはない。戦闘が得意な冒険者にとっては取るに足らない存在である。
暗殺者とは基本的に、一人で行動するものだ。故に、一対多となれば、残酷なほどの力量差が出来上がってしまう。
そして、それこそがアキラの狙いだ。
奸策を用いて闇からティコを放り出したアキラと、それを見つけ出したフィリアの観察眼。そして、それ等を最大限に発揮することご出来たリーシャの機転があったからこそ、奇跡的に炙り出しに成功したのである。
となれば、ここからは持久戦だ。
ーーー
「尻尾を掴んだからには、絶対に離しません。暗殺者は縄抜けが得意と聞きますから」
「そうです。陰の者は隠れてしまいます。だから、決して掴む手を緩めてはならないのです」
リーシャは人知れず決意を固める。
ーーー
「面倒くさいことになったなあ……。でも、あの人の頼みだし、叶えてあげないと♪」
洞窟から街へ向かう道中で、ティコは痼りを高める。愛しい彼に喜んでもらうために、自分の出来得る限りのことをしなければ、と。悪魔のような感情を、ボロボロになった精神性から寄せ集める。
ーーー
「後は頼むぞリーシャ……」
囚われの姫のような立場にあるアキラは、疲れ切ったた身体を壁にもたれかかせて座り直す。
ーーー
異なる場所、異なる時間。
異なる狙い、異なる思惑。
ありとあらゆる物が違う四人の思惑は、
しかし自然と一つのところは重なった。
「「「「ここが勝負どころだ」」」
そう。何にしても、ここが勝負どころだ。
一人の男と名誉を賭けた3人の女は、
覚悟を決めて一つの街へと集った。




