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Q.平凡な高校生は異世界で生き残れるのだろうか?  作者: 光合セイ
第一部マグナデア編

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41話 魔剣士VS殺人鬼

「おや。今日も来てくれたんだね」

「はい。今日は……えーと……」


 冒険者ギルドのあるカプアが近くにあるせいで、あまり目立つことのない街、カゼルナの商店街の一角。今日も今日とて自分の店の利益を上げるために、大声を張り上げて客の呼び込みを行う盛んな商店街で買い物を行う少女がいた。


 その少女に特筆すべきことなど何もない。一見だけすれば、誰もが「ただの町娘だろう」と言うだろう。

 未だ年端もいかない見て呉れの少女は、可愛らしい笑顔に思案する表情を浮かべる。暫くした後、八百屋のおばちゃんに愛想を振りまいて、予定していた物を買う。


「あいよ! どうぞご贔屓にねえ!」

「ありがとうおばさん! また来るね!」

「おーい嬢ちゃん! こっちも寄ってかないかい! 今日はオーク肉が安いんだ!」

「ごめんねおじさん。今日は野菜雑炊の予定なの。だからそんなにお金持ってないんだ」

「いいさいいさ! 嬢ちゃんは可愛いからな! まけといてやる」

「本当!? ありがとう!」


 少女は嬉しそうな声色で、肉屋の店主にお礼を言った。その笑顔に絆され、店主は「サービスだ」と言って、まるで少女の笑顔に魅了されたかのようにどんどんと肉を乗せていく。これ以上乗せたら赤字になってしまうと思い、少女が返品したのを見て、店主は残念そうにしながらも嬉しそうに笑った。


 後の買い物は特にない。いつもならばとある薬を手に入れるために少し練り歩くようなことをするのだが、しかし薬量は間に合っている。新たに買う必要はないだろう。


 少女はいつも通り、灰色の羽織のフードを被り直し、愛する人のことを考えながら街の門まで行こうとして――


「……う〜ん。オーク肉かぁ。野菜雑炊にお肉入れても美味しいかなあ? あの人も喜んでくれるといいけど――」

「――おや。では、わたしもご一緒してよろしいですか?」


 ――背後を、取られた。

 後ろを見る必要もない。この商店街の喧しい喧騒の中で、この言葉が自分に向けられたものであると理解するのに一瞬の時間もいらなかった。

 ダンッ、と地面を蹴る。出来るだけ後ろの人物から逃げるため。この喧騒に紛れ込むため。あの人の元へと帰るため。少女は自分の犯した罪の意識を自覚しながら、前へと足を逸らせる。


「……待ちなさい!」

「誰が待つかっての……!」


 背後から投げられた叱責を意にも返さず、少女は街の中を駆け出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 フィリアの賭けの内容を聞いたリーシャは、物思いに耽る気分でギルドの天井を見上げていた。

 フィリアの出した賭け、もはや賭けと言うお遊びじみた内容ではなく、綿密に策を弄された賭けだった。


 細かなところまで計算しているのにも関わらず、計算された策の中に埋め込まれた一つの『賭け』によって、その賭けが失敗すれば策もドミノ倒しの如くばたばたと音を立てながら倒れて行くような『賭け』。


 おそらく成功率50%以下のこれを、直に実行しようとする胆力があるのだから、フィリアは剣聖と呼ばれているのだろう。


 失敗を恐れず、成功を取りに行く姿勢。

 今までリーシャが見てきた冒険者は、成功率が90%を下回っているのであれば絶対に策を用いない者が多かった。


 当然だ。皆んな命を賭けているのだから。冒険者とは冒険をする役職であって、死んでも冒険を成功させるための役職ではない。失敗なんてしたくないだろう。本能的に染み付いてしまっているのだ。

 だからこそ、フィリアの失敗に躊躇いのない姿は、リーシャには新鮮に見えてしまう。


「……待ちなさい!」

「…………っての……!」


 前方の少女は何か言ったような気がしたが、商店街の喧騒に呑まれて消える。


「何処に行った……?――いや、」


 見えなくなっただけで、此処にはいる。

 視線を感じる。憎々しげに睨む視線を。


 感覚を研ぎ澄ませる。

 魔剣士としての感覚を全開にする。

 第六感で、自分を見据える瞳を探す。


「――ッ!」


 ヒュッ、と音が聞こえた。

 何かが風を切る音。人々の間をすり抜けて、一直線に飛んでくる鉄の塊。刃の耐久性を考慮して柄で弾くと同時に、その判断が失敗だったことを思い知る。


「シィッ!」

「ぐっ!?」


 下半身がガラ空きだった。

 あの殺人鬼が逃してくれるはずがない。

 下腹部に爪先が減り込み、強烈な痛みが走り目眩を起こす。視界の枠が黒くなると同時に、さらに首筋にかかとの蹴りが打ち込まれる。


 しかしそれを易々と受けてやるほど、自分の心は安くはない。入れられたと思った右足を鷲掴み、背負い投げの要領で地面に叩きつける。


「取った!」

「……せ、るかッ!」


 殺人鬼は叩きつけられた地面を両腕で押し、自分の身体を宙へとなげる。掴まれた右足を軸にして回転。左脚の甲で自分の膝を蹴りやがった。


「……ッ!」


 足を掴んだ手の力が緩む。その隙を突かれて抜け出された。


「しまっ……!」


 起き抜けのようにふらつく身体。殺人鬼に次の一手が残されているのなら、確実に避けることが出来ない。


「……」


 しかし。

 殺人鬼は逃げ出した。リーシャのあらぬ方向へ。


「やって、られるか……!」


 タンッ、と壁を足蹴にして屋根上へと登る。

 屋根伝いに走る様は、まるで極東に伝わるアサシン……忍びの者のようだ。


 タンッ、タンッ、と逃げる殺人鬼の姿を見届けて、見逃してしまった悔しさにリーシャは顔を歪める。


「…………逃げられ、ました」

「お疲れ様でした」


 ぺたんと座り込んだリーシャに近づく1人の影。銀の甲冑で身を固めた女性剣士。フィリア・グラムハイドだ。


「これで彼女は動きにくいことがわかったでしょう。決まったルートしか通らなくなるはずです」

「こんな回りくどい方法を使わなくても、そのまま追えばいいじゃないですか」

「ダメですよ。暗殺者は姿形を隠すものです。だから決まったルート取りをしてもらわないと、ルート上の計算が出来ません」

「そう、ですね……」


 不承不承、といった感じに俯いた。


「後は彼方の出方次第ですか……」

「では、今日は引き上げましょうか」

「はい」



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