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Q.平凡な高校生は異世界で生き残れるのだろうか?  作者: 光合セイ
第一部マグナデア編

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39話 査察官が来た!

 あの人が消息を絶ってから、2週間ほどの時が過ぎた。

 アキラがいなくなったと聞いて、当初は大丈夫だなんだと言っていた冒険者たちすらも、殺気立ってアキラの捜索を行う中、冒険者ギルドにはとある一報が届いていた。


 なんでも王都のギルド本部から、この街の冒険者を視察する査察官が訪れる予定らしい。

 冒険者を、視察しに来ると言っている手前、冒険者たちは下手な行動を取れない。しかし同僚であるアキラがいなくなってしまった現在、下手な行動を取るなと言うのは難しい。

 否。難しいと言うよりも、はっきり言って無理だった。


 仲間思いの荒くれ者が多い冒険者は、仲間内でも飛び抜けて弱いアキラが心配でしょうがなかったのである。

 当然だ。誰よりも弱く、誰よりも小賢しく、誰よりも命を大切にしてきた男が消えたのだから。焦るのも仕方のないことだ。


 しかしギルドとしては、アキラの捜索よりもこの査察官の方を優先したい考えらしい。

 と言うのも、査察官が視察に来る理由がこの街のギルドにあるかららしいのである。


 この支部には2つ問題が存在しているらしい。

 一つは、違法奴隷商を容認していたと言う嫌疑。

 二つ目は、件の連続殺人鬼を、この街の近辺で見たと言う情報が出たからなのだ。


 一つ目に関しては、仕方のない事だと割り切れる。なんせこの件は完全に自分たち側に非があるのだから。

 しかし二つ目は完全にお門違いである。


 この街近辺で連続殺人鬼が見つかっているのであれば、この街全体に目を光らせている冒険者が見つけないはずがない。そしてそれを報告しないメリットは存在しない。何故なら、治安と秩序を護っているはずのギルド社会的地位が、目に見えるように低くなっていくからだ。


 だからこの問題は冤罪として処理されても良いはずなのだが、しかし一つ目の件がある。故に、査察官が訪れると言う件りとなったのだ。


「ケッ。王都の冒険者なんて、無駄な飾りばっか付けてるヤツらだろ。なんでそんなヤツのために、アキラを放っとかなきゃなんねえんだよ」

「だよな。早いところ帰ってほしいぜ」

「こちとら一人の命が掛かってんだよっつーのにな」


「……」


 口々に罵詈雑言を吐き、見てもいない冒険者の株を落としていく冒険者たちの影で、リーシャは表情に影を落としていた。

 いつもの人がいない不安感。

 生死のわからない焦燥感。

 森に置いてきてしまった罪悪感。

 それら全てがリーシャの心を蝕み、表情だけでなく心にも陰りを落とす。


 それを心配した女冒険者たちがメンタルケアに挑むが、リーシャの心の癌となっているアキラが不在のため、摘出を試みようにも手も足も出せない。



 ――そして、彼女はやって来た。



 ギルドの扉を開いた時に吹き込んだ風に、腰まで伸びた黄金色の長髪をたなびかせる女騎士。エメラルドグリーンの瞳を左右に動かして周囲を確認している。

 剣を腰に提げているのにも関わらず、その身体は驚くほど華奢で、しかし着込んでいる甲冑はかなり良い代物だ。


 そしてリーシャだけは気付く。

 彼女が提げている剣は、この世に二つとない魔剣だと言うことに。


「っ……」


 誰かが息を呑む音がした。

 仕方のないことだろう。息を呑んでしまうほどの美人だったのだから。仕方のないことだろう。

 見る者を魅了する美貌の彼女は、堂々とした佇まいで、ずんずんとギルドの中央を我が物顔で横断する。前に立つ者は道を譲るように退いて、彼女の通る道を作る。

 

 そうして受付にたどり着いた彼女は、無愛想な表情で頰を引き攣らせて縮こまる受付嬢に問いかける。


「ギルマスはいますか」

「あ、はい。呼んできます」


 ぱたぱたと足を鳴らして奥へと引っ込んだ受付嬢は、やがてぱたぱたドスドスと音を二つに増やして帰ってきた。

 二つ目の音に気付いた女騎士は、この世界の礼儀作法に則って右掌を左胸にやって会釈をする。


「初めましてカプアのギルドマスター。本日はよろしくお願いします」

「あ、はぁ、どうも。よろしくお願い致します」

「……何か?」

「あ、いや……。いやまさか、彼の勇名名高き『剣聖』様が来てくださるなんて思っておらず、少し圧倒されておりましてな」

「そうですか」


 まるで興味なしとでも言いたげな無表情で、ギルマスと視線を合わせる女騎士。いや、しかし……


「剣聖……!? 剣聖だって!?」


 声を上げたのは赤髪の剣士バカラだ。

 バカラは驚いたような声を出して、驚嘆の表情で彼女を見る。


「おいバカラ、うるせえぞ」

「これが黙ってられるかってんだ! 今代の剣聖って言やぁ、この世の最強種の一角、ドラゴンを剣一本で倒し回ってるっつー最強の竜殺し(ドラゴンキラー)だぞ!」

「んなこと誰でも知ってるっつの。だからうるせえ、っつったんだ」


 なおも興奮気味に大声を出し続けるバカラ。

 それに顔を顰める冒険者一同。


 しかし顔を顰める冒険者の中には、バカラと同じく落ち着かない様子の者共もいた。それら全員は剣士。これの意味するところがわからない者は、この中にはいない。



 剣聖。



 この世の中で最も剣技の卓越した剣士に与えられる、いわゆる名誉称号みたいな物だ。

 誰よりも剣の道を極め、剣技だけで人智を超克することができる者。天賦の才。鋭敏な感性。超人的な肉体。それら全てを兼ね備えてなお、数十年の時を修行に明け暮れなければ賜ることが出来ないという称号だ。


 そして今代の剣聖、名をフィリア・グラムハイドは、二十代前半で剣聖の名を賜った正真の神童だ。

 噂によると、今の彼女は冒険家業でドラゴンを倒し回り、世界を旅する放浪者のはずだ。そんな自由人が何故、この街の査察官として視察をしに来たのか。甚だ疑問でしかなかった。


「……不穏な空気を感じますが、何かありましたか?」


 剣聖の質問にギルマスは苦虫を丸呑みしたような顔になる、

 感性に鋭敏な剣聖だ。冒険者たちを取り巻くブルーな空気を、敏感に感じ取ったのだろう。とても歓迎しているとは思えない視線に剣聖が気付かないわけがない。


「あー、いや。何と言ったらいいんですかね」

「構いません。全部話してください」

「……わかりました。では――」


 そう滑り出してギルマスは話す。

 一人の冒険者がいなくなったこと。

 その冒険者の仲間の現状。

 今にも後追いしようとしそうな危うい現在。


 ギルマスが話し終えたのを確認したフィリアは、話の途中で思った疑問を口にする。


「冒険者がいなくなることは、当然のことではないのですか?」

「いやー、消えたヤツかヤツでして。ソイツ、命への執着が人一倍強いヤツでしてね。そんなのが突然消えて、2週間も戻ってこないってなったら、この近辺で何かが起きてるってことでしょう」

「……なるほど。その方の人徳ですか」

「アイツに徳があんのかは、私としても疑問ですがね。なんせまだまだ未熟ですから」

「その方の仲間はどちらに?」

「……あそこでテーブルに座ってますよ」


 ギルマスが指を差した先には、少々騒ぎが起きている此方を見向きもせずに、森の地図を凝視しているエルフの少女。

 砂金のように細やかな光沢を放つのに、手入れされていないボサボサの金髪。黄金のような煌めきを持つのに、光と力のこもっていない金眼。様々な刺繍が施された奴隷服。

 その少女を見た途端、フィリアは腰に提げている剣が一瞬、光を放ったように感じた。光は一瞬。しかしそれだけで剣聖と呼ばれる超人には、理解するには充分だった。


(……なるほど。彼女は。いえ、彼女が――)


 フッ、とクールな笑みを浮かべる剣聖に、ギルマスは怪訝な視線を投げる。そんなギルマスを見ようともせず、剣聖はリーシャへと近づくために歩み出す。

 不審な視線を向ける冒険者たちを意にも介さず、リーシャの横顔だけを見て、彼女の持つ能力に目をつられて、自然とフィリアは言葉を漏らした。


「――こんにちは、リーシャ・アロンダイト」

「……?……あなたは――?」


 こうして、二振りの剣は邂逅を果たした。



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