35話 森林少女
「あ、あいつ……どこ行った……?」
そよ風のように疾走するリーシャを追いかけ数分。すっかり森の中で迷子になってしまった俺は、木にもたれかかるように座った。
息はすでに絶え絶えになっており、心臓はパンクするのではないかと言うくらいだ。バクバクと立て続けに鐘楼を鳴らしている。
リーシャを見失ってしまった。それだけで俺の心には様々な心配が溢れ出ると言うのに、しかしそれがなんだか楽しいと言うか、ニヤニヤした気持ち悪い笑いを浮かばせる。
森の中はヒヤヒヤとした冷気に包まれており、熱く火照った体を無償で冷やしてくれた。どうやら森にはリフレッシュ効果があると言うのは本当のようだ。
一人で森の中にいると言う、元の世界での生活を考えたら非日常な事柄に解放感を覚える。
ともあれ、このままリーシャの逃亡を見逃して良いはずもなく、どうやってリーシャを探し出そうかと考えていると――
「――」
パキッ、と。木の枝を折る音がした。
「……っ!」
ここは森の中だ。獣はいるし、魔物もいる。森の中でスライムが増殖する世界なのだ。ひ弱い操術師が一人でいるなど、格好の餌だろう。
警戒をして音のした方向を向くと、そこには一人の少女が何かを抱えて立っていた。
「そこで何をしてるんですか?」
「んぁ?」
魔物がいるのだと思っていたからか、不意に人語で話しかけられた俺は喉から息をこぼした。
「キミこそ、ここで何をやっているんだ?」
「……見ての通り、芝刈りですが」
となると、抱えているのは鎌なのだろうか。抱えていた物を後ろに隠して答える童顔の少女に、俺は怪訝な色の瞳を向ける。
「こんな森の中を一人でかい?」
「お兄さんもでしょ?」
「俺はこれでも冒険者だからな」
「冒険者だったらその木の下には座らないと思うよ」
「なんで?」
「だって猛毒木の下になんて、誰も座らないでしょ」
「べの……? ふぁっ!?」
「気付いてなかったんだ……」
やっぱりか……、と吐息をこぼした少女。
俺は俺の体が毒に犯されていないか確認するが、素人目ではまったくわからない。突然わたわたとし出した俺に、呆れたように少女は言った。
「安心しなよお兄さん。見た感じ、毒にはなってないから」
「本当か!?」
「うん。そもそも毒になってたら、そんなに動けないしね」
それを聞いて俺は安堵する。
「で、ここで何をしてるの? お兄さん」
「その問いに戻るか〜……」
意識的に話題を逸らしていたのだが、この少女には通じなかったようだ。仕方なく、仲間と逸れたと言う情けない話をすると――
「ふーん」
感情の篭らない答えが帰ってきた。
罵倒されるでもなし、フォローをされるでもなしの答えに、若干の不安を覚えた俺は一言。
「え、それだけ?」
「……何か言って欲しかったの?」
「いや〜、少しはフォローして欲しかったなぁ……なんて」
「やーいばかばーか」
「即罵倒!?」
しかも語彙力少なっ! いや、これは未だ未成熟だからなのだろう。なら仕方ないのではないか。
しかし罵倒ボキャブラリーに『ばか』しかないのが垣間見えた。もうちょっと、アホとかトンチンカンとか覚えていてもいいのではないだろうか。それを『ばか』だけって……。いや少なっ!
「……うぅ。バカやって逸れた分、何も言い返せないのがつらい……」
「逆に森の中で逸れてバカにされないと思ったの?」
「ぐっ……」
ついに何も言えなくなり、少女から目を離す。
しかし少女はそんな俺をイジる気満々なのか、俺が視線を逸らしてもその視線に付いてくる。
彼女のエメラルドのように透き通った翠眼が、何が合ったのかボサボサになった黒い短髪から見える。目が会う度に冷たい何かが俺の心を弄る。
少女の翠眼を見ていると、不思議と惹き込まれていく感覚が、俺の脳を襲い――
「――お兄さん?」
「おっと……」
少女が俺を呼ぶことで、何とか正気を取り戻した。
いやいや待て待て。惹き込まれる魅力があるとは言え、相手は確実に自分よりも年下だ。俺はロリコンじゃない。
そう自分に言い聞かせて改めて彼女を見る。
「危ない危ない。禁断の道に足を踏み入れるところだった」
「……?」
「いや何でもないよ? 別に年齢の垣根を超えた疚しい想いなんて抱いてないからね? 俺は断じて恋はしない」
「ふふっ……。面白いね、お兄さん」
「今のDT発言の何が面白いと?」
ケラケラと笑う少女。
やれやれと肩を竦めて息をついた俺は、しかし息をついていられる状況になかったことを思い出す。
「あっ。そうだ! リーシャを見つけなきゃ!」
「……お仲間さん?」
「あ、おう。えっと……薄緑色の長い髪で、金眼で、ちょっとそこはかとなく可憐なエルフを知らないか!?」
「そこはかとなく、可憐ですかー」
回らない頭をフル回転させて、リーシャの特徴を挙げる俺。しかし少女は俺が頑張って挙げた特徴の中の、可憐と言う部分のみを摘出して考え込む。
「その人は、女の子?」
「おう。めっちゃ可愛いんだぜ。なんせエルフだからな」
「……そう」
天を仰いで再び考え込む少女は、うん、と頷いて俺を見上げた。
「たしかあっちに行ったはずだよ。連れて行ってあげる」
「本当か!? 助かるよ」
「うん。任せて」
そう言って少女は、朗らかに笑う。
それに釣られて俺は、ニッ、と笑った。
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「あん? このクエスト……」
カプアの冒険者ギルドで、一人の冒険者が首を傾げた。冒険者の手には一枚の紙。クエスト内容が書かれ、張り出されていた紙だ。
『《殺人鬼の捕縛(生捕可)》
犯罪内容……王都で男性7人女性2人を殺害。
特徴……短い黒髪。翠眼。右眼に眼帯着用。
新品の奴隷服。小ぶりの鎌。
報酬内容……金貨600,000枚』
「まるで指名手配じゃねえか」
「ギルドに張り出すモンじゃぁねえな」
「それぐらいに厄介な犯人なんだろ」
「なるほど。だから俺たちにもお鉢が回ってきたってことか」
「ひー、ふー、みー……金貨60万枚か。生捕可ってことは、殺してもいいってことだよな?」
「なんだそれ。楽勝すぎねぇか?」
殺伐とした空気がギルド内に広がる。
それに露骨な嫌悪を表情に出したのは、赤髪の剣士バカラだった。
「……あー、やだやだ。もっと平和に出来んモンかね?」
「まぁ、一番最初が殺人から始まっているものね。こればかりはどうしようもないんじゃないかしら」
「ケッ。殺人の動機なんて知ったことじゃないが、周りに与える迷惑を考えてほしいモンだね。殺人犯サンにはよぉ」
そう言って酒を呷る。
酒に酔ったままぐちぐちと文句ばかり言うバカラに、何も言うことなく聞いていたスコットは思い出したように言う。
「そう言えばリーシャちゃん達は、今日は来ないのかしら?」
「さぁな? 朝イチに来るアイツらが来てないんじゃ、今日は非番なんじゃねえか?」
「そう……残念ねぇ。リーシャちゃん愛でたかったわぁ」
「……ったく」
机に肩肘を付いて項垂れる相棒を一瞥もせず、再びバカラは酒を呷る。髪だけでなく顔も赤くした男は、今度は一滴も残さず、ビアマグに入った酒を飲み干した。
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嘉瀬アキラ 男
種族:人間(17)
レベル:36
職業:操術師(土)
筋力:47
体力:39
耐久:36
敏捷:46
魔力:87
土操術( Ⅲ )・鑑定・言語自動変換( X )
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リーシャ・アロンダイト
種族:エルフ(24)
レベル:32
職業:魔剣士
筋力:65
体力:54
耐久:36
敏捷:34
魔力:46
魔剣錬鉄( II )・水属性魔法( Ⅳ )
風属性魔法( Ⅲ )
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現時点でのステータスです。参考にしてください。




