34話 ピクニックに行こう!
結論から言おう。俺は巨人がいるなどと言う妄言。根底から一切信じていない。
その理由と言えばいくつかあるが、やはり主たる理由は、巨人と言う存在が伝説上の存在だと言うことだろう。
この世界ではどうやら、巨人と言うモンスターは伝説や伝承に登場する、架空の生き物に過ぎないらしい。
それは元の世界でも共通する事象ではあるのだが、しかし、それはそれとして魔法のあるファンタジー世界に、巨人と言う人間の亜種としてメジャーな存在がいないことが甚だ疑問であったが、そもそも元の世界でも似たようなビッグフットがいたので考えるだけ無駄になる。
この世界には小人族と言う種族がいるのだと言う。小人族の祖先は人間と妖精の間に生まれた子供とされており、それが延々と現在まで生きながらえているのだと言う。
どんな交配をすれば人間と妖精の間に子供が出来るのか、思春期の青少年としてはとても気になる疑問だったが、しかしそこはやはり異世界。どうせ魔力がどうのこうのと言う話なのだろう。
これらと同じ理屈で、巨人族が生まれたとしても小人族と同じような理由だろう。それが伝説上の存在となれば、やはりいないと断言しても良い。
だから断言する。
巨人なんていない。
「まぁ、こんなこと深く考え始めたらキリがないしな……」
「何か言いましたか?」
「いや何も? そんなことより、こっちの方角で合ってたよな?」
「はい。あの方の証言が虚言でなければ、此方の方角で合っていたはずです」
ともあれ、俺たちは昨日の予定通り、巨人が現れたと言う森へと訪れていた。
今日の朝、早起きした俺は、その巨人とやらを見たと言う男に事情聴取をして、その渡された情報を頼りに、経済がまったく潤わない冒険へと来ていた。
ここで遮二無二探し回ったところで、見つからなければそれでも良いと言う、ゆったりとした絶対的安心感のある冒険をしていた。
それもこれもスライムが湧き出て来てくれたお陰だ。戦っていた時は臭いと目の痛みで地獄を味わっている感覚だった。しかし特別クエストが終わってみれば、そこに待っていたのは圧倒的解放感と臨時収入だ。
「〜〜♪」
「……。」
俺はルンルン気分で楽しみながら冒険をしているが、斥候として前を歩いているリーシャは、なんだか少し不服そうだ。
やはり金銭が絡まないと言うのが、リーシャにとっては嬉しい事柄ではないのだろうか。お金にうるさいこのエルフは、なんの報酬もない冒険と言うものがお嫌いなのだろう。
それは勿論、俺も反省している。彼女からにはまた迷惑をかけると思うが、しかし許して欲しいと言うのが本音だ。
数ヶ月も金欠が続いて、たまたまお金が浮いたから自分のしたいことをするなど、真面目でしっかり者の彼女からしてみれば許されない行為だろう。
そんな彼女に俺は心の中で謝罪をするが、おそらくこの件に関して俺が後悔することはないだろう。
リーシャは普段から気を張り詰め過ぎている。寝ている時に身体を休めているのだろうが、しかし精神が休んでいるとは言い切れない。
リーシャにはリフレッシュする時間が必要だ。今回は巨人探しと言う名目を得て、リーシャをピクニックへと連れて来ていた。
「楽しみだな〜。巨人」
「いるわけないじゃないですか」
「さあ? 案外いるかもしれないぞ〜?」
「だから無邪気ですか」
リーシャに話しかける。当然ながら彼女の反応は淡白だ。前だけを向いていたのだが、しつこく話しかける俺に、ようやく此方を向いてくれた。
彼女の腕には未だに奴隷印が刻まれている。それの主権を持っているのは、何故だか俺らしいのだが、しかしその理由を話されていない。
奴隷解放時に他の奴隷達は印を解呪したのだが、しかしリーシャはそれを頑なに断り、あの奴隷印の主権を俺へと移したのだそうだ。今やリーシャは俺の『人畜奴隷』だ。違法などではないマグナデア公認の奴隷だ。
ちなみにこれは俺の知らないところで行われていたのだ。奴隷印の主権の変更は、どうやら専用の魔道具が必要らしく、その魔道具に血を一滴でも垂らせば出来るのだとか。
俺の血なんてどこで採取したのかと詰め寄ったが、しかし答えを導き出せるまでには至らなかった。
しかし、その奴隷解放時に奴隷印を解呪しなかった奴隷はもう一人いる。
……他でもない、俺だ。嘉瀬アキラだ。
結局自分が奴隷印を刻まれていることを話せなかったためか、言い出すタイミングを測らずに今に至っている。
俺の奴隷印の主権を誰も持っていないことに、少なからず安堵を覚えた。しかしやはり腕に趣味の悪い紋章が刻まれていると言うのは気持ちが悪い。
「なんとかしなきゃな……」
「さっきからぶつぶつとうるさいですね。やはり何か隠していることがあるのでしょう?」
「いんや、違うよ? お前ってばそういや俺の奴隷だったな〜つて思い出してな」
俺の言葉にリーシャは目を丸くした。やがて少女は顔を赤くして俯き、俺の服の裾をくいっと引っ張る。
「うん?」
「……やるならばせめて茂みに隠れましょう」
「……うん?」
話題に陰りが見えてきた、ような……
「ピー!でしょう? わたしも奴隷として、いずれ訪れるであろうそのことに関する覚悟は出来ています。ならばわたしは今からあなたのピーー!になって、ご主人様のピーーー!のピーーーー!!に挑むまで――!」
「お前何口走ってんのっ!?」
ルビに振られるくらいには倫理的にアウトなことを口にしたリーシャを、慌てて俺は止めに入る。これがまし街の中で行われていたのであれば、すぐに衛兵が飛んで来て事情聴取が行われていたところだ。
「だって青◯でしょう? アキラさんも冒険者とは言え、1人の男の子。わたしよりも年下の男の子が、下を寂しげにしていれば、それを優しく支えてあげるのがお姉さんってものですから」
「下を『しも』って言うなよ! そんなことないのに卑猥に聞こえてくるだろうが! やめて! マジやめて!? 誰かに見られたら死ねる自信あるから!」
「それは困りますね。せめてアキラさんの子種を授かってからにしてほしいで――」
「まだ言うかクソませエルフ!」
止まるところを知らないのか、あるいは敢えて止まろうとしていないのかは知らないが、しかしこのままでは本当にマズい。慣れないことを言ったためか、リーシャの顔は最高潮に朱くなっている。
このままではリーシャが、新たな黒歴史を生み出す結果になってしまう。それではこのピクニックに連れて来た意味がないではないか!
「…………」
言うだけ言って黙り込んでしまった。このままでは気不味い雰囲気のまま冒険をしなければいけなくなる。
「リーシャ?」
「ひゃっ、ひゃい!」
背筋をピンと伸ばして答えるリーシャに、俺は曖昧な苦笑を浮かべる。
コロコロとした鈴のような声で、驚嘆を露わにした少女は恐る恐ると言った感じで俺の目を見上げる。
助けを求めるような目遣いにドギマギしながらも、俺はなんとかフォローできる言葉を模索して……
「……ま、まぁ、リーシャもお年頃だししょうがな――」
「――うわぁぁああん!!」
「リ、リーシャぁあ!?」
脱兎の如く駆け出すリーシャを、下手な言葉選びをした後悔をしながら追いかけた。




