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Q.平凡な高校生は異世界で生き残れるのだろうか?  作者: 光合セイ
第一部マグナデア編

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Side.C 奴隷達の明日


時は、奴隷解放時へと遡る。


 えも言われぬ解放感が、胸にぽかりと空いた虚構を埋める。

 無限に澄み渡る蒼穹を、ふわりと揺蕩う白い雲。青い天下に広がる大地を踏み締めると、この世界に生きているのだと確信させてくれる。


 その日、違法とは言え奴隷が冒険者の手を借りて、奴隷商に仇為す前代未聞の事件が起こされた。

 戦い不向きだった商人たちはすぐに捕まり、雇われていた腕っ節の強い傭兵たちは、冒険者たちの数の暴力で叩き潰された。


 その結果としてオレたちの体から、奴隷であった証である印が外され、胸を張って外の世界を歩むことが出来る。


 嬉しさ半分、不安半分の複雑な息を吐き出すと、背後から近付いてくる人物の気配を感じた。


「フィールか?」

「うん」


 オレみたいな半人間ハーフとは違う、正真の人間族である彼女は、スカーレットのボサボサな長髪をそよ風に揺らしながら、一息吐くオレの隣に並び立つ。


「クリス」

「あ? なんだよフィール」

「リーシャ……大丈夫かな?」

「…………」


 オレは顔を歪めてフィールから目を逸らす。

 その中でオレが心配なのが、あの黒髪の冒険者に今なお奴隷として付き従っている妹分……エルフのリーシャだった。

 アチラはアチラで自分が姉貴分だと思っているらしいが、彼女はアレでかなり幼い。見た目だけでなく、精神的な部分でもだ。


「……()()()が悪人じゃなけりゃな」

「アイツ……あの、黒髪の?」

「ああ。……アイツは、本当に人間なのか?」


 オレは疑問を口にする。

 最初にアイツを見た時、人間としての知性でなく、獣としての本能が()()を抱いた。

 走馬灯を映し出すが如く、脳裏に様々な過去が引っ張り出されたあの感覚を忘れられるわけがない。


「人間だと……思うけど?」

「だよな……。けど、だとしたらあの感覚は、なんなんだったんだ?」

「……気のせい」


 フィールは済ました顔でオレを睨む。

 いや、彼女の目は元々鋭いから、睨んでいるのかいないのか、判断がつかないのだが。


「それよりも心配なのは、死なないかどうか」

「その心配こそ杞憂だろ。アイツが死ぬわけがない」

「……どうして?」

「アイツが奴隷にされたのは、アイツが持つ()()()のせいだからな。いざとなれば使うだろうよ」

「でも、もしもがある」

「そうなればあの黒髪がなんとかしてくれるだろ。リーシャと仲良いように見えたからな、あのガキ」


 それに「クリスも、ガキ」と言ってくるフィールを無視して、オレは空を見上げる。

 久しぶりに見上げた太陽イリオスは、まるでオレたち奴隷の解放を喜んでいるように燦々と輝いている。


 そこで一つ、ピンときた考えが、オレの頭に雷光のように迸った。オレは本能の赴くままに、大声をあげる。


「……なぁ、みんな! 聞いてくれ!」


 地獄のような環境から解放された奴隷たちが、あるいは未だに居残っている冒険者たちが、揃ってオレへと目を向ける。


「ちょいと考えたんだけどよ――オレたちの街を作らねえか?」

「街?」


 脈略のないオレの言葉に、フィールは意味がわからないと首を傾げる。


「オレたちは奴隷だ。いや、()()()。力も名誉も功績もないオレたちだけど、これから何かを為すことはできる」

「……うん」

「多分、今からこの街の冒険者に付いて行っても、おんぶに抱っこの生活を送ることは間違いないだろ? オレはそれが嫌なんだ。だから……」

「新しい街を作って、一から始めたいってこと?」


 オレはフィールの答えに首肯する。


「どうせ半端なスタートを切るんだったら、オレはゼロから始めたい」

「イカれてるね」

「オレもそう思う」

「……茨の道だよ」

「上等」


 逃げ道を作らず獣道を進む。

 それがオレの生き方であり、間接的だとしても、奴隷(オレ)の特異点を作ってくれた、あのエルフの少女への礼だと思っている。


「わたしも、付いて行くから。置いていかないでね」

「もちろんだ」


 オレはカゼルナが差し出した手を握り……


「おう、クリス。その面白そうな計画。俺も一枚噛ませろや」


 見た目はコワモテ、中身は気さくな猪人族(リーザブルオーク)のおっさんに背中を押され、不意の勢いにオレの体はよろけてしまった。


「あ、ああ。もちろん大歓迎だが……」

「じゃあ俺もやろうかな!」

「あ、わたしもわたしも!」


 次々に奴隷たちの間から手が挙がる。

 それを見ていたある冒険者の顔には苦笑が浮かび、またある冒険者はふざけて一緒に手を挙げているヤツもいた。


 それ自体は嬉しいことだし、なによりも共感を得られたことに安堵を覚えた。


「みんな……ありがとう」

「……」


 オレが頭を下げる隣をフィールが嬉しそうな笑みを浮かべて、スッ……、と寄り添うように立った。


「フィールも、ありがとう」

「……ううん。これからも、よろしく」


 フィールはふわりと笑みを浮かべる。

 奴隷時代には見ることがなかった彼女の笑みを、このときオレは初めて見たのかもしれない。

 ドキリと心臓が高鳴ったが、その正体を知ることは出来なかった。その正体を知るにはおそらく、オレはまだまだ幼かった。



自称兄貴分としてリーシャを守るために主人公に噛み付いた彼。


実はこの物語の主人公格です。

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