31話 荒くれ者の騒めき
徹夜の銀等級クエストに取り掛かった後、俺とバカラは重い脚を持ち上げつつ冒険者ギルドへと帰って来た。
酒場風の建物の扉をゆっくり開くと、いつも通りの酒気と雑多で騒々しい雑音。そしていつも通りではない、妙にザワつき浮かれた雰囲気が俺たちを出迎えた。
なんだどうしたと周りを見渡してみると、どうやら人集りが出来ている場所がある。クエストの依頼書が貼ってあるボードの前だ。
「おーい、何かあったのか?」
「おお、バカラ。それにアキラもいるじゃねえか。女性陣はどうした?」
「汗を流しに風呂屋に行った。それよりも、何かあったのか?」
バカラが声を掛けた冒険者は、俺が問うた問いに答えるように視線をボードへと移した。
「いや、どうやら森にアイツが現れたらしくてな。それで皆んな怒り立ってるんだよ」
「……アイツ?」
「まさか、アイツが? いやおい、そりゃどんな冗談だよ! もうそんな時期だったか!?」
「……どいつだよ」
「いや、冗談じゃねえよ。見て確認した冒険者がいるらしいから、これがどうにも事実らしいんだわ」
「マジかよ……!」
「――いや、どいつだよ!」
俺が叫ぶことでようやく気が付いたのか、バカラは驚いたような素振りをした。俺が視線で説明を求めると、バカラは苦笑いを浮かべて説明を始める。
「そういやアキラは初めてだったな……。この時期になると毎年現れるモンスターがいるんだ。それがなかなか曲者のモンスターでな。ある所では、『冒険者の天敵』とも呼ばれてるんだ」
「……冒険者の、天敵?」
「そうだ。剣を振るっても通じ難く、弓を射ても通じない。斧で火力押ししなけりゃ倒せないが、そこまでたどり着けるかが不安でしかないと言う、厄介極まりないモンスターだ」
「そ、そんなモンスターが……!」
息を呑む。
バカラの話を鵜呑みするのであれば、攻撃が通じ難いモンスターほど面倒な敵はいないだろう。
「……そのモンスターの名前は?」
「スライム」
「――は?」
「生まれてから長い年月が経ってるからか、味も匂いも腐ってて買い取れる部分もないから、討伐する意味がないモンスターだよ。雑魚くて経験値にもなりゃしねえ。しかも倒すと分裂するから、モチベーションの低下にも」
「帰っていいか?」
「ダメだ」
ダメらしい。こんなのやる意味ないだろう、とバカラに詰め寄ったものの、余りにも冒険者たちが放置するため、冒険者ギルドはこの時期のスライム討伐を義務化したのだとか。
雑魚モンスター相手に、貴重な労力を割くのは如何なものかと思いはするが、増え続けるモンスターを放置するのも冒険者として気が引ける。
バタンと音を立てて冒険者ギルドに入って来て早々、陰鬱な雰囲気に包まれるギルド内を見回しているリーシャとスコットさんを見て、俺はため息を吐き出した。




