29話 宴の中で
リーシャ家出事件から数ヶ月の時が過ぎた。
クエストから帰って来たばかりの、冷たい風が吹く夕方。昼型は夏の熱が肌を焼き、
あの事件をキッカケに、あれから俺とリーシャはさらに冒険者ギルドの面々との関係を深められたと言っても、過言ではないのだろう。
偶にクエストに出てみれば、誰かしらが一緒に行こうと誘ってくれたり。
何処かのパーティか大戦果を挙げれば、その宴に付き合わされて食べ物を分けてもらえたり。
今日もまた、知り合いのパーティが、モンスターの巣窟を掃討した戦果を挙げて宴を行なっている。それに付き合わされる形で、俺たちは飲み食いをしていた。
思い返してみれば俺達がクエストを終えて帰ってきた夜は、今日と同じような宴が開かれていた。
冒険者には荒くれ者や無法者、さらにサディスティックな一面を持つ者は多い。冒険をする時に冷酷な判断を下す上で、そのような一面を持つことは大きなアドバンテージになるから致し方ないことなのだが、基本的には良い奴らばかりなのだ。
常識、道徳、人間性を備えなければ、冒険は成り立たない。神秘への礼を弁えて、自然を大切にしなければ冒険はできない。何故なら、自然がなくては冒険は出来ないからだ。
当然ではあるが、強いだけではダメだ。
この世界では、弱い者よりも強い者が早死するのが通説の一つにある。
故に常に死と隣り合わせの冒険者達は、今の自分の生のために犠牲になった死者と、明日の自分のために殺した魔物を弔うため、出来るだけ大きく楽しい宴を開くのだそうな。
何処まで拡大解釈をしたとしても、仲間を失った冒険者としては喪中であるはずなのだから、日本人感覚としてはそっとしておいてやりたいところなのだが……
「ううっ……どうしてアイツが……!」
「オラ、泣いてても何も始まんねェぞ! 酒飲め! 肉食え!」
「食欲わかねぇよ……」
「なら食わせるだけだ! なあ皆んな!」
「「「応よ!」」」
「や、やめろお前らーーッッ!?」
感動的な話を進める傍らで……
「……このトマトとその肉、交換しねぇ?」
「……魅力的な提案ですけど、好き嫌いはダメです。ほら、ドレッシング取ってあげますから食べてください」
「いいじゃんかよ〜。このドロドロ嫌なんだよ俺〜」
「栄養価が高いんですから、ほら、文句を言わず食べてください。タダなんですから」
他の冒険者の奢りと聞いて、颯爽とタダ飯を喰らいに来た俺達がいた。
そうタダ飯なのである。タダ飯なのである!
お金に困る苦学生の如く、遠慮の少ない食べっぷりを披露する俺とリーシャは、仲間の死に悔んでお酒の力に頼って気持ちを切り替えようとする冒険者に目もくれず食べまくる。
普段から安全を考慮して銅クエストばかりこなしている俺達は、どうにも強い敵と言うものとは相性が悪い。弱肉強食の倫理が打ち立てられているこの世界で、無謀にもドラゴンやら魔王やらと対決することなど、自殺に等しいことなのだ。
よく創作物などで見ていた、ゴリゴリのチート能力で魔王を倒した世界でスローライフを送っている奴らの葛藤など、良くも悪くも理解が出来ないね!
「……にしても、最近死者多くね? 俺たちが入ってきた頃は、こんなに多くなかったろ」
「人の不幸をそうも軽く……いえ、確かに最近多いですけどね。何かあったんでしょうか?」
俺は泣きながら酒を呷る冒険者を見て、此方も負けじと水のコップを呷りながら横目で見る。
実際、冒険者の死亡率が高いのは本当だ。ギルドで飲み食いしていると、涙を流している冒険者を見るのが稀ではなくなってしまっていた。
良くない傾向にあるのは確かだ。
人が死ねば防御力が減る。防御力が減れば人が死ぬ。デフレーションスパイラルに陥るのは目に見えている。何処かでピリオドを付けなければいけない。
そんな事を考えながら飲食に励んでいると、俺の隣の席に断りもなく座ってくる者共がいた。
「よぉ〜、アキラ。まだ生きてたんだな〜」
「お前……おいバカラ、何本飲んだ?」
「まだ2本だっ!」
「一桁間違えてるわよ。ごめんなさいね、2人とも」
バカラとスコットさんだ。あのスコッチ戦以来、良く絡むことが多くなったパーティの2人。最近では一緒に飯を食う機会が多くなったほどの仲だ。
「おい、最近ギルドの受付やってる姉ちゃん、めっちゃ可愛くね?」
「やっぱ目ぇ付けてたか。だよな、胸もデケェしな」
「気が合うな。オレ、後でナンパしてくるわ!」
「それで玉砕した後に、俺がヤケ酒付き合われる流れだろ。やめてくれ。そもそも俺が飲むの水なんだから」
「だったらお前も酒飲めよ!」
「苦手だっつってんだろ!」
男どもが喧嘩腰に、やんややんやと下劣な話を進める横で、女性陣は最近森で見かけた可愛らしいモンスターの話に花を咲かせている。
俺達の話には女性陣も慣れたもので、最初期は俺らに注意を促していたものの、最近ではもはや空気を吸って吐くかのように、俺達の話を流している。
それに若干の寂しさと、慣れに対する恐怖を覚えるも、基本的には『いつもの流れ』をしている、という柔い安堵を覚える。
「そういや聞いたかアキラ」
「……何を?」
ちびちびと水を飲む俺に、バカラが問いかける。
「最近森に妖精が現れてるらしいぞ」
「はあ? 妖精ぇ〜?」
「応よ。物語なんかに出てくるアレな」
知ってる。俺が召喚された直後、訓練内容に耐えきれずに図書館で読書に励んでいた頃の話。
俺は操術師の能力の限界を知るために、操術師の偉人を片っ端から調べ上げていた頃のことだ。
俺は操術師と言う職業を調べる中で、一人の偉人を調べるに至った。
名前はマリアン。『慈愛の地母神』と呼ばれる修道女。かつて操術師が役に立たず、無駄飯喰らいと言う風評被害を受けて虐げられていた時代の人物だ。
彼女は操術師であるため、例に漏れず虐げられていた。その中で彼女は実の親に森に捨てられる事もあり、かなり悲惨な状態だったらしい。
そして森の中で一人の妖精と出逢い、操術師としての格を挙げて貰ったそうだ。
後に彼女は操術師として、彼女を虐げた人に復讐もせず、虐げられていた操術師を纏め上げ、今も戦争の前線に残る最後の砦、人類最後の希望である絶対防衛壁を作り上げた。
彼女はその功績で操術師の社会の地位を獲得するまでに至り、最期まで修道女として世界に貢献していったそうなのだが、それはまた重要な部分から脱線する別の話。
今重要なのは妖精と出逢った、と言う部分だ。
絶対防衛壁と言う現物が残る以上、それを作った人物がいる。人物がいると言う以上、その人の伝説は現実味を帯びる。
「……ふ〜ん」
日本のサブカルチャーと、この世界の常識の境目わからない以上、無闇な言動は慎むべきである。
真面目な思考を働かせる俺の目の前を、一本のフォークが通り過ぎて、俺の皿から唐揚げを奪った。
「あっ、てめ俺の唐揚げ取りやがったな!?」
「へへん、ぼーっと余所見してんのが悪いんだバァカ! いただきまーす!」
「ヤロウ!」
俺は拳を握りしめ殴りかかる!
俺とバカラの殴り合いは、本格的に夜が耽るまで続くのだった。




