28話 救済の前日譚
この話、というか、今回の騒動には前日譚みたいなもんがあってだな……
……ああ、いや、別に譚とか付けられるほど大層なものじゃないんだが、主人公は俺じゃないし、頑張ったのも俺じゃあないから、敢えて前日譚って付けさせてもらうよ。
前フリは良いって? わかった。わぁったからその不機嫌や顔を引っ込めてくれ、な? リーシャ?
さて。何処から話したらいいものか……
まず俺がリーシャがいないことに気付いた所からかな。
あれはビックリした。起きたらギルドにいて、しかもお前がいないんだもん。いつも一緒にいるやつがいないってのは、結構ビックリするもんなんだな。
んで、まず俺が取った行動は……俺だけじゃ何もできないから、近くで寝てたバカラを叩き起こして、相談したんだよ。
「おい、バカラ、起きろ。頼むから起きてくれ」
「……んぁ? んだよアキラ。寝みぃんだよぉ……」
大欠伸しやがったから操術で土を掻き集めて、アイツの眠ってやがる鼻に突っ込んでやったよ。んで、起きてもらった。
やりすぎだって? ばっかお前、冒険者はこんなんじゃ死にゃしねえよ。いつもこれよりも危険な目にあってお金を稼いでんだからな。鼻下に山葵付けるようなもんだって。
……そっか。山葵を知らないか。ごめんな。
話が逸れたけど、そんで起きたバカラに相談したんだよ。「リーシャがいなくなった」ってさ。
そしたらアイツ、不必要に大騒ぎしやがってさ。周りで寝てた冒険者の奴らも起きて来たんだ。
最初は何事だ、って苛立ちながらだったんだけど、バカラが説明すると、みんな目をギラつかせて「俺たちの仲間を拐ったのは、何処の何奴だ!」って騒ぎ始めてな。
お前、すごい慕われてんだな。俺の知らないところで何してたんだ?
……まぁいいや。そんで、みんな武装し始めた頃に、さっきの髭面のおっさん……ギルド長が、騒ぎに気付いて来てな。
一連の流れを話したら、「……ふむ。アイツか。うちのモンに手ェ出すとはいい度胸してるな。せっかく見逃してやってんのに」って憤り始めてさ。
いや、アレは本当に怖かった。髪が重力に逆らってんだもん。サイ◯人かと思ったよ。
んで、操術師の俺には戦闘はできないだろ? だから自分のできる範囲で、冒険者たちの士気を上げようと思ってな。馬鹿騒ぎをしてる間に、受付さんに相談したんだよ。
うん。いつも俺たちがお世話になってるあの人な。
「……そうですか。そんなことが。では、こういうのはどうでしょう」
そして提案されたのが、『クエストを発注して、お金の力を利用する』って案だった。
いやぁ、アレは俺も嬉しかったなぁ。だって俺もお金を貰えるし、出してくれるのは全額ギルドだって言うんだもの。……睨むな。睨まないでくれ。
しかも依頼料はギルドの方で持ってくれたんだよ。あの奴隷商に関しては、相当腑が煮えくり変えそうな気分なったんだろうな。般若みたいな顔しててめっちゃ怖かった。
けどギルドが冒険者全員分の額を負担できるわけじゃないから、そこはあの違法奴隷商を追っていた衛兵達と要相談、ってところだったんだな。
ギルドとあの奴隷商が締結した条約は、『ギルド所属の冒険者には一切手を出さないかわりに、ギルドも奴隷商側に一切手出しをしない』ことだったんだってさ。
お前を拐った男とギルド長は、古馴染みの友人だったらしくてさ。あの男が道徳的に動いてくれることを願って、仕方なく締結したんだとさ。
で、あの男が彼方側から条約を破ったから、こっちは倍返しにしてやろうって腹だったんだろ。あのギルド長、俺たちをダシにしやがったんだな。まぁ、お陰でお前は自由になれたわけだが。
場の状況に悪ノリした冒険者たちが計画したのが、『内側と外側の両方から奇襲をかける作戦』だった。
まず盗賊職が気配を消して、天蓋の中にいる奴隷達と接触し、取引をする。『見逃してくれたら世界の半分をやる』みたいな話だったんだと。……魔王じゃねえよ。あんま間違ってないから睨まないでくれ。
許可を取れたら、リーシャと親交が深い俺が、リーシャの場所を特定するために、客のフリをして中へと入って行く。俺……というか、リーシャがいるところで大暴れしないようにな。どうせ俺がいるところで
で、後は脳筋凸。速攻戦だったわけだ。どうせ腕利きの戦闘職なんて数少ないんだし、圧倒的数の暴力とお金のカリスマで袋叩きにすれば、勝てる見込みは充分にあるんだよ、だとさ。
「――で、後はお前の知ってる通り、圧倒的速度の蹂躙劇だったわけだ。いやぁ、あれは見てて痛快だった」
「……大半がお金の話だったような気がして釈然としませんが、取り敢えずお疲れ様でした」
「おう。これでまた一緒に冒険に行けるな」
ふっと笑ってやると、リーシャは表情を固めて口を一文字に引き締めた。そんなにキモかったかな、と思っていると、ふいっとリーシャは目を逸らす。
心なしか、尖ったエルフ耳が赤くなっていた。
やばい。口が勝手に動く。ニヤニヤが止まらない。
めっちゃ可愛いんだが。美形種族というのは、いつでも魅了を振りまける、インキュバスみたいな種族だったっけか。違うか。……違うよね?
「……はぁ」
詰まっていた息を吐く。
温い吐息が吐き出され、止まっていた時が動き出したかのように、心臓がバクバクと早鐘を打っている。
……しかし。しかし、だ。
どうせ平凡な俺にはできることが少ないということは――ようするに、できることは少しでもあるということなのだろう。
その少しの中でで全力を出し、誰かを助けるために生き延びるという選択肢も、あることにはあるのである、
生憎と勇者とともに戦えるほど強くはないが、それでも俺を必要としてくれる誰かがいる。――例えば、自分の隣を所望してくれたリーシャのように。
その誰かが傷付こうものなら、己の全てを賭してでも救出に向かうとしよう。
笑って、泣いて、怒って、これからの話を永遠としよう。
平凡な高校生くらいでも、誰かを助けることはできるのだ。ダサいくらいに生き延びて、這いつくばってでも信念を貫き通す。誰かを助けることくらい、造作もないのである。
「まったく、我が事ながら、難儀なもんだよチクショウ……」
――問題。
平凡な高校生は異世界で生き残れるのだろうか?
A.回答はまだ、ない。




