22話 銀等級クエスト
「蟲付きが見つかったデスってェエエ!?」
奴隷商館に甲高い奇声が響き渡る。
無駄に高い声を大きく出して、無駄に驚いたような素振りを見せたのは、この奴隷商館の取締役の男。
男ははちきれんばかりの腹よりも前に頭を出して叫ぶ。
「は、はい……蟲付きと思われる少女が、このカプアの街を見知らぬ男とともに歩いていたという報告が多数入っていまして――」
「すぐにでも捕らえに行きなサイ! 何を使ってでもアロンダイトを捕らえるのデス!」
「は、はっ!」
男の前に跪いていた奴隷商は、男に叫ばれると同時に立ち上がって蟲付きの確保へと向かう。
急いで蟲付き確保へと向かった彼の背を見送った取締役は、フンッ、と鼻息を荒くしてグラスを出して奴隷の女に注がせる。
「よくもまあ悠々と暮らせたものですねぇ……いいデスよぉ。アレには心配させた罰を与えなければ。帰ってきたら私に奉仕でもしてもらいましょうかねぇ……」
男はニヤリと口角を上げる。
下卑た表情でグヒヒと嗤うその表情は、正しく悪魔のような生き汚さだった。
「待っていなさい、蟲付きィイ!」
× × ×
「皆さま、今日はよろしくお願いします」
「よろしくねぇ〜。それにしてもリーシャちゃんは可愛いわねぇ〜。ねぇ、アキラくん。よければリーシャちゃんを――」
「――あげませんし貸しませんよ。借りパクされそうで怖いです」
「ケチ〜」
「まぁいいじゃねえか。今日は一緒にクエストするんだからよ。親交深めてもアキラは何も言えねえぞ」
「そうねぇ〜。じゃあ頑張って貰っちゃおうかしら」
「絶対にやめてね?」
リーシャを取ろうとしてきたのは、バカラのパーティメンバーであるへんた……おっと失礼。変態さんだ。褐色の肌に、猫のような細目。豊満な肢体を薄手の服から曝け出している痴女……おっと失礼。お姉さんっぽい感じの美女だ。しかし頭に生えているのはネコ耳だろうか。リーシャを狙おうとするとピクピクと動くのが可愛いのに少し怖い。
リーシャを取られるのはたまったものではない。うちの攻撃役を取らないでもらえますか、という意思を込めてリーシャを庇うように前に立つ。
「愛されてるわねぇ〜」
「あ、愛……!? そうなのですか、アキラさん?」
「ん、ああ、妹みたいに思ってるぞ」
「……そこは姉と言うべきでは?」
姉と思えないから妹と言ってるんだが。
ジト目で睨んでくるリーシャをいなす。
自分は兄弟姉妹もいない一人っ子だったためか、自然と一緒に暮らしているリーシャのことは家族だと思ってしまい、自分よりも背丈が低いから妹と思ってしまうキライがある。
たしかに年齢的には姉のほうがしっかりくるのかもしれないが、やはり自分からしてみれば童女体型のリーシャは、どうしても年下としか思えない。
――要するに、
「姉と思われたいならもっと背を伸ばせ」
「失礼ですね!」
「お、おい、魔剣士なんだから殴ろうとするな……うぼぁ」
綺麗なアッパーカットが、自分の下顎に炸裂する。魔剣士としての筋力値が高いリーシャのパンチは、確実に下から打撃を与え、意識を朦朧とさせる。
「あら〜。元気いいのね〜。リーシャちゃん、いつでも此方のパーティに移籍してもいいんだからね〜? 嫌だったらバカラを追い出すから〜」
「ちょ、おま、酷くない?」
「はい。絶対にないとは思いますが」
「あれ? リーシャちゃーん? オレ、ムシ?」
なんか巻き添えを喰らっているバカラを無視して女子トークを続ける女子2人。
「……ドンマイ」
「おい。そりゃあどういう意味だ?」
肩にポンっと手を置いて、哀れみを込めてバカラを見る。どうにも彼からは自分と同じ臭いがする。頑張って場を盛り上げようとしたら、逆に盛り下がってしまう努力が空回りする男の匂いが。
「で、話は変わるが今日は何を倒しに来たんだ?」
「ああ、そういや言ってなかったな。“サスカッチ”っつー、でっけぇサルだ」
でっけぇサル。
めっちゃ情報不足すぎるんだが。
「……でっけぇサル?」
「おうよ。人里に現れては農作物を奪ってくって話だからな。オレも見たことがあるモンスターでな。灰色の毛並みに足長で胴長で腕長っつーバケモンだが」
「なるほど。つまり人型のモンスターなのですね。ならば手足を落とせば命を刈るのは容易いと」
……えぐっ。
「おいアキラ。リーシャちゃんってこんなに怖かったのか? 目がマジなんだけど」
「ああ。だから怒るとめっちゃ怖いんだろうなぁ、っていつも思ってる。結構考えることえげつないんだぜアイツ」
「こら〜。男子2人〜? 可愛い女の子を物騒な輩扱いしちゃダメでしょ〜?」
ヒソヒソとリーシャの危険性を話し合っていた自分たちは、スコットさんに窘められる。
「ハ、ハイ……」
「以後気を付けます……」
「うん〜。それで良し〜」
満足気に頷くと、再びリーシャと親交を深めようと、エルフの少女の元へと戻って行く。彼女も彼女でかなり怖い部類の女性らしい。
「……バカラ。お前も苦労してんのな」
「……おう。アイツ理性的に見えて結構バーサーカーだからな。制御するのはいつも俺なんだよ」
「悪かったな。馬鹿だヤツだなって思ってて」
「おう。……待て。そんなこと思ってやがったのか!?」
そんなたわいない談笑を楽しみつつ、サスカッチが出るという洞窟へと向かっている最中だった。
――バキッ。
――ズシンッ。
木が折れて砕け散るような、倒れていくような音を、自分の耳が拾い上げた。近くではない。少し遠くから聞こえてきた倒木の音。自分が拾い上げたのだ。自分よりもレベルが高いバカラたちが聞こえていないはすがない。
黙り込んだバカラに、今の真相を尋ねる。
「お、おい、今のは……?」
「わかんねぇ。だけど木をなぎ倒せる“何か”がいるってことは確かだ。まぁ、多分サスカッチだと思うんだが――スコット! いつでも魔法を使えるようにしておけ!」
「はいは〜い。りょ〜かい〜」
「アキラ。お前ぇらの戦い方はわかんねぇが、お前ぇとは馬が合う友なんだ! 手助けしてくれるって信じてるゼ!」
「はいはい。何処まで手伝えるかわかんないけどな! やるぞリーシャ!」
「はい!」
ズシンッ。ズシンッ。
地響きは大きくなり、音は先ほどにも増して段々と近づいてくる。バキバキと木をへし折って、自分たちのいる位置へと真っ直ぐに歩み寄ってくる。
――そして、ソレは現れた。
体長2メートルくらい大男。筋骨隆々とした灰色毛並みの褐色肌。しかし顔には毛が生えておらず、落ち窪んだ低い鼻。刺激臭が鼻腔を刺激する。
自分は知っている。いや、知っているというのは違うのだが、知識のみだがわかっている。
合衆国の森に出没したというUMA。
『人に似た動物』の名を持つ巨人。
世界的に有名なその名を――
「ビッグ……フット……?」
世界的に有名で、しかし確認報告だけしかない野人が、異世界の森の中で牙を剥き出しにした――!




