21話 チンピラに絡まれた帰り道
「なぁアキラよぉ……お前ぇ、もう少し冒険者っぽくなってみたらどうだ?」
「突然なんだよ」
いつも通り銅等級クエストをこなして、出たドロップアイテムをリーシャに渡し、アイテム換金に向かったリーシャの戻りを待っていると、軽装甲冑を着た戦士姿の男に絡まれた。
場所が冒険者ギルド内ということもあってか、自分たちのホームグラウンドで安心しきった冒険者は調子に乗る習性を持つ。だから普段話しかけない自分みたいなやつにも絡んでくることもあるのだ。
幸か不幸か、彼は自分も知っている冒険者だった。
名前はバカラ。彼を簡単に説明するなら、悪童ながらも不良になりきれない金髪の冒険者だ。
このギルドに来たときに俺たちの前に並んでいた冒険者で、何かわからないことがあった時によく近くにいるから仲良くなることができた。
彼は酒に酔っているのか、顔を赤くしている。そして酒臭い。俺と同い年くらいなのにこの時間で酒に酔っているというのは、さすがに問題ではないだろうか。
「お前ぇ、いっっっつも銅しかしやらないらしいじゃねぇか。2週間くらい経ってんだろぉ? そろそろ銀クエやったって大丈夫なんじゃねぇのかぁ?」
「いやいや、俺なんかで銀をクリアできるわけないだろう?」
「いーやいや、そんなご謙遜を……。わかってんだぜ? お前が操術をめっちゃ上手く使ってんのはよぉ……」
謙遜かどうかは置いておいて……わかってる?
自分の操術を誰かの前で披露したことはない。使うのは1日に多くて3回ほど。朝練の時とクエストの時、そして夜練の時だけだ。誰かに見られたことなんてないし、見られてるとしたらリーシャくらいのものだろう。
「その情報のソースはどこだ?」
「あ?……ほれ」
「は?……いや、調味料じゃなくて」
突き出される調味料のボトル。
この男、どれだけ酔って自分に絡んできてるのだろうか。あろうことか源泉と調味料を間違えやがった。同じ発音だけれども。
「あぁ? お前ぇが朝に練習してるのを見たことあんだよ。そこらの工事現場にいる工事員より上手いかったぜ。なんか人形劇やってたもんなぁ」
「お前がソースかよ! 別に上手かねえよ。少しだけ細かい作業が得意なだけだよ。やろうと思えば操術師なら誰でもできるよ」
「はっはっは!」
「なんの笑いだよそれぇ!?」
ちょっと怖いコイツ……。
「そんなわけで、だ……。アキラ、お前ぇ、リーシャちゃん連れて、一回俺たちと一緒に冒険に行く気はねぇか?」
「冒険に?」
「そーだ。一回だけでも冒険に行きゃあ、もっと冒険に行きたくなるって寸法さ!」
「いや寸法ってお前……。……うーん、でもなぁ……。俺のほうはリーシャの許可がいるし、お前のほうの仲間にも説明しなきゃなんねえだろ?」
「安心しろ。お前のことはすでに話してある! 行くぞ、アキラ! 勝利の扉は目前だ!」
「なんだよ勝利の扉って! そもそもスタートしてないんだが!?」
カバラが肩を抱いてテーブルの方へ連れて行こうとする。もちろん自分は抵抗する。酒飲みに付き合わされるのは御免なのである。
すると男衆の背後から、鈴が転がったような凛とした、それでいて可愛らしい少女の声が、アキラの名を呼んだ。
「アキラさん。換金終わりましたよ……、と。バカラ様とお話になられていたのですか」
「おぉーっ、リーシャちゃーん! 今日も今日とて可愛いねぇ。アメちゃん食うか?」
「バカラ様。何度も言うことになりますが、わたしは貴方よりも年上です。飴は貰いますが」
子供扱いをやめろと言ってすぐに食料を貰うとは。コイツもコイツで現金なやつである。
「よし、リーシャ、帰るぞ」
「え? あ、はい」
「おぉーい、アキラー。今度行こーぜー?」
「はいはいわかったわかった。銀クエのことはリーシャに確認取れたら、頭に入れておくことを善処するよ」
「覚えておく気はまったくないんですね……」
わざわざ自分のレベルよりも適正レベルが高い銀等級クエストを受領するなんて、自殺も良いところだ。ましてや自分は操術師。戦士や魔法使いみたいに真正面から堂々と戦えるような実力は持っていない。
……勇者、なりたかったなぁ。
「さて。それで先程の話に出てきた銀等級クエストとは? 何のことですか?」
「あの馬鹿が言い出したことだよ。アイツのパーティメンバーと一緒に行こうぜってさ」
「……なるほど。行ってみてもいいのではないでしょうか?」
「……銀等級クエストだぞ? いつもの銅等級クエストより遥かに厳しいんだぞ? 死ぬかもしれないんだぞ?」
「ええ、はい。分かっています。しかしわたしたちはいま金欠です。それはわかっていますよね? ですので、ここで一発逆転を狙ってみては如何でしょう」
「……うん。まぁ、たしかに」
「幸い、誘ってくださっているのは戦士職であるバカラ様ですし、後衛であるアキラさんが前に出るようなことにはならないでしょう。ならば必然的に臨終を迎える確率は減ります」
あまりにもあっさりしていたものだからつい聞き流しそうになってしまったが、コイツ、バカラのやつを肉壁にしろって言ったんだよな。腹黒いわぁ。
「使えるものは最大限使い切る。それがわたしの戦い方ですので」
「……使い切る前に引っ込めてやれよ?」
「それは無理です。見逃してしまう癖がありますので」
「最悪だな!」
こうして話しているうちにカプアの街の門は潜り抜けている。いつも見送ってくれる守衛さんに手を振ると、三十路くらいの男の守衛さんがにこりと笑って手を振り返してくれた。
「さぁ、今日は何を作ってくれるんだ?」
「そうですね……趣向を凝らして、マンドレイクでも使ってみましょうか。」
「へぇ、マンドレイク……マンドラゴラか……。美味いのか?」
「はい。神経毒は驚異的ですが、八百屋で売っているマンドレイクは毒素は抜いていますので、ただの美味しいキノコです。精がつく料理になりますよ」
「ふーん……」
「ただ精がつきすぎて発情してしまうという難点もありますが……」
「ほとんど媚薬じゃねえか」
それをわかっていて言うリーシャが怖い。
「冗談です。マンドレイクは使いませんよ。今日はシチューでも作りましょうか」
「了解。じゃあ買い物に行くか」
「はい」
最近、ほのぼのとしすぎている感がある。
今頃、クラスメイトたちは何をしているのだろうか。一条あたりがイキってそうだなぁ……、と失礼なことを考えつつ、柏原さんには悪いことしたなぁ……、と思い返すのだった。
いつか柏原さんには謝りに行かなきゃなぁ……。




