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76話 人質取られて

 アキラが一益の陣に着くと、そこには陣幕の側面から中を覗く一益の姿があった。

 何をしているのか、と声をかけようとするより先に、アキラの存在に気がついた一益が手招きでアキラを呼んだ。


「何してるんすか」

「おお嘉瀬殿。お待ちしておりました。百聞は一見に如かず。中を見てくだされ」

「……え?」


 一益の袖の下を潜り陣幕の中を見る。

 そこには床几の前で正座している男がいた。


 坊主が着ている袈裟に身を包み、笠を被って顔が見えない男。

 恐らくその男から醸し出されているのであろう、凛と引き締まった雰囲気が陣内を占めている。


 火を見るよりも明らかに只者じゃない。

 というか、なんで武士の陣にいるんだ。


「…………え?」

「同じ気持ちです。すごく入りづらい」

「いや、じゃなくて……誰すか、アレ」

「知りませぬ。諸国を放浪している僧、としか」

「怪しすぎるでしょ」


 なんでそんなヤツ入れたんだ。アポ取れアポ。


 荷物検査とかしないのか?

 セキュリティどうなってんの?


「通した者からは帯刀していたとか。どうにも旅の僧らしいですな」

「旅の僧って刀とか持ってんだ……」

「畿内でも野盗は多いですからな。それは東海も同じこと。武装して損することはありませぬ」

「それはそう……とはいえ、ですね。あまりにも怪しすぎる」

「ええ。ですので奇策師殿に一つ提言があるのです」


 ほう。提言とな。

 嫌な予感しかしないが受けて立とう。


「…………わかりました」

「そう嫌な顔をされますな。報酬は用意致しますので」

「…………」


 多分、今回の侵攻軍で一番の個人戦力は、恐らく俺だろうからな。


 仕方ないといえば仕方ない。



 チクショウ。



ーーー



「………………む」


 静まり返った陣内にて、正座して瞑想する僧侶は微かな布切れの音に反応する。

 シャッと開けられた陣幕から入ってきた足音は、僧侶の隣を通り過ぎ床几にまで移動する。


 そしてギシッと音を立てて座ると、ようやく僧侶に話相手が出来る。


「遅くなって悪かったな」

「いえ、お目通り叶い恐悦至極で御座る。――()()()

「うむ」


 旅の僧侶の前に出た完全武装の男。

 黒い兜には丸に竪木瓜。黒い甲冑の上に赤い陣羽織を着た滝川伊予守一益――と偽った、嘉瀬アキラ。


 いわゆる影武者というヤツだ。

 不審極まる坊主の前に、敵地に踏み入った軍の大将を出すわけにはいかない。

 かと言って適当な人選にするわけにもいかないし、簡単な受け答えを出来る者でなければいけない。


 そして白羽の矢が立ったというわけだ。


 正直緊張してしょうがない。

 どういう反応をすればいいのか思考が収まらず、いつ殺しに掛かられてもおかしくない。

 そりゃもちろん殴られたら殴り返すが、それでも一応念の為、ということもある。


「して坊主。其方の名はなんという?」

「ははっ。某は名を……っ」


 垂れた頭を上げ、僧侶はアキラの顔を見る。

 すると言いかけた言葉が止まり、詰まらせたように喉を鳴らして驚愕を露わにした。


「…………」

「あれ、アンタ……」

「チッ……!」


 動きを止めた僧侶に、疑念を抱いたアキラが声をかける。

 すると僧侶は、さながら神速の如き速さの手つきで、懐から短刀を取り出しアキラの首に突きつけた。


「……おっと?」

「動かず、騒ぐな。某の質問にだけ答えよ」

「嘉瀬殿!」


 あまりにも突然な出来事の上、相手の早過ぎた動きに対応できなかったアキラは為すがままに捕えられる。


「動くな。動けばこの者の首を刎ね飛ばす」


 その光景を見ていた一益が、ようやく陣幕の外から現れるが時既に遅し。

 近接の距離での出来事には、流石の滝川でも反応が遅れて手出しが出来ない状況に陥ってしまった。




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