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67話 方針

 越前朝倉家。

 織田家と同じく斯波姓を名乗る家系を追い落とし、越前での基盤を盤石にした一族。

 史実では浅井家と共に信長を追い詰め、その結果姉川の戦いで押し返され滅亡に追い込まれたことで有名だ。


 そんな朝倉家なのだが、最近少々織田家と揉め始めているのである。

 理由としては朝倉家が治める領土の問題だ。朝倉家の領土は美濃と京都の間、下手すればニ国を分断する壁になりかねない位置にあった。


 これに関して信長は、現朝倉家当主・朝倉義景に対して苦言を呈し、上洛を促したがこれを完全に無視。

 現在幕府内での織田家の権威は、上洛戦での功績から朝倉家を凌ぐ物となっており、すなわち幕敵と認定されかねない対応だった。


「朝倉家は足利将軍からの要請も無視していますしね……あの将軍のことです。義昭幕府の朝倉潰しが始まりかねない、とは考えていますよ」

「であるか。だが当家としては越前には兵を割きたくない。理由はわかるな?」

「伊勢志摩や摂津河内、ついでに西の情勢ですか?」

「加えて一向宗もだな。特に比叡山の門徒の素行は気になる。京の治安に直結する問題故な」


 もちろんこの他にも色々あるが、目下の問題としてはこんな物だろう。

 越前の朝倉、伊勢志摩の北畠、阿波の三好、中国地方の毛利、そして畿内の宗教勢力か。


 なるほど信長包囲網。

 周囲マジで敵ばっか。


 片付けるとしたら、唯一明確に敵意を剥き出しにしている三好だろうか。

 けどその他勢力も無視は出来ないしなぁ。何処から手を付ければいいのかわからないってか。


「なら朝倉が此方に攻める理由は皆無なので、これは無視ですね。手を付けるべきは三好でしょう。いま三好家は阿波公方様を囲っています。これの保護、或いは――」


 ――殺すべき。

 とは口に出せなかった。


 相手は仮にも十四代将軍である、

 口に出せば将軍殺しの汚名を掛けられかねない。やるなら裏で、人目のないところでるべきだろう。

 一家の大黒柱ならば、汚名は出来る限り被るわけにはいかない。アキラの意思を汲んだ信長は「うむ」と頷いた。


「副王亡き今、三好は混乱の最中にある」

「ですね。出陣します?」

「将軍に許可を得てからであるな。貴殿にも参戦を要請するかも知れん。支度を進めておけ」


 …………えっ。



ーーー



 岐阜城は自然に囲まれた城郭である。

 人はこれを“ど田舎”と呼ぶのだろうが、信長からすれば山に配された函谷関。

 かつて蜀漢の諸葛亮、前漢の高祖が求めた、自然を利用した天然の要害なのだそう。


 そんな岐阜城の城下は、非常に栄えている。

 流石は元々商人が奪った国、とは信長の言。尾張と美濃の収入だけで軍の財政を潤せるらしい。


「千代、茂勝、欲しい物はないか? パパなんでも買っちゃうぞ」

「……えっと、茂勝。先にどうぞ」

「あ、義姉上こそ。あたらしい櫛がほしいといっていたではないですか」

「どっちが先でもいいぞ。好きなモン買ってやるからな」

「……アキラくん、あまり甘やかさないでね」


 優梨に注意を受け流し、アキラはニッコニコ顔で子供達を甘やかそうとしている。

 実はクリスマスに当たる六日前にも嘉瀬家の行事として、子供達の欲しいものを買っている。


『そうだよ。子供って何考えるかわからないんだから』

『うるせえ。お前はなんなんだ』

『通りすがりの父親だよ』


 お前子供いんの?

 あんな子供っぽいナリしてやることやってんのな。

 いや待て、子供はどこだ子供は。お前子供ほっぽり出して何やってんの?


『まぁそんなことはどうでもいいじゃないか』

『どうでもよくはないけどな』


 クズ親してんな。

 やってることアレだぞ。茂勝の父親と同じだぞソレ。


「アキラくん?」

「ん、どした?」

「いや……突然黙ったから」


 念話で話していると黙ってしまう癖がある。

 電話て話していると対話が出来なくなるアレと同じだ。マルチタスクを熟せないととこうなる。

 とりあえず念話の話を子供達に聞かせるわけにもいかない。優梨には後で話すとして、今は隠しておこう。


「財布の中どうだったかなって思ってね」

「じゃあ買わなければじゃん。まったく……」

「それはダメだ。子供にはお年玉をあげないと」


 父性を超えて、もはや使命感である。

 いつも通り子供に甘々なアキラに呆れ、優梨はため息を吐くと自分の財布を取り出した。


「……お年玉ならしょうがないか、私も出すよ。だからアキラくんは無理しないでね」

「まじか。ありがとう優梨」


 優梨は厳しいスパルタ母ではあるが、それ以上に面倒見のいい性格をしている。

 こういう時に率先して手伝ってくれる。子供に甘いのはアキラも優梨も変わらない。


「義父上、義母上。私達は大丈夫ですので……」

「そうですよ。居候の身には余りあります……」

「うるさい。そりゃお前たちが大きければ話は別だが、年端も行かない内は親に甘えなさい」


 アキラの言葉に、優梨もうんうんと頷いた。

 厳しく躾けようとも気持ちは同じのようだ。


 一応、子供に自立を促す親心も持っている。塾の先生やってるからね。

 だけど千代も茂勝もまだまだ小さい子供だ。子供が子供であるうちは、アキラは子供達を甘やかすだろう。


「そ、そうですか……」

「母上もそう仰るなら、お言葉に甘えます」

「よーしパパ張り切っちゃうぞ」

「アキラくんは張り切らなくていいよ? いいからね?」

「あ、はい」


 かつてない気迫に押されて首を下げる。


 嘉瀬家はかかあ天下であった。



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