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66話 1566年元旦

 新年早々、アキラはげっそりとやつれていた。

 理由はと言えばはっきりとしているが、その理由を知らない優梨からすれば不自然でならない。


「どうしたの、アキラくん? なんか気分悪そうだけど……」

「大丈夫、何でもないよ。……それより喉詰まらせそうなくらい雑煮食ってる茂勝を止めて来てくれ、優梨」


 五年も一緒にいれば互いの癖は覚える。

 正月早々、気分というか機嫌が悪そうなアキラを見て訊ねてくる優梨をいなし、アキラは頭に響く子供の声に対応する。


『子供いると大変だよね。わかるよ、本当に』

『うるせえ黙れ。原因はお前なんだよ』


 と、念話の中での会話。

 子供が増えたような、どころの話ではない。問題児が頭の中で直接騒いでいるような感覚なのだ。

 いくら子供と関わる仕事を生業にしているとはいえ、年齢不詳の厄災系問題児を相手出来るほど心は出来ていない。


『ていうか、なんで今までこの通信をしなかったんだよ。まさか、本当に『終末論』とやらは連絡阻害系なのか?』

『近からず遠からずだね。この日本は『終末論』由来の魔力が多すぎる。お陰で僕の魔力を送るのにも一苦労だったんだよ』

『魔力が多い……?』


 それは体外魔力マナの話か?

 体外魔力が多すぎて魔法が使えない、なんて聞いたことないんだけど。

 ……あ、そっか、違うな。体外魔力じゃなくて体内魔力オドのことか。なるほど、だから連絡阻害系ボスか。


『昔『終末論』が暴れたことがあって、その名残で『終末論』の魔力が残り続けてるってことか?』

『おっ。もう少し説明が欲しいかな』

体内魔力オド体外魔力マナが反発するなんて聞いたことない。多分お前の体内魔力と『終末論』の体内魔力が反発したんだろ?』

『正解!』


 原理は魔法戦で見られる物と同じだ。

 魔法オド魔法オドはぶつかる。

 しかし空中分解はしないオドとマナとはぶつからない

 マグナデアの資料では、これを反発と呼んでいた。


 つまり今回の場合、アグノスの魔力と『終末論』の魔力が反発した。

 その結果アキラとアグノスの間に繋がるホットラインが劣化したのだろう。


(『終末論』は自前の体内魔力を御せてないのか。

……或いは……)


『とにかく心身には気をつけてね。残党然り教団然り、キミには敵が多いんだからさ』

『……ああ。ご厚意悼みいるよ』


 なんせ嘉瀬アキラには敵が多い。

 出来ればこの念話もあまり使わないでくれると精神衛生的にいいんじゃないかな。



ーーー



 元旦とはいえ、アキラはぼっとはしていられない。いつの世も拶回りは世の常だ。

 アキラは優梨と子供達を連れて岐阜城へと登城する。戦国時代の正月は、殿様に顔を見せなければ無礼者として切り捨てられるらしい。


 いやまさか家臣でもない俺にそんなことはするまい、とは思ったが相手は魔王・信長である。

 万が一も含め、妻子を連れて登城はしておくものだろう。本音としてはあまり関わってほしくないが。


「明けましておめでとうございます」

「うむ、新年早々大義である。愛智殿あいちどのも久しいな」

「はい。覚えていただき嬉しゅうございます」


 愛智殿と呼ばれ、アキラが教えた古語で対応する優梨。


 愛智殿とは織田家内での優梨の呼び方である。

 地名に紐付けられた名前は本来、その土地を有する大名やその家臣の妻に贈られる物だが、何故か優梨も土地名に紐付けられて呼ばれている。

 その理由と言えば、アキラと優梨がふたりで記したとある本なのだが――


「参謀殿は我が軍の恵比寿柱だが、愛智殿は我が国の智である。何かあれば我を頼るといい」

「ありがとうございます。であれば我が夫をこれからもどうかよろしくお願いします」


 嘉瀬塾の教材として扱っている『阿書』。その理系分野の方が話題になっているらしい。


 


 そういえばこの時代では研究テーマにすらなってないことが色々書かれてたな、とは思っていたが。


 まぁ将来どこで役に立つかわからないし、子供達のためにも別にいいかと思っていたら。


(なんか派手に話題になってたんだよな)


 この時代では使われていない記号や言葉を使っているから与太と思われるかと思っていたんだけど。

 例えるなら未来から現代にタイムマシンを持って来たみたいなものか。正確で新たな知識、この時代では思考不可能なオーバーインテリジェンスは専門家達にとっての宝らしい。


 ちなみに文系の方も話題になっていたりする。

 精々がアキラが遊びのつもりで作った魔方陣(クロスワード)が貴族に大ウケ、都遊びの一つになっている程度だが。


「さて愛智殿。これより参謀殿との話がある。積もる話は山々だが、一度席を外しては頂けぬか?」

「左様ですか。では……外で待ってるからね、アキラくん」

「うん。千代と茂勝をよろしくね」


 部屋から出ていく優梨に、外で待つ二人の子供を頼む。

 柔らかくした目付きを真剣に戻し、


「……それで、話とは?」

「うむ。越前の朝倉である」


 ……朝倉かぁ。

 名前から察せる嫌な予感を脳裏の隅に、アキラは信長との作戦会議に臨むのだった。



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