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61話 最後の仕事≒

 数日の時が経つ。出立の時が来た。

 今日アキラは京の町を出て、尾張の我が家へと帰還する。


 だがその前に後片付けだ。

 やるべきことは終わらせて帰るべきだろう。


「世にも危険な放射能とはいえ、俺の魔力から排出されたもんだからな」


 水爆を生み出した時に生まれた放射能の後処理。

 水爆生成時に発生した放射能と爆発は、拡散する前にできる限り質量を合わせて土に変えて洞穴を埋めた。

 放射能は無害な土となり、死者の土葬という意味でも頑張った方だし、自分でも完璧な作業だったと感じている。


 しかし現代日本で培った心配症が発揮してしまった。

 念の為比叡山に登り、件の洞穴があった場所まで辿り着く。


 そこには狩衣を着た、見覚えのある青年が立っていた。


「ここにいたんですか」

「おやアキラ殿。ご息災のようで何よりです」

「あの時は死にかけましたよ。まぁ一番の爆発は俺のモンですからね。俺が無傷なのもわかっていたでしょ?」

「いいえ? 天神様が怒ったのかと思いましたよ」

「みんな言ってます」


 そりゃそうだ、と晴明が笑う。

 無知は怖いが可愛くもある。何も知らなければ神を信じて、神の怒りのせいにする。

 ()()調()()()()()()からしたら、無辜の怪物を信じる者達は面白くてたまらないのだろう、


「んで()()。何点ですか?」

「…………」

「どうしました、師匠? まさか俺が気付いてないと思ってました?」


 晴明のナリをした男。

 平安時代の陰陽師のような格好をしているが、彼は本物の安倍晴明ではない。


 ニヒルに口角を上げた男の姿は露に消え、代わりに例の頭に直接聞こえてくるような声がする。


『いつから気付いていた?』

「いつからでしょう。わからないですけど、多分貴方に習っている時に、ふと思ったんです。これ遠隔で術式行使無理じゃね? って」


 魔法は操術と勝手が違うが、それでも基幹となる構造は似たり寄ったりだ。

 魔力を消費して術式を編み出し、その術式を以って神秘の模倣を扱う。自分の魔力を流した土しか操れない操術と同じだ。


 無論行使している間、消費し続ける魔力量による制限はあるわけで。

 いくら役小角とて長い期間、しかも遠い距離へ術式を行使出来るわけがなくない? じゃああの青鬼は、頭へ直接語りかけてくる声は何? と。


 そこまで来れば、答えを得るのは早かった。


『ならば、安倍晴明……否、姿を化かした我に出会った時からわかっていたと?』

「本物ならそれで良かったんですよ? でも守護霊になるって言った途端どっか行きましたからね。疑うでしょそんなん」

『喝々。生意気ではないか』


 ふはは、と師匠が笑う。

 だが恐らく心は笑っていないのだろう。師匠は看破されるのを嫌う傾向がある。

 せっかく上位を取れたのだ。この際、鬱憤晴らしにいろいろ畳み掛けてみるか。


『おい、心の声は聞こえているぞ』

「ごめんなさい」


 心の中に留めておくとしよう、そうしよう。

 好奇心一つで日本最強格の呪術師に呪われるとか恐ろしいことこの上ない。好奇心は猫をも殺す。はっきりわかんだね。


『だが、よく見抜いた。八瀬童子で見せた武勇、正体を看破した智勇。まさに傑物の域よ』

「ありがとうございます」

『だが試練を怠ること勿れ。貴様が対峙する化け物は、この程度では倒せぬぞ。歴史がそれを証明している』

「……どういう類のバケモノなんですか?」


 アキラの問いに師匠は暫く黙る。

 どう答えようかと迷っているようにも見える。


 師匠は暫くした後に一言、


『彼奴に近づいてはならぬ』

「……倒さなきゃいけないのに?」

『近付けば死。あれは、そういう類の怪物だ』


 遠隔攻撃必須ってことか?

 あれ、でも要求されてる要素って剣、魔力、フィジカルだろ? 白兵戦想定の要素ばかりでは?


『いま意味を考える必要はない。お主が歩む道の先で、必ず彼奴と相見える。我が言の葉の意味は、その時に解するであろう』

「そっすか。楽しみに……は、流石にできないですけど、考える力はそれまで蓄えておきます」

『知、識、考はそれだけで強大な力となる。十全に発揮できるよう、日々磨いておくことだな』


 ふう、と一息ついた師匠は少し休んだ後に、『どっこいせ』とじじい染みた掛け声をした。無理すんなジジイ。


『さて。そろそろ行こうかの』

「どこかに行くんですか?」

『うむ。西へな』

「また西ですか」

『今度はこれほど近くないぞ。時機が悪ければ二度と会うことはないやもしれんな』

「そんな遠くに行くんです?」


 うむ、と頷く。

 じゃあこれが最後の可能性もあるってことか。


「今度は俺から会いに行きますよ。具体的には何処に行くんです?」

『さてな。お主が来る必要はない故、我が言うことはないな』

「何処までも秘密主義なんすね」


 ここからさらに西か。

 俺が行くことはなさそうだな。倒すべき『終末論』も、何もかも、アキラが見据える全ては東にある。


 ……あるとしたら一つ、千代の実母の捜索くらいか。中途半端で終わらないもんな。


『お主、確か子供がおったよな?』

「え? あ、はい、二人います。息子が一人と娘が一人」

『そうか。では餞別だ、持ってけ』


 コツン、と何か足元で落ちる音がした。

 音に気がついたアキラが下を確認すると、銀色に輝く丸っこい鈴が落ちていた。


「鈴ですか?」

『魔除けの鈴だ。無病息災、家内安全、心願成就。その他諸々ご利益のある鈴である』

「……音鳴らないんですけど……」

『そういう物だからな』


 鳴らない鈴ってこれ如何に。


「縁起物ってことですか」

『然り。守護神の呼び鈴である』

「呼び鈴て……」


 音鳴らないのに?

 守護神サマにも聞こえないんじゃないかな。


『ではな。我が為すべき事は為した』

「…………うい」

『なんだ、不服そうだな』

「聞きたいことが山程あるからなんすけど。まぁ、話してくれなさそうなので諦めます」

『賢明だ。我が話す事は何もない』


 こうなったら師匠は意地でも話さなそうだ。

 粘ってみてもいいが、ここから先は平行線。余計な手間は省くべきである。


『後事は暗雲ぞ』

「いつものことでしょ」

『うむ。頑張れよ』


 この先、アキラと役小角が出逢うことはない。

 だが平成に託された飛鳥の想いは、この先の波乱を予感させる。そして混乱の渦から身を守る強さとなるのである。



 ……ところで本当に何処(ry



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