58話 異世界にもない最強の技
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八瀬童子 124
種族:屍人鬼
レベル:94
職業:幽鬼
筋力:781
体力:693
耐久:375
敏捷:108
魔力:27
食人文化( X )・信仰の証( X )・徒手空拳( Ⅶ )・呪ノ御印( Ⅱ )
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能力だけ見たらめっちゃ強い。
欠点は魔力の数値が低く、対術師で遅れを取るくらいだが、その他は流石フィジカルの鬼と言うしかない。
魔力の数値は魔力の量、質、対魔法防御の総合数値となる。つまりあの鬼は魔法に弱いのだ。
だからと言ってアキラは魔法攻撃が得意ではないので、鬼を圧倒出来るかと問われれば無理と答えざるを得ないが。
ともあれ雷による感電攻撃は効いた感じはした。あの感じでジリジリ追い詰めていけばいずれ倒せるだろう。
だがそれでは少年が疲れてしまう。
ただでさえこんな薄暗く、汗血糞の臭いが充満しているのだ。
異世界で似たような経験をして耐性のあるアキラの感覚では、背負っている少年の意識を保つことは出来ない。
(さて、どうすっかな)
石は腕力で破壊される。
しかし電気は通る。つまり身体で触れない攻撃が通るのだろう。
何が思いつく? 火、水、風、電気……色々あるな。方法は沢山ありそうだ。
「なるべく早く終わらせたいからな……少し荒々しくすっから掴まってろよ、少年!」
「え……な、ぁ!?」
ボム! 生成していた水を全て煙に変える。
それだけで洞穴の中はすっかり煙で満たされ、何処もかしこも五里霧中。せっかく暗闇に慣れた目も使い物にならない。
「ぬっ……また目眩しを……」
「喧嘩の基本、まずは目潰し。当たり前だろ?」
コツン、と童子の額に小石が当たる。
投擲元ははアキラのいた方向。間違いなくアキラからの攻撃だ。
童子は逃れようとするも、接触するほど近付かれたのは紛れもない事実。小石が光を放ち――
「――ッッ!?」
大爆発。
けたたましい音と共に爆裂四散した。
「ギ……ガァアアアア!?」
「痛いか、痛いだろ。爆破なんてこの時代じゃ貴重だからな。しっかり味わえ」
そう言うアキラの周囲には、どういう原理か宙に浮く小石が大量に浮遊している。
「投石開始、『投石機』」
アキラは号令を下すと、鬼に向かって投石を開始する。
風が乱れ、世界が軋み、小石はさながら砲弾の如く射出の準備を始める。
「ブッ飛べ」
飛来する小石は全てが鬼に命中するわけではない。
だが全ての小石が爆発し、直接だろうと間接だろうとこの狭い空間では必ず被弾する。
逃げ場は唯一アキラの近く。だが当のアキラが鬼に逃げ場を作るはずもない。弾幕は一層激しさを増していく。
「グッ……正々堂々と戦え! 遠くからチクチクと、卑怯だぞ!」
「テメェが言うな。さっきから呪術が飛んで来てんぞ。抵抗しながら打つのも楽じゃねんだわ」
「……チッ」
魔力値が高いのが幸運だった。
呪術とはいっても程度は低い。魔法行使と呪術抵抗の並行作業でも十分に戦えてる。
いや楽ではないんだけども。
(頭がピリピリする……魔力使いすぎたか)
「アキラ殿。そろそろ時間が……」
「わーってます! 俺もそろそろキツいんで終わらせます!」
遠くで見ている晴明に言われ、痛みに苛つくアキラは叫びで返す。
これ以上時間を掛けても魔力が足りない。勝てる勝負を引き伸ばしても何も良いことはない。
ならケリをつける。
何が鬼の高耐久だ。なんぼのモンじゃい。
「傲慢にも勝てると思うか!」
「思うよ。俺がただ爆弾投げてるだけだと思ってる? 本当に脳がないのね」
いい加減覚えておけ。
俺は楽でいいけども。
「魔力転換・D&T」
「なっ……貴様まさか――」
気づくの遅えよ。
水から煙に、或いは石に、そして爆発のエネルギーに変えられるなら、その爆発のエネルギーは何処へ行くのか。
何処にも行かない。
消えもしない。
そこに充満するだけ。
アキラが作り出した物。
或いは副産物で生まれたエネルギー。
それら媒体を操ることこそ、アキラの魔法の正体だ。
そして、やるべきことはただ一つ。
世界最強の攻撃だ。
「世界最大の爆発は、二重水素と三重水素の間で起こる条件ガバガバ化学反応の時に発生する……って優梨が言ってた」
つまりどういうことかと言うと。
「最大にして最強を食らえ……水爆!」
光と熱、そして世界を軋ませる地鳴りのような大きな爆発音が比叡山を覆う――!