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57話 まずはココから

 元々の作戦はこうだ。


 安倍晴明曰く、八瀬童子は挑発に弱い。

 故に少し煽れば猪の如く猛進してくることだろう。という助言を受けてカウンターパンチを繰り出すことを念頭に置いていた。

 人間の身体であれば即死級のカウンターパンチを食らって瀕死になっているところを、役小角直伝の呪術でトドメを刺すという手筈だったのだ。



 いやもうホント、見事に打ち砕かれた。



 鬼の耐久力を舐めてたな。

 こっちが魔物ならあっちは怪物だ。常人の能力で見るんじゃなかった失敗。


「……取り返そう」

「どうした。追撃に来ないのか」

「鬼に真正面から行くわけないだろ。そんなこと出来るのは過去の超人達だけだ」


 出来る限り狡猾に。

 出来る限り予想外を攻める。

 出来なけりゃ死ぬ。死ぬのは俺が諦めても、ウチの奥さんが許さないだろう。


「『(ネロ)空間(ディアステマ)』」


 大きな水袋を形成する。

 包みもなく物理を無視した大きな水袋。


 洞窟を前後へ隔絶し、アキラと八瀬童子の間を阻むほど大きさを持つ。

 通常この大きさを持つ物体は攻撃ではなく防御として使われる。八瀬童子も同様の思考だったが、しかしアキラの使い方は違う。


「形状変化『(ヴェルタム)』」


 細い切先のある槍型。

 幾数にも形成された水の槍が、アキラを中心に散開するように空中に展開される。


「槍が降るぞ、気をつけろ!」


 アキラがそう言うと同時、展開された水の槍がさながら雨の如く八瀬童子に飛来する。


「数の暴力……その程度で鬼を殺せると思うたか!」


 鬼が拳を振るうと水の槍が砕かれた。


「む……?」


 あまりに脆い。

 攻撃の一手と言えるのか、と直感で疑問になるほどの槍の脆さ。まさかこの程度の攻撃が、物理による攻撃となるはずがない。


()()()()?」


 ニィ、とアキラの不気味な笑みが、童子の嫌な予感を掻き立てる。


魔力転換まりょくてんかんかみなり

「ぬ……がッ……!?」


 触れて身体に付着した水が、突如光を放って痺れるような頭に変わる。

 この痛みは今まで感じたことがない。例えるなら雷神の怒りに触れて雷を落とされたかのような。


 まさに亀毛兎角きもうとかくの攻撃だ。


「なっ……ギィッ……」

「悪いな。俺のは他とは毛色が違ってな。俺が放出した神秘なら、やりたい放題出来るんだ」

「意味が、原理がわからぬ……! 水を、雷に変えるなど、それこそ神技の類いだぞ……!」


 やりたい放題、とは文字通り。

 その場に存在しない元素を作って魔法を生み出したり、展開した物質を急転換して属性そのものを変えたり。


 兎に角やりたい放題である。


「通常、反動が凄いはずなんですけどね。元の魔力量でしょうか。質と量が桁違いってズルいですよね」


 安倍晴明は言う。アキラという存在そのものがズルなのだと。

 だが此処にいる以上、対峙している以上しょうがない。八瀬童子という怪物が相手をするのは、嘉瀬アキラという異世界の化け物なのだ。


 パァン! と乾いた音が鳴る。

 音の正体は、アキラが打った一つの柏手だ。鬼の、晴明の、この場全ての視線がアキラに集まった。

 

「鬼さんこちら、手の鳴る方へ。近付いて来なよ、潰してやるから」


 周囲に水の槍を展開するアキラは、煽りに弱い八瀬童子を挑発する。

 怖い物なし。否、既にアキラにとって、八瀬童子は脅威になり得ない。この対戦に於ける、格付けが決まった瞬間だった。


 しかし、これに烈火の如く怒るのが八瀬童子だ。


「貴様! 我を愚弄するか!」


 八瀬童子は猪突猛進、突き進んでくる。

 狙い通りすぎて笑えないな。アキラは展開した水の槍を投擲槍ジャベリンのように鬼へ放つ。


「触らなければいいだろう!」


 まさにその通り。

 水が電気に変わるなら、そもそも触らなければいいだけだ。八瀬童子には広範囲に投擲された槍を避けるだけの身体能力がある。


 だがアキラにとって、そもそも狙いは()()である。


「魔力転換・煙」


 ――ボフッ!


 宙を飛来する水の槍が煙となる。

 一瞬にして童子も煙に包まれ、一寸先の光景すらも消え失せる。


「目眩しのつもりか!」


 アキラの方向はわかる。

 なら其方に拳を振るうだけ。単純なゴリ押しだが、自傷覚悟で臨めばカタが付く。

 何をしようとも相手は人。鬼の腕力で頭蓋を殴れば首が飛ぶ。それが鬼の、そして人の常識なのだろう。


 だが相手は化け物だ。

 そんな常識が通じるわけもなく。


「なわけねぇだろ、状況忘れてんじゃねえのか?」


 声は鬼の背後から。

 呆れたような表情をするアキラは、生贄となった少年を護るように背中に背負っていた。


「何が怖いかって、この子を盾にされることだったんだよ。まさか人質にもしないなんて、少しおごりすぎじゃねえ?」

「チッ……良かろう。それほどその贄が欲しいならくれてやる。その代わり、その贄ごと微塵にしてくれるわ!」

「出来んのか? いまんところ一発も当てられてないケド」


 八瀬童子が憤怒の表情を浮かべる。

 怒ってら。煽られ舐められ腐ってあのザマだ。そりゃ怒るか。


「あ、あの……」

「ん。ああ、もう大丈夫だぞ。神ならともかく、鬼の生贄なんて嫌だったよな。わかるよ。俺は神も嫌だけど」

「いえ……その、配給のお兄さんが、なんで此処に? それに、あのお兄さんと一緒に来た陰陽師は……」

「日本のスーパーヒーローだよ」


 少年は頭に疑問符を乗せる。

 しかし俺に聞かれても困る。どういう理屈で昔の人がいるのかわからないし、それを答えられるわけでもない。


「難しいこと考えんな。生きることだけ考えろ」


 そう諭してアキラは少年を背負う。

 少年の細い身体は思った以上に細身で、貧相な食事を与えられていたのでは、という思考が過ぎるほどだ。

 しかしアキラにとっては都合がいい。戦闘の重りにならない。帰ったら目一杯食わせてやろう。


「……!」

「うっし、振り落とされるなよ」

「殺してやる……殺してやるぞ、小僧!」


 第二ラウンド開始。

 今度は本気でやってやるよ。



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