表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/173

56話 アキラの魔法

「ひっでぇ臭い……血と汗と排泄物の臭いだな」

「ええ。遺体全てに頭蓋がない。酷い趣味ですね」


 首から上がない死体の山は、流れる血が河のように流れる屍山血河となっている。

 その上に座る鬼は、遺体を嘲笑うかのように胡座をかいている。晴明が言うように、本当に趣味が悪い。


「……貴様ら、何者だ」

「こら、目上の人には敬意を払いなさい。初代様に習わなかったんですか?」


 晴明が煽ると顔を強張らせる。

 さながら晴明を恐れるように、先ほどまでの余裕が消え失せている。

 安倍晴明って妖怪にとって本当に怖い存在なのか。名前を知らなくても怖がるとかすごいのね。


「ッ……いいだろう。贄が一つ足りず腹を空かせていたところだ。喰らうてやる!」

「威勢だけは認めますが、残念ながら私は戦いません。なんせ今回は修行中アキラ殿の初陣ですからね」

「なに……?」


 晴明を睨む視線が、そっくりそのままアキラに向けられた。

 ヘイト管理が最悪すぎる。これあの鬼本気になって殺しにくるんじゃない?


「貴様が戦うというのか、小僧?」

「緊張しなくていいですよ、アキラ殿。所詮は室町生まれの餓鬼。悪鬼羅刹が跋扈する藤原黎明期の修行を受けた貴殿に比べれば、子供を食らうしか出来ない神擬きなど相手にもなりません」

「……晴明さん晴明さん。煽るだけ煽って戦い辞すのやめてくれません? ヘイト全部俺に向いてんすけど」


 もうメチャクチャだよ。

 俺何も悪くないからね。悪いのそこの狐男だからね。……俺に怒り向けないでね!


「いいだろう。まずは貴様から喰らうてやる!」

「言ったの俺じゃねえって! 俺に怒るな俺に!」

「関係あるか! 貴様も同罪だ!」

「理不尽だ!」


 言い合いながらアキラは魔力操作に集中する。




 あの青鬼との鍛錬中、気付いたことが幾つかあった。

 青鬼は魔力による攻撃しか効かない。それ故に魔力操作による魔法攻撃が有効打だった。

 優梨にも魔法の使い方が習うこともあったが、そのお陰か一つの考えに至れた。


(――これ、ある程度なら()()()()()()()()()()?)と。


 操術は大地とアキラの意識をリンクして、ようやく使うことが出来るものである。

 つまり大地から土を切り離すことが出来ず、いやでも攻撃範囲に制限が掛かってしまう。


 それを補うためにアキラは用法を考えた。

 主流は大量の魔力を使用して広範囲の大地を操る方法。X軸の次はY軸に、一つ間違えば地割れを起こしかねない方法。他にも試してはいないが考えている。


 だがそれら全てはどれも結局制限が掛かる。

 そこに無から有を生み出す魔法を組み合わせれば、アキラの操術なら凄まじいシナジーを生み出せるのではないか?


「教わった通りに出来っかな……」


 土操術を極めたアキラの魔力量は、神秘の薄まった時代では一、二を争うレベルに膨大だ。

 アキラに単純な魔力勝負へ持ち込まれたら儂でも勝てぬ、と役小角と密かに晴明に語った。


 他を圧倒する物量と質量。

 それがアキラ最大の武器になる。役小角はそうも語った。これがこの世のものではない者の為す技か。


 幸い相手の鬼は単純で、少し煽ればすぐに本気になる。アキラは嫌でも本気を出さねばならないだろう。


「見せてもらいますよ、神代かみよに勝る力」


 鬼に肉薄される少年には、かつての平々凡々だった面影はない。

 ここにいるのは、異世界に召喚され厳しい環境を生き抜いたサバイバーだ。


「まずは攻撃を捌く」

「やってみろ!」

「ああやってやらあ!」


 右手を前に、左手で右腕を補強し衝撃に備える。


「『メテオロン』!」


 翳した右手の平に小石が形成される。

 何千年もかけて行う大自然の営みを、アキラはほんの一瞬で再現してみせる。

 まさに超自然。人を食らう鬼の存在以上に、この世であり得てはならない魔物の法である。


「ぬっ……グッ……!?」


 人に当たれば即殺必死。

 しかし流石は八瀬の大鬼。

 前後から受けるスピードボーナスを受けた小石を、少し仰け反り怯んだだけで耐え切って見せた。


「貴様、何をした!?」

「……まじかよ耐えんのかよ……。さて、少なくともアンタの知らない神秘術だと思うよ」


 世界には多くの秘術があるように。

 日本にも多くの秘術が隠匿されている。


 何も知らない者が浅学の穴を埋めるより、知恵ある者が深く読み取る方が困難なほどのである。


 思考に意識を割かせて集中を乱そう! ……というような深謀の意図は一切なく。


(やっべぇこっからノープランだどうしよ)


 という焦りから生まれたアドリブだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ