47話 楽しく落とそう攻城戦
箕作城。
東近江の箕作山上に築かれた山城。応仁の乱で築かれた観音寺城に対抗した六角政堯によって築かれた。
山城特有の高低差のあるフィールドで、上を取られた攻城側は相当難儀する造り。上から火矢を射かけられよう物なら相当の被害を覚悟しなければなるまい。
「さて大将。どうやって落とす?」
「何が大将だ。総大将はテメェだろ利家」
「作戦は参謀殿に任せて床几にでも座ってろ、と信長様からは仰せつかってんだ。悪いな兄弟」
「ふざけんなクソ魔王」
ウチの勇者を送り込んでやろうか。いややっぱやめときます会わせたくないので。
てかこの甲冑まじで熱いんだけど。
現在一月末。つまり冬真っ只中である。こんな着込む必要あんの?
前の桶狭間の時なんかほぼ私服だったぞ。なんで大将クラスはこんなに着込まなきゃいけないんだ。
「さて嘉瀬殿。如何しますか?」
「辰之助、じゃなかった、一豊だったな。初陣おめでとう」
「有難う御座います。出来れば一番槍を取らせて頂けると有り難いです」
「ん、そこは利家と相談してくれ。俺はあくまでも参謀だからな。総大将はあそこのロリコンだ」
相談されても困る。
総指揮はアイツが取っているのだ。
「作戦を考えているのですか?」
「ああ。山城って面倒だな。どうしても被害が出ることを念頭におかなきゃいけなくなる」
「焼いてしまえばいいのでは? 木に囲まれた城ほどよく燃えると、皆そう言っております」
「……んー、まぁそうなんだけどね」
それだとちょっとね。
目指すなら自陣営の被害最小だけじゃなく、相手陣営の被害も最小を目指してみたいよね。
つまり戦場のすべてを掌中に収める。そんな作戦を立案してみたい。
時間が掛かりすぎたら山火事作戦決行に移るが、時間ギリギリまで待つのも一興だろう。
「悪い笑みをしていますよ、嘉瀬殿」
「この笑顔はデフォだよ。そんな怖い?」
「ええ。何かを思いついたような笑みでした」
「勘が鋭いね、さすが辰之助」
「五年の付き合いがあればわかりますよ」
……もう五年かぁ。
現代日本からマグナデアに召喚されて、そのマグナデアから戦国日本にやって来た。
マグナデアにいた時間はとっくに、次は現代日本にいた時間すらも越えようとしている。
……うし。しみじみとしている暇はない。
「兎角、攻略はこっちに任せてくれ。織田家の参謀殿がお前らを生かす作戦を立ててやるからよ」
「ははっ。ではお任せ致します」
「うん。後でな」
そしてアキラの周りから人が消える。
足軽も武将も、みんながコミュニケーションを取っている頃だろう。ここに一人でいるのも何か寂しい。
だがしかし、ここにいるのにも無論理由がある。何もそれは作戦を立てるための時間ではなく……
「どーも、アンタが嘉瀬アキラだよな?」
「おう。キミがあれか。秀吉の馬廻衆ってやつか?」
「うっす。仙石権兵衛秀久っす。持って来ましたよ、例のブツ」
「あんがとな。若いのに偉いな」
「アンタも大概若いっすけどね」
「もう23だよ」
アキラ発案の作戦の要。
信長と共に考えた世にも奇妙な大花火だ。
ーーー
この嘉瀬家での一件より少し遡る。
岐阜城で信長と謁見していたアキラは、任された六角攻めの進行ルートについて相談していた。
「佐和山は野良田の戦い以降は浅井の物となっている……ということはやはり箕作城しか攻め口はない、ですか……」
「であるな。山城は攻めにくい分、山城に籠る者も生きづらい。そこを突くのが最も最善であろう」
「ですね。……山城ですか。どのようにして攻略した方がいいんでしょうか」
「参謀殿が我に聞くな。己で考えよ」
いやまぁそれはそうなんだけど。
でも自分の戦ってなると、ねぇ? 有識者に聞きたくなるってもんですよ。稲葉山城って堅牢な城だったんでしょ?
「我の時は大した事はしておらん」
「そうなんですか? 確か2日ほどで終わったって聞いたんですけど」
「そうさな。だがそれもこれも寝返った斎藤重臣の為した功績よ。瓦解寸前だった大名を根本から落としただけに過ぎん」
「なるほど。瓦解寸前……」
「ああ、そういえば。六角も観音寺の一件で不安定であったかな?」
観音寺の一件……観音寺騒動のことか。
確か旧来の重臣と折り合いが悪くなった六角義治が、その筆頭である宿老二人を殺したっていう。
時代劇じゃなくて本当にこんな事件があるのか、と当時はかなり驚いた印象があった。
「……利用できるな」
「である。どう使うかは其方次第だ」
「じゃあ……作戦の為に欲しい物があるのですが」
「ほう。言ってみろ」
楽しくなって来たぞ、花火大会!