46話 トラブル経験者
「アキラくんが、総大将……?」
「義父上、すごいです!」
信長とのやり取りを話した時の家族の反応はバラバラだ。
孫六は素直に喜び、
千代は静かに驚き、
優梨は怪訝な顔でに眉を寄せる。
納得のいっていなさそうな顔だ。
「いや、いつも通りの参謀だよ。作戦立てた後はどっしり構えて前線を見てろ、って言われてる」
「それ大将って言うんじゃない?」
「総大将は利家のヤツだよ、俺はアイツの補佐役。前線に出ることはない。精々後ろで腕組んで友達面してるさ」
アイツ俺の親友なんだぜ。すげぇだろ? って足軽のおっさんとかに自慢したい。
そも織田家は猛将揃いだ。
現在出陣が決まっている連中は基本的に若い衆だが、それでも歴史に名を残している者が多い。
前田利家を筆頭に、佐々成政、山内一豊、木下秀吉など名将揃い。キャラ濃過ぎるだろ。驚くなよ、これが史実なんだぜ。
「信長様も将軍を抱えて後詰めとしてくる予定だし、俺が死ぬことはないよ。安心して、優梨」
「……でも……」
「義母上。今回は桶狭間三傑が揃うのです。そう易々と負けることはないでしょう」
「え、待って千代。なに桶狭間三傑って?」
「義父上、利家様、秀吉様。御三方の総称です。巷ではそう呼ばれています」
「かっこいいですよ義父上!」
「孫六まじで? これかっこいいの?」
なんだよ三傑って。
最近の若者の感性はわからん。最近じゃねえな。俺が生まれる五百年前の感性だわこれ。
美濃三人衆然り、織田四天王然り、この時代の人達は一纏めにするの好きね。お兄さんわかんないよ。
「言い始めたのは秀吉様です」
「アイツなにしてんの?」
メンバーが自ら名乗り始めんな。
せめて他の人から言わせろ。ダサさに拍車が掛かるだろ。これ後世でなんと言われるのだろうか。
「俺の前では呼ばないでね、それ」
「ふ、ふふっ。かっこいいよ、三傑さん」
「優梨? 笑って言われても嬉しくないよ?」
「いいじゃない。四天王みたいで」
「ゲームならかっこよかったよ。ここ現実ね?」
現実で四天王やら三人衆やら言われても現実味が薄い。
とはいえ織田家にも四天王は出来るわけだし、当主も魔王を自称してるし何も言うまいが。でもだせぇ。
「とまれその三傑も、他にも名将はいるわけだしさ。俺が死ぬことはないわけだよ」
「……ううん。私が心配してるのはそこじゃないんだよね」
「え、そうなの?」
「だってアキラくん。自分の策で人を殺すんだよ?」
「そんなの今更でしょ」
マグナデアでは人、魔物問わず多くを殺した。先の美濃調略では多くの人を苦しめた。
そんな多くの怨恨を背負ったアキラが、今更他国を攻める侵略者になろうと、割と今更な話である。
「今更って……アキラくんは人を殺すことを躊躇ってないの?」
「躊躇いはするさ。でも障害ってのは排除しないといけないでしょ? 殺さなきゃいけないならよっぽどね」
「……アキラくん。本当に変わったんだね」
「そりゃあ、色々あったからね。あの国では」
異世界転移。
王宮からの脱出。
救出作戦、奴隷解放戦。
森での拉致監禁。
百腕巨人討伐。
魔王軍との激突。
そして相棒との死別。
様々な出来事が、いまのアキラを形作っている。
解き明かさなければ謎、どうにかしなけらばならない現状など、問題は死屍累々の如く山積み。
それでも現在を気丈に振る舞えるのは、あの国での経験と、この戦国時代に着いてきてくれた優梨のお陰だ。
「絶対に帰るって言ったし……こんなとこで野垂れ死ぬわけにはいかないだろ?」
「…………ふふっ、そうだね」
「義父上、義母上?」
「なんのお話ですか?」
「なんでもないよ、千代、孫六。俺と母さんの秘密のお話だ」
「そうだね。二人だけの秘密、だね」
安心したように笑う優梨。
千代と孫六は相変わらず頭に?マークを乗っけているが、こんなこと話しても何にもならない。
そも隠し事でもない。だが昔の武勇伝を語る変な父親になるわけにもいくまい。
この二人には、というか家族以外の友達含めて、マグナデアでの出来事を話すことはないだろう。
「負けることはあっても死ぬことはないよ。だから安心して待っていてくれ、優梨」
「……わかった。……じゃあもう一つ。死なせない御呪い掛けてあげる」
ススッと近づいて来ていた優梨が、アキラの耳元に顔を近づける。
なんだかいつもより、すごい距離が近い気がする。
「…………帰ってきたら言いたい事があるから。絶対帰ってきてね」
……うわぁ。絶対に死ねないな、これ。