43話 平々凡々
「――くん、――アキラくん!」
「義父上……っ!」
呼ばれて目を覚ます。
あたりはすっかり明るくなって、夜闇の静けさは月と共に世界の星へと消えている。
それはそれとして。
目の前で泣きそうになってる我が家族は、どうしたのだろうか。死人が目を覚ましたみたいな顔してるぞ。
俺、なんかあったっけ?
「ど、どしたの。なんかあった?」
「……わからないよ。覚えてないの?」
「義父上は熱田神宮で倒れてたんです」
「熱田さんで?」
昨夜の記憶が曖昧で、思い出そうにも思い出せな
『殺す気で生きろ。死ぬなよ?』
(――あ)
脳裏を過ったのは青肌の鬼。
アキラの喉を串刺しにし、正体不明の暴力で息が止まる寸前まで痛ぶった怪物の姿。
喉から槍が抜かれた後も、何度も殺されかけた。そしてその度に師匠からストップがかけられた。その何処かで意識が途切れたのだろうか。
あの青鬼は何者で、どうやって俺に攻撃した? 一晩の戦いを経て尚も素性が割れない。
役小角の関係者だと言うのなら、役小角に関して調べればいいのか? そもあの翁に関する資料はあるのか?
「義父上。朝ご飯食べられますか?」
「うん。食べる。千代、孫六。何食べたい?」
「おれはんばーぐがいいです!」
「……」
「アキラくんは休んでて! 私が作るから!」
子供に甘々パパの顔を見せたアキラは、優梨にドクターストップをかけられる。
癒術師の言に無理を通すことは流石のアキラも出来ず、あちゃーと片目を瞑る。
「あちゃ、じゃあ好きな物は昼飯か夕飯だな」
「あ ん せ い に!」
「……はい」
こりゃダメそうだ。
「まったく。後で話もあるからね」
「……あい」
「義父上……威厳……」
「うるさいぞ孫六。千代、優梨を手伝ってあげて」
「はい」
今日も嘉瀬家は平和である。
ーーー
朝食も食べ終わって塾開講の下準備。
千代と孫六は自分の部屋へ私物を撮りに行き、勉強部屋にはアキラと優梨の二人きりである。
何を言われるのかと震えながらの作業をこなしていると、
「それで? なにがあったの」
「自称日本一の妖術師と修行だよ」
「……何をしたの?」
「鬼退治。負けたけどね」
「負けたんだ」
「もうボッコボコに。一回死にかけた」
「死にかけたんだ!?」
死にかけた、どころの騒ぎではない。
見ようによっては死んでいた、といっても過言ではないだろう。
喉串刺しとか物理攻撃だったら即死レベルの攻撃である。恐らく妖術攻撃だったからよかったものの。
「そっか。生きてて良かったよ」
「本当にね。手加減されてたんだろうなぁ」
手加減されてもボコボコにされるのである。
鍛え途中の妖力、単純な膂力、双方共に負けている。もはやどうしろと。
「……考え方次第、か」
「アキラくん。そろそろ皆来るよ」
「……あ、ああ。わかったよ」
嘉瀬塾、開講である。