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42話 第一の試練

「えんのおづの? 聞いたことない名前だな」

『わしゃ一般には出ていない妖術師故な。だが彼の高名な安倍の坊主より遥かに強いと自負しておるぞ』

「安倍? ……安倍晴明か。そりゃ日本一なわけだ」

『うむ。この度、天照大神の命を受けてな。其方の師となれ、と申し付かされたのよ』

「天照様の?」


 討滅側(こっちがわ)というわけか。

 なら警戒をする必要はないだろう。


『其方に必要なのは3つ。刀、妖力、そして鋼体ごうたいであったかの。うち妖力を鍛えろ、と仰せつかっておる』

「何から何まで手厚いサポートだな」

『それだけ信じられている、ということよ。日本は我が儘な神が多いからの。これほど至れり尽くせりなのは珍しい』


 とはいえ、いきなりパワーアップではなくコツコツ修行した後ではあるが。

 それでも手掛かり0から1に増えたのは大きな収穫だろう。この1を大事にしていきたい。


『まずは今から富士の山に登れ。話はそれからだ』

「ふじのやま……え、富士山のこと言ってんすか!?」

『その通り。強くなりたいなら霊脈の強い場に行くのが手っ取り早い』

「いや今からは無理ですよ。家に妻や子供を待たせてますし……」

『お主子供いるのか!? いつ最終決戦になるかもわからんのに何をしとるんじゃ!』

「養子なので血は繋がってません……」


 まぁ五年も一緒にいれば愛情も愛着も湧くものだ。アキラも優梨も子供達を我が子のように可愛がっている。


『むむむ……お主、人を愛する者か。ならば仕方あるまい。格は落ちるが近くに社があるだろう。そこでいい』

「熱田さんですか?」

『然り。熱田神宮である。彼処は天照大神を祭る社がある。天照大神との関わりが深い其方にとって絶好の場であろう』

「深いんですかね……名前聞いたの5年ぶり」


 普段は熱田さんとしか呼んでいないから、祀られている神が誰なのかすら知らなかった。

 あそこ天照様祀られてんのね。元旦には参拝しないと。いつもありがとうございます。アグノスは見習え。


「疾く向かえ。そこに試練は用意している」

「はい。……なんとお呼びすればいいです? 師匠?」

『師匠。それもいいな。これからは師匠と呼ぶように』

「はい、師匠」



ーーー



 深夜。熱田神宮。

 真っ暗な熱田さんは昼と違い物恐ろしい雰囲気がある。街灯がなければこんなものか。めっちゃ怖い。


『お主は妖力を強める方法を知っておるか?』

「知ってたら師匠はいらないです」

『はっきり言うなお主。その意気がいつまで続くかの』


 実際知ってたらいらないだろ、とは口に出せない。

 仮にも師匠の前で言うわけにはいかないだろう。


『わし、心の声を読めるのだが口に出してやろうか?』

「いやぁ師匠がいてくれて助かるなぁ。師匠どこにいるんすか? 肩でも揉みましょうか?」

『威勢は良いのに何故矜持がないのかの此奴』


 矜持で飯が食えるか。

 マグナデアにいた頃からの習慣である。プライドなんて物は狗にでも食わせてしまえ。


『とまれ、境内には着いたようだな』

「ここでは何をするんですか?」

『なぁに簡単なことよ。座学ならば室内で良い。外では身体を動かすのが上策というもの』

「……つまり?」


 ここで魔法を使えってか。

 使って何になる。経験にはなるか? いや使っただけで強くなるならマグナデアでもやってる。

 役小角の意図がよくわからないが、身体を動かすと言うのであれば――


()()()()()|れ。死ぬなよ?』

「――え?」


 突如、アキラは右側面からの衝撃に襲われる。

 さながら腹部を強打された打撲のような痛みは、波紋するように急速にアキラの身体を蝕んでいく。


「ガフッ……!? ゲホ、ゴホ!」

『構えろ、次が来るぞ?』

「グッ……ソがッ!」


 何処から湧いて出た?

 目の前の青肌の鬼。背丈はアキラと同じくらいか、或いはそれ以上の巨躯。


 何で殴ったのかわからない。


 鈍器か?

 風を切る音は聞こえなかった。

 物理ではない? 

 妖力修行、魔法の行使。


 ――敵は魔法を使う。


「操術式、展開――『百腕巨(ヘカトンケイ)人・偽(ル・レプリカ)』!」


 発動タイミングがわからない。

 ならまずは様子見だ。次の魔法を防ぎ切り、可能なら反転攻勢を仕掛け――



「ぇ……ぁ?」


 喉に刺さる細槍。

 槍を掴もうと手を動かすも、

 手に槍が当たることはない。


 何が起きてる?

 何だ。いま何をされた?

 わからない。怖い。


「が……グぎ……がア!」

『其奴に壁はない物と思え』

「あ……うブ……ゲェ……」

『殺すな。降ろしてやれ』


 役小角の指示に従うように、アキラを喉から持ち上げた細槍は


「ゲホッ、ゴホッ! ウゲェ……」

『死ぬな、と言ったろう。殺す気で立ち上がれ』

「……ハァ、何が、起きて……」

『儂が与える第一の試練。貴様は一人で、越えるべき壁を越えよ』

「……壁?」


 ズン! と、豪快な足音。

 この青鬼のことか。

 こいつは何だ。どうすれば勝てる。

 情報だ。情報が欲しい。


「おい師匠! こいつは何だ!」

『…………』

「……チッ! 自分で考えろってか!」

『然り』


 それを最後に役小角の声が途切れる。

 ここから先は孤独と青鬼との戦いだ。


 種別は恐らく鬼。

 攻撃法は恐らく魔法。

 武器は不明。弱点も不明。


 これ勝てるか?

 というか、生き残れるのか?



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