39話 寒冷期の呼出
永禄8年12月20日。
世が世ならジングルベル派とシングルベル派の間で醜い対立が起きる季節だろう。
しかしイエスさんとの関わりが薄い戦国日本では、ただ寒いだけの寒冷期である。
我が家では火と風魔法の暖房器具を駆使して冬を越すが、他の民家では外の寒さは地獄だと思う。
そんな寒い季節でも、勢いのある織田家ではこんな噂が立っている。
「足利様が信長様と謁見するらしいぞ!」
その噂が清州城下に広まってから何日が経ったろうか。
場所は岐阜城。織田家臣は岐阜に集結して足利将軍をもてなす準備をしているのだという。
アキラはもちろんハブられて、今日も今日とて塾を開く平和な日和である。こんなんでも参謀だぜ俺。
とはいえ将軍と謁見する由もなし、する必要もなし。子供の成長を間近で見ている方がよっぽど有意義である。
教育を受ける側だった千代も、最近は率先して教える側に回ってくれている。
姉になったのが効いたようだ。自分よりも年下の子供達を見る目は、何処か慈悲に満ちた物である。
「千代、ちょっと来て」
「はい、義父上。何用でしょうか」
「みんなには内緒な。飴玉あげる」
「えっ、いいのですか?」
「俺の代わりに教えてくれてありがとうな」
こうやって子供とコミュニケーションを取るのも良い物だ。
最近ではアキラが甘やかす側になったため、躾を徹底している優梨は敬われるも、少し嫌われ者になりつつある。
ごめんね、優梨。でも子供のことは出来るだけ甘やかしたいんだ。マグナデアでは出来なかったことだからね。
「孫六。これあげる」
「え、義姉上。良いのですか?」
「義父上から貰ったから。大丈夫」
これが幸せな光景と言うのだろうか。
子供達が仲良くしているのを見るとほっこりする。
突然の訪問があっても、この光景があれば心温かく迎えられそうだ。
「アキラ殿ー! いるかー!」
バンバンバンバン。表から秀吉の声。
あの猿ホンット空気読まねえな。
そろそろ一回締め出してもいいんじゃないか。サルでも木から落ちて川流れでもするだろう。一回真似しようぜ猿。
「はいはい授業中ですよ。……何? どしたの秀吉」
「岐阜の信長様が呼んでおる。共に岐阜へ参るぞ」
「なんでぇ? 将軍来るから忙しいんじゃないのぉ?」
「気怠そうにするな。仮にも織田家の参謀であろう」
ハブられたけどね、将軍歓迎パーチィ。
美味いもん食べられかったせいでやる気はダダ下がりである。岐阜の郷土料理食べたい。
「いいから行くぞ。信長様が待っておる!」
「あ、ちょっと待って。優梨!」
「うん任せて。頑張ってきてね、アキラくん」
「任せた。じゃあ行くぞ猿」
「見事な阿吽の呼吸よな。……おい待てアキラ。いま心の呼び名を口にしたな!?」
気の所為じゃない?
ーーー
「これなる者が、我が織田家の参謀になりまする」
「お初にお目にかかります。嘉瀬アキラと申します」
「ほう、其方が織田の参謀とな。良きに計らえ」
信長に呼ばれ将軍の眼前に召し出される。
どうしてこうなってしまったのだ。
幕臣の人達とかめっちゃ見てくるじゃん。
怖いよ。
帰して。塾に帰して!