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35話 1565年

 永禄8年。つまり1565年。

 この年、史実では日本の歴史が大きく動いた。


 朝廷の柱となっていた室町幕府15代将軍・足利義輝が三好三人衆や松永久通らによって暗殺される。

 この事件で殺された義輝が、最期は何本も畳に突き刺さった刀に囲まれ戦った逸話はあまりにも有名である。


 そしてこの混乱がきっかけで台頭し始めるのが、我らが魔王様・織田信長である。

 逝去した足利義輝の弟である一乗院覚慶・足利義昭を奉じて信長は上洛し、日本の中心で基盤を整える。


 それがこの事件の結末だ。

 織田信長という男が天下人へ駆け上がる引き金となった事件、と言ってもいいだろう。


 とはいえ上洛を行うにしても、如何に信長様とはいえ将軍という大義名分を得なければ話にもならない。



ーーー



 そんなことは我関せず。小牧山に居を移した信長から離れた清洲で暮らす。

 織田家の参謀としての役割はあったが、それはそれとして塾長として役目の方が大事である。


 最たる収入源が嘉瀬塾だという理由もあるが、そもそもアキラの立場は織田家臣ではなく外部の者である。


 織田の本拠に年中出入りするわけにはいかない。

 さらに悪いことに、アキラには『今川義元を討った者』という肩書きもある。

 現在の濃尾平野を手中に治めた織田家の参謀ということで、他の大名に目をつけられている可能性もある。


 暗殺、調略が跋扈している時代である。

 首を突っ込みすぎては病に冒されかねない(毒殺されかねない)


 そんな事情もあって信長様には、織田家の本拠から離れろと言われているのである。

 殺され……冒されるのは本意ではないし、自由行動できる範囲が多くなるのなら願ったりだ。


「ちちうえ、がんばってください!」

「おっしゃ構えろ兄弟!」

「息子の声援で張り切るとか贅沢だなこの野郎」


 今日も織田家は非番。

 というわけでアキラは孫四郎……又左衛門と共に槍合わせの稽古に勤しんでいた。

 美濃攻略の時に立てた武勲を評価されて織田家中に復帰したらしい又左に頼むのも申し訳なかったのだが、当の又左は「兄弟との鍛錬か! いいぞ!」と案外ノリノリだった。


「よっし構えんのはお前だ。俺から行くぞ」

「おういいぞ! どっちでもオレが勝つからな!」

「言ってろ。今度は俺が勝つ」


 この又左ロリコン、試合の時は本当に強い。

 いやマジで強い。槍の又左衛門なんて異名がついてんのも頷ける。

 弾いたと思ったら次の瞬間には顎を吹き飛ばされた時なんて、一瞬何が起こったかわからないほどだった。


 本当は魔剣を使うならば剣術や、それに類する技術を磨いた方が良い。

 しかしアキラの周りは刀よりも槍な戦人ばかりなため槍術に秀でた人が多い。


 適任者が見つかるまでは身体を鍛えるという意味合いで槍戦闘を覚えてみようか、ということで槍の又左との試合をしているのである。


「――っだあ! ちくしょう! また負けた!」

「ワッハッハ! もっと鍛錬を積むんだな兄弟!」

「くそぉ。槍の又左やっぱ強ぇ……」


 気付けば敗北。

 しかし戦うごとに課題点が見つかっている。それだけ多いということだが、見つかるのであれば直しやすい。


「ま、今の兄弟の実力なら、どんな戦場でも生き残れるだろうな!」

「本当かね。いつもお前には負けてるけどな」

「誰も彼もがオレ程ってわけじゃねえだろ? それに兄弟にはヘンテコな妖術もある。それ使ぇや負きゃしねえさ」


 妖術じゃなく操術です。

 とまれ、操術を使っていいのならアキラが負けることはないだろう。

 そのお墨付きが貰えたというだけでも成長だろう。……いや、死なない要素の大部分があるかもしれないから油断は出来ないが。


「もっかいやるぞもっかい! 次はぜってえ勝つ!」

「アキラくん! 一旦中止してお昼ご飯食べよ!」

「だってよ兄弟。飯でも食おうじゃねえか」

「……んだな。そうしよか」



ーーー


「お義父とう様、利家様。冷えた麦茶です」

「ありがとう千代」

かたじけねえ! よく出来た娘だな!」

「お義父様とお義母かあ様のお陰です」


 試合もひと段落して昼食。

 具材たっぷりのおむすびをずらりと並べる。梅や鮭といったこの時代でも取れる物は勿論、昆布やツナといった現代で人気な具材も入れてみた。

 ちなみに前田一家には梅が人気である。あくまで比率の問題故、子沢山の宿命ではあるが。


「おいしいですゆうりさま!」

「ありがとうございます!」

「はむはむあむ」

「ふふっ。可愛いねぇ」

「でしょう! 我が子達は可愛いでしょう!」

「親バカだなぁ……」

「兄弟も子供持てばいいじゃねえか!」


 出来るわけねえだろ。

 とは言えない。未だにあくまで外面は嘉瀬夫婦で通している。

 が、5年も経って1人も子供を生まれないことを、信長様には怪しまれているのだとか。養子いるからいいじゃん。


 5年前の嘘が今になって響いているのである。

 いやまぁ、確かにこの時代は性に奔放だという話。普通の夫婦なら子供の1人や2人、生まれてもいい頃合いである。


 ……千代がいるしいいじゃん、マジで。


「秀吉んとこも生まれてないだろ。ウチも同じってだけだ」

「……玉無しか?」

「ノンデリすぎんだろぶっ飛ばすぞテメェ」


 せめてオブラートに包め。

 言葉の刃は鉄より鋭いぞ。


「で、最近はどうだ? ノリに乗った織田家は何処どっかの領地でも狙ってんの?」

「いやないな。上様は基本的に受け身なんだ。大義名分を得てから攻めるんだとよ。だから今は新田開発とか商業発展とかばっかだ」

「新田開発はともかく商業は得意じゃねえのお前。ここにいていいのかよ、算盤又左」

「オレは武官だ。米五郎左や林の爺が嵌ってる枠に、押し入ろうなんて考えたくもねえよ」


 織田家は本当に家臣が強い。

 史実では斎藤家を潰せていないこの頃でも四天王は揃っている上に、四天王に数えられていなくともこの又左である。

 外様にも美濃三人衆や竹中半兵衛がいるらしく、かなり隙のない布陣が出来上がりつつあるのだとか。もうバグだろ。


「それに家計簿以外の金は見たくもねぇ」

「それはすごいわかる。家計簿の金もだ途方もないことになってんだよウチ……」

「桶狭間ん時のか?」

「いや参謀役の俸禄」


 使いきれない。

 いや使い切る必要はないのだが。


 豪遊に近い何かは出来ているのだが、あんまり充足感はない。

 やっぱこれはアレか。仮にも嘘にも妻帯者であり、養子とはいえ子供もいる。現代でも通じる購買物があるだろう。


「家、買うか」



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