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31話 力の一端

「ただいま。……寝た?」

「うん。ぐっすり。疲れてたんだねぇ」


 美濃と近江の国境から帰った。

 木々も眠る丑三つ時。現代感覚でも遅い時間だったのに、優梨はアキラを出迎えた。


「どうだった?」

「一足遅かったみたい。もう飛ばされたってさ。ほら、これ」


 そう言ってアキラは麻袋を渡す。

 中からじゃらじゃらと金属の擦れる音。賊から奪った金だ。恐らくこの金が、ちよちゃんママを売った時に出来た金なのだろう。


「……日本でも人身売買ってあったんだ」

「野盗は身包み剥がすだけだと思った? この時代、戦の後に乱防取らんぼうどりって言って、敗者から物を奪う風習があるんだよ。そこで人攫いをして、人市っていう奴隷市場みたいな所で取引をするんだ」


 盗みも殺しも合法。それが戦国時代。

 いや実際は違法なのだが、その行いが一般兵のモチベーションに繋がる故、戦を起こす大名達は黙認しているのだ。


「中世は人身売買が繁栄する時代だからね。何処で人がいなくなろうと、文献には残ってもその時代の記憶には残らないだろうさ」


 これを完全に規制するのは、それこそ豊臣秀吉の時代だ。


「なるほどね……怖いんだね」

「悪も生への花道だから。何をしてでも生き残るって覚悟を決めた人が多かった証拠だよ」


 武将が華々しく戦った戦国時代も上部だけ。下を見ればこんなもんである。

 しかし今回はその乱取りよりも悪質。戦うこともせずに奪うしか脳のない輩の犯行だ。


 もう2度と奴らが姿を現さないとは言え、奴ら以外にも悪業に身を染めている輩はいる。

 全てを守るとは言わないものの、せめて自分周りの者達だけでも守れるように用心しなきゃな。


「……? どうしたの?」

「なんでもないよ」



ーーー



 翌朝。早朝。

 お天道様も昇り掛けの時間帯に、ガタガタと物が動く音がした。

 泥棒か? と思ったアキラが起きて部屋を出ると、隣の部屋からも同じく物音に気付いたらしい優梨が出てきた。


「アキラくん! チヨちゃんがいない!」

「っ! まじで!?」


 チヨちゃんは優梨の隣で寝かせていた。

 ということは、物音の正体はチヨちゃんが出て行った時に鳴った扉の音なのだろう。

 事態は泥棒が入ってくるよりも深刻だった。音が鳴って間もない。ならまだ近くにいるはず……


「探しに行ってくる」

「……でも、どうやって探すの?」


 確かに。先に出て行ったちよちゃんが、何処へ向かうかなんて知らない。

 だがこちとら異世界育ち。物、人、粗を探す技術は異世界ものである。


「大丈夫。なんとか出来る」



 ……さて、話を変えよう。

 アキラは昨夜、美濃近江付近にまで超高速で移動した。そして賊を見つけて壊滅にまで追い込んだ。


 この話には二つ、非現実的な事柄がある。


 一つは移動術。一晩でどうやって移動したのか。


 こちらはお得意の移動術。

 土の塊を靴や手袋のように装着。さながら立体◯動装置の如く、木から木へと空中移動する術である。土が身体に触れていれば変幻自在。不可能は今のところない。


 もう一つは、()()()()()()()()()()()()()


 この索敵術が、これから披露する術となる。



「操術式、展開」


 地形情報、一括取得ダウンロード



 大地にリンクし、土の変化を感じる。

 人が歩けば大地は凹む。その凹みは足跡となって、そこに人がいた手がかりとなる。

 その凹みの情報をリアルタイムでキャッチすることで、いま、何処に人がいるのか大凡の情報が確認できる。


 この朝早い時間。人っこ一人いない中で、歩いている者など朝の早い人か、家を出て行った少女くらいのものだろう。


()()


 土の凹みをキャッチする。


 動く足跡の数は5。

 3つはゆっくり。これは除外。

 足の速い足跡が2つ。

 2つのうち一つは大人分の足跡。

 ならば、これも除外する。


 残るは一つ。


「行ってくる」

「気をつけて」

「うん。柏原さんも」


 会話中に、()()()()

 お得意。土操術師の空中移動術である。


「ほいっ」


 土が柱状に下から押し出され、アキラを()()()()


 宙に放り出されたアキラは、自身を飛ばした土柱が自壊していくのを眺めながら、足の土に意識を集中する。


「せい……やっ、と!」


 足の土を乾拭き屋根に伸ばす。

 屋根の縁に引っ掛け収縮。同じ動作で次の屋根へと移動する。


「ほい、そい、やっ」


 屋根から屋根へ。

 これは木々の中でも同じだ。


「見っけ」


 紫色の小さな背中を見つけた。

 何処へ行くのか、恐らく母親を探そうとしているのだが、そんな無謀は許さない。


「一気に行くか」


 土の狙いをずっと前へ。

 ぐっ、と溜め込み解き放つ。


「きゃっ!?」

「よう。追いついたぞ」


 土埃の舞う中。アキラは追いついた。

 かがみ込んだ小さな背中は、何か恐ろしい物を見たかのように震えていた。


「ご、ごめんなさ……」

「謝らなくていい。チヨちゃんも怖かっただろうしね」


 両親を失った幼子は誰しもこうなるだろう。

 いちいちイチャモンをつけても人が悪いだけだ。


「帰ろう。ご飯食べてないだろ?」

「…………はい」


 今は何も言わない。

 話は気を落ち着かせてからだ。



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