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29話 変わる歴史

『嘉瀬殿! 嘉瀬殿はいるか!』

「……うぅん?」


 古屋の戸がバンバンと叩かれる。

 突然の轟音を目覚まし代わりに、昼寝をしていたアキラは冷えた部屋の中で目を覚ます。


 叩かれること多いな我が家の扉。

 そのうち壊れるのではないだろうか。その時は叩いた人を訴訟でもしたろうか。


 それはそれとして、アキラに用がある何某かが来ているらしい。居留守も考えたが仕方ない。


 優梨の目が此方に向いているうちは出てやろう。


「……ふわぁ〜い……」


 眠気が身体に回り切ったアキラの顔は、これ以上ないほど弛み切っていたことだろう。


 目を擦りながら扉を開くと、扉の外には汗をかきながら息を切らす男の姿があった。


「滝川殿。どうされました?」


 滝川一益。

 織田家家老。現在は美濃に出兵中の信長様に代わり、城代として清州城を守っている男だ。

 最初に会った時は穏やかで静かな人物だろうと思っていたのだが、ここまで冷静さを欠いているとは。何があったのだろう。


「吉報だ! 一色義龍逝去!」

「…………は?」


 早くない? 流石に早すぎない?

 本当に何があったんだ。討ち取ったではなく逝去って言ってるし。間違いなく戦いは続いているんだろうけど。


「……持病が悪化したんですかね」

「恐らくな。俺の間者の報だから間違いない。美濃の龍が死んだ。これは織田にとって紛れもない天運ぞ!」


 良かったですね。でも流石に早いと思います。

 確か史実では義龍の死因は不明だったが、らい病が原因という説が最も有力的だったはずだ。

 そんで死ぬのは、これから一年後の1561年だったはず。もしかしてストレスかなぁ。色々史実よりも早いもんなぁ。


「とりあえず勝機が広がりましたね。一色の嫡男は凡愚で有名です。落ちるのも時間の問題でしょう」

「ですな! ……おっと、すまない。取り乱していたようだ」

「大丈夫ですよ」


 初めからそんな感じたったので。

 ポケ〜っ、とする頭で考えながら喋るアキラ。


「……義龍が死んだか……」


 歴史の流れが早まった。

 この一件がこれからの歴史に如何なる変換を齎すのかは気になるが、そんなこと言い始めたら墨俣築城も史実ではもっと後だったはずなので気にしない。


「美濃を取った後に相手するのが浅井か六角か、ってところかな……」


 信長上洛のトリガーは、永禄の変で逝去する足利義輝の弟・義昭の織田家来訪だったはず。


 バタフライエフェクトは始まっているはず。

 外れていく歴史の流れが、アキラの知っている物になるか、また別の物へと変動するのか。

 もし仮に歴史に影響を与える生存が起こり得るなら、率先して動かなければいけなくなってしまうだろう。


 そう、例えば――()()()()()



()()()()()か)



 存在する一つの可能性。

 日本の未来をも変えかねない事柄に、眠気眼ねむけまなこのアキラは(なければいいなぁ)などと呑気に構えるのだった。



ーーー



 そこは馬蹄と足跡で踏み荒らされた街道。

 見渡せば背丈の揃った木々が乱立する雑木林の中の街道だ。

 人里から少し遠く離れたこの地で、一人の少女が泣きべそを掻きながら彷徨っていた。


「ちちうぇ……ははうぇ……」


 少女は弱々しい声で泣きじゃくっている。

 しかし歩みを止めず、ただ前へ前へと進み続ける様は憐れみさえ感じるほどだ。


「……あれ?」


 そこに通り掛かる人影一つ。

 少々野暮用で森の中へと赴いていた優梨だった。


「きみ、どうしたの? 何かあったの?」

「ふぇ……」


 突然話しかけられたことに怯えたのか、少女は肩を振るわせる。

 しかも相手は街道を歩くでもなく、森の中から出てきたのだ。山賊と間違えるのは致し方のないことだろう。


「……あー……アキラくんを連れてくれば良かったなぁ……」


 アキラの対子供コミュ力は、地球にいた時の彼とは思えないほどの物だ。

 今の優梨は長い城籠り生活の弊害で、対人会話が下手になってしまっている。子供一人を泣き止ませることも困難だ。


 …………待つか。

 こんな僻地に子供一人を置き去りにするわけにはいかない。優梨は少女が泣き止むまで待つことを決断した。



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