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27話 なんかすんごい翻訳能力

 明の書と言えば、戦国時代では最新技術が載った新書のような存在感を放っている。


 例えば孫子の兵法。例えば孔子の教え。

 日本にはなかった価値観、戦術、技術体系が色々と書かれており文化人は疎か、武将にとっても価値のある物だと言う。

 しかし2000年の世紀末を経た世界から来たアキラにとっては、旧世代どころか古文明と言っても過言ではない文面である。


 では何故アキラが明の本を望んだのか。

 アキラにとってその本の活用法が、それしかなかったからである。


「……うわ、中国語なんて読めないのに全部読める。やっぱすごいなこのスキル」

「これ、言語自動変換スキルの効果だよね。確かにすごいかも。海外旅行がすごく楽になりそう」


 旅行は兎も角、このスキルがマグナデアの言語だけでなく、既存の地球の言語にも適応されていることがわかった。


 あと多分これ、方言の方にも適応されている可能性がある。

 というのも尾張……つまり過去の愛知県には名古屋弁が存在していたはずだ。

 実際に使っているかどうかは不明だが、今ここに至るまでに一回でも方言を聞いたことがない。そんなことが果たしてあり得るのだろうか。


「脳に直接影響を受ける系のスキルってことなのかな……」

「うん……多分だけどこれ、色々と悪用出来そうだね」

「悪用?」


 優梨の思わぬ発言にアキラが疑問符を浮かべる。

 ただの翻訳スキルだろう。言語の壁をぶっ壊すスキルで悪用とは何ぞや。


「翻訳されてない本を翻訳して出版するとか」

「……」

「これから来るポルトガル商人との商談を先んじて有利に進めるとか」

「……」

「えっと、あの……何も言わないのやめよう?」


 どう反応すればいいんだよ。

 求。普段の姿勢とは違う発言をする友人への反応の仕方。日本の文学史を根底から覆すってか。


「まぁ天下人近辺には外国人も多いしね。その人達とのやり取り有利が出るのは強みかな」

「信長様近辺だと誰がいたっけ。ザビエル?」

「いやルイス=フロイス。あと弥助かな? 他はちょっと覚えてないけど、主要なのはこの二人だと思う」

「知らない人だった……」


 理系なら知らなくてもしょうがない。


 ルイス=フロイス。

 幕府を打倒した三好により京から追い出された後、近畿地区の布教責任者となった人物。京に上洛した織田信長と謁見し、信用を勝ち取って布教することを許されたという。

 フロイス日本史を編纂し、現代欧州に戦国時代で起こった出来事を伝えた人物としても知られる。


 弥助。

 日本で唯一の黒人奴隷。宣教師と共に奴隷として来日し、信長に気に入られ召し抱えられる。本能寺の変では共に本能寺の炎の中にいたが、近くの南蛮寺に逃げ込むことでやり過ごしたという。

 とある逸話では信長のデスマスクを守り切り、そのマスクは現愛知県の歴史博物館に展示されているという。


「ちなみにザビエルはもう日本にいないよ」

「そうなんだ」

「興味なさそうな反応だけはやめようか」

「だっていないなら用はないし……」

「あぁ、それはそう」


 …………。


 求。ちょっと気まずい空気の打開方法。



ーーー



「はえ〜、なるほどねえ」

「何読んでるの?」

「ん? ミッくんパパに色々と書物を貰ってね。兵法書とか軍記物とかなんだけど。読んでみる?」

「んー、わかんないから遠慮しとこうかな」


 まぁ確かに全体的には面白くない。


 学習塾を経営しているアキラにとっては、兵法など覚えていても仕方のないことだろう。

 しかしこの「宗滴訓律」は中々に面白い。最近編纂されたばかりのらしいのだが、どういう販路から手に入れたのか今はアキラの手の中にある。


「名将は敗北の中から生まれる……か」


 名将は敗北の中から生まれる。とはこの本に記されていた言葉だ。

 敗北を知った者は、その敗北から様々な経験を積み、次の戦場で同じ失敗を犯さないために行動する。


 そうして小さな勝利を積み重ね、人々から名将と呼ばれる存在へと変わっていくのだ……と。


「ふむ……武家の子供にはまず失敗を教えてからの方がいいのか……確かに成功体験ばかり知ってても良いことにはならないからなぁ」


 理助君のような武家の子供には、そういった失敗体験が必要ということなのだろう。


 じゃあどんな感じで教えるか、という話になる。

 この古屋で教えるにも限界というものがある。一方向の講義(パッシブラーニング)ではなく能動的な講義(アクティブラーニング)を企画しなければならないか。


「でも人脈が皆無だからなぁ」


 今は出来ない。

 そもそも内容すら決めていないしな。


「いつか何か出来るといいな」


 アキラは夢を大きく膨らませるのだった。



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