21話 無尽荷駄壺
「あれ、秀郷さんは?」
「……神の元に帰ったってよ」
アキラは痛む頭を押さえながら、頭痛の元となった手紙を優梨へ差し出した。
手紙の内容を読んだ優梨は、なんとも煮え切らない複雑な表情を浮かべ、理解の手伝いを求めるような視線をアキラに向けた。
「え、え……え??」
「うん。言いたいことはわかる。でも堪えてくれ優梨。俺も割と限界が近いんだ」
情報量に飲まれて吐きそう。
酒は飲んでも呑まれるな、とは言うが情報量に呑まれるとかあってたまるかバカタレ。こちとら二日酔いだぞ。
「はぁ……あ、今日の朝ご飯当番って俺だっけ」
「うん。……だけど寝てていいよ、私作るから。疲れてるでしょ?」
「いや、この蛸壺の使い方も知りたいし、調べがてら俺が作るよ」
「そお? じゃあお願いしようかなっ」
ーーー
というわけで完成しました。
なんと今日の朝ご飯は洋風で御座います。やっぱ朝はパンと目玉焼きだよね。
マグナデアでも黒パンだったし。懐かしいなぁ噛み千切れないクソ固黒パン。固いしまずかったよなぁ……
「すごいね、この壺。パンも出せるんだ」
「やろうと思えば多分麺もいける。魚とか、きのこも出せるんだと思うよ」
「え、そこまで検証してるの?」
「いや、推測。多分これ、秀郷さんの俵と鍋がオリジナルだから……」
大百足を退治した藤原秀郷。
その報酬として龍神様から、無尽蔵に米が湧き出る大俵と、山海どっちの幸も出てくる鍋を貰った。
この蛸壺は、その二つのトンデモ宴会道具と性質が似ている。恐らくベースになっているのだろう。
「それとこの蛸壺。俺のスキルになってるみたい」
「え、スキル?」
「うん。俺の意思一つで出し入れが出来るんだ。ほら」
と言って、蛸壺は消したり出したりしてみる。久しぶりに『石碑の欠片』を見てみると――
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嘉瀬アキラ 男
種族:人間(18)
レベル:100(MAX)
職業:操術師(土)
筋力:326
体力:257
耐久:129
敏捷:109
魔力:666
土操術( X )・鑑定・言語自動変換( X )
結界眼・精神安定( Ⅱ )・無尽荷駄壺
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きっちり増えていた。
なんか色々とツッコミたいステータスだったが、朝ご飯中に叫びたくもないのでぐっと堪える。
「じゃあ失くさないってことだね!」
「ああ、うん。……そうだね」
なんかちょっと天然なんだよなぁこの娘。
見るべきところを間違えてる気がする。
いや合ってるか(混乱)。合ってるな(錯乱)。
「美味しい!」
「……良かったね」
はむはむと食パンを頬張りながら、へにゃと蕩けるような笑顔を浮かべる優梨。マグナデアでどんなモン食ってたんだよ本当に。
「ちなみにこれ、水とかお茶みたいな飲料系も出るみたいだから、喉乾いたら言ってね」
「…………ジュースは?」
「わからないけど果実水ならいけるんじゃないかな。炭酸飲料は試してないからわからないけど」
「やった!」
ヤダすごい無邪気。
相当美味しい料理に飢えてたんだな。昼飯も夕飯も豪勢にしてやろうそうしよう。なんならお菓子も作ってやろう。この笑顔を守らなければ……!
「約束なんだけど。あまり他人には見せないようにしよう。これを誰かに見られると厄介だ」
「もちろんいいけど……厄介なの?」
「うん。使い方次第だけど人を殺しかねない」
「……え、そこまで?」
優梨は驚きを隠せない様子。
それもそのはず。無限に食べ物を出す、というだけの能力で、どうやって国を滅ぼすんだと思うのだろう。
だが国の滅び方など様々である。
「例えば軍事的に使うとしよう。無限に食べ物が出てきて兵糧には困らない。そんな奴が城を包囲して兵糧攻めするとしよう。負けることはもうないよね」
「……確かに。でもそれってアキラくんが軍事的に使うだけじゃ?」
「じゃあ今度は内政面で使うとしよう。無限に米も魚も出てくるから、食材関連の仕事はなくなる。経済が回らなくなる。生活が困窮する。必然的に一揆が起こる」
「あー……」
この時代はまだ文明レベルが低い。
第二次産業はまだしも、第三次産業なんて存在すらしていないのだ。労働者を救うには産業革命を起こす必要がある。
そんな知識、今のアキラにはありゃしない。無秩序、無知識で無駄な問題の火種になりそうな行動をする必要はない。
「楽市楽座を始めるのは織田家なんだから、無駄に経済のダムになるようなことは慎むべきだと思うんだ」
「なるほど。すごい考えてるんだねアキラくん」
「あくまでも最悪の想定が起こった場合だけどね。こうならない可能性だってある。それこそニューディールすればいいしね」
「にゅうでぃいる?」
ニューディール政策。
32代合衆国大統領・ローズベルトが行った経済政策。公共事業を行うことで、仕事を失い生活苦に陥った国民に仕事を与え、合衆国民の力を結集させた資本政策。
「そこまで行ったら歴史を変えた、なんて生易しいもんじゃないしね。俺達は歴史を変えに日本に来たわけじゃないから」
尾張どころか日本を壊しかねない。
それだけの力が、この壺にはあると考えている。織田の殿様にだって見せることは出来ないな。
「うん。わかった。この事は2人だけの秘密だね」
「うむよろしい。褒美にこの飴ちゃんを進呈しましょう。苺味だよ」
「それも壺から?」
「うん。出てきた」
加工品も菓子類も出るようだ。
夢の炭酸飲料水も難しくなさそうだ。
コーラ飲もうぜコーラ!




