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17話 鬼ニ誘ワレ夜闇ニ紛レ

「……ったく、どこまで行ったんだ?」


 優梨を追いかけてから一刻ほどが経った。目はすっかり闇に慣れ、一寸先を見通せるようになっている。


 本当、真っ暗だと言うのによく走っていけるな。


「――成程。それで思わず出てきてしまったと」

「……はい。これじゃ駄目だっていうのは、わかってるんですけど」

「っ……」


 商店街を抜け、路地裏を探そうと入った時に声が聞こえてくる。


 優梨の声だ。隣に別の若い声も聞こえる。

 ちらりと覗くと、笠を被っていて顔が見えないが僧侶の格好をした男が錫杖を片手に、蹲る優梨の肩を支えている。


(落ち着け。俺は柏原さんの旦那じゃないんだ……)


 その光景だけを見て怒りが溜まりそうだったが、自分達は偽結婚だと思い込むことで心を安定させる。


 そも怒る理由なんてない。俺には既に子供がいるんだ。

 落ち込んでいるところを坊主に慰められ、この月明かりの下から愛の逃避行をしようがどうだっていい。


 マグナデアに帰るでもいい。

 柏原さんが別の幸せを見つけるなら、それでもいい。


 彼女が愛する人を見つけて幸せな人生を送れるのなら、それに越したことはない。

 この日本に居続けるのかは柏原さんに任せるが、居続けたいというのならそれもまた一つの選択だろう。


(一応調べておくか……)


 スキル『鑑定』を起動する。

 ないとは思いたいが、アキラも織田家で少し名が売れている。他国の間者が接触してきた、とかなら目も当てられない。

 ただの僧侶であれば発動しないだろうし、そうでなければ後で素性を問いただせば良い。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

元興寺がごぜ ?

種族:屍人鬼(?)

レベル:測定不可

職業:使い魔

筋力:測定不可

体力:測定不可

耐久:測定不可

敏捷:測定不可

魔力:測定不可

食人文化カニバリズム( X )・偽人類にせじんるい( X )・呪ノ(のろいの)御印みしるし( Ⅱ )

ーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「――は?」


 結果が出た。

 この時点で、アイツは人間じゃない。どころか人を食う鬼だと言うことまで確定してしまった。

 聞いてる限り紳士的に接しているが、その顔に塗られた色が黒か白かなど、今考える必要はない。……ただ一つだけ言えるのは。



ーーー



『――かい……聞こえるかい、アキラくんッ! 聞こえるなら今すぐ……!』


『その場から()()()!』



ーーー



 ()()()()()()


「優梨ぃ!」

「……アキラくん?」

「操術式展開……!」


 説明する暇はない。

 今は何より優梨の救出が先だ。これ以上あの僧侶擬きを優梨に近づかさせてはならない。


 走りながら魔力を大地へ送る。


「『牢獄』!」


 大地から伸びた土の柱が渦巻くように僧侶を取り囲み、僅かな光でさえも届かせない檻となった。


「む……?」

「アキラくん、何を……!?」

「そいつから離れろ優梨! 早く!」


 そう言っても混乱している優梨は離れそうにない。致し方ない。こうなりゃ『楽園郷エデン』を……!


「あがッ……!?」


 瞬間、アキラの左目に電撃が迸る。

 否、電撃にも似た、瞳がくり抜かれそうな程の激痛が左目に奔ったのだ。

 その痛みで『楽園郷』はすっかり鳴りを潜めてしまい、発動が出来なくなってしまう。


「なんだ、これ……!」

「おやおや……いきなり物騒ですね」


 アキラが激痛に悶え膝を突いた途端、『牢獄』に込められた魔力が少なくなったのか崩れ去る。


「……誰の雇われだテメェ!」

「雇われ……とは心外ですね。そもそも貴方はどなた様なのですか?」

「言うわけねぇだろ、食人鬼が!」

「ほう……」

「何を言っているの、アキラくん……?」


 僧侶の正体に気付いていない優梨は、アキラの暴行を止めようと腕を掴む。


「アイツは人間じゃない。人を食う鬼なんだ」

「え……? 日業さんはお坊さんだよ。鬼じゃない」

「見た目はね。中身が人間じゃない」

「…………?」


 優梨の頭には疑問符ばかりだ。

 仕方ない。優梨がアキラを止めるつもりなのだとしても、今はなによりも優梨の身の安全を第一に考えなければならない。



「操術式、大規模展か……」

「ダメ、アキラくん! 街の中だよ!」

「チッ……!」

「フフッ……焦っているようですな」

「……そんなん、お互い様だろ」

「当然。何故正体が露見したのかわかりませんが、貴方を()()()()()()()、私の先はないようですからな」


 ……来るか。いいぞ来い、潰してやる。

 構えるアキラの裾を摘む優梨が込める力が強くなる。


「なんなの、あの人……アキラくん」

「下がってて。絶対に守るから」


 切り札の『楽園郷』は何故か使えない。

 頼れるのは起動確認が出来ている操術だけ。本当に手札が少ないな俺は。

 攻勢に出ると優梨周辺の守りが弱くなる。守るためには守勢に回って野郎の気概を削ぐしかないか。


「では……『諸行無常の響きあり』」


 唄? ……いや詠唱か。

 魔法を使うって言うのなら話が違う。


「操術式展開……」


「『不満、怨嗟、慟哭。

 祇園精舎ぎおんしょうじゃの鐘の音は、

 盛者必衰じょうしゃひっすいことわりを現す』」


 内容も順番も違うがハッキリと覚えている。『平家物語』の冒頭だ。

 平氏……探せば何処にでもいる血筋。この文自体が詠唱文になっているなら、この鬼は平家に関係している?


(……いや)


 考えている暇はない。

 今は戦闘に集中しなければ。


「大規模な操術は使えない。……なら!」


 数で潰す。得意分野だ。


「『我武者羅がむしゃら』」


 想定していたのは『百碗巨人ヘカトンケイル』。

 圧倒的な物量で捩じ伏せようとしていたが、街が壊滅するからと優梨に止められた。

 ならせめて規模を縮小し、人間大の()()()()()を戦力として作り出せば問題ない。


 いくつもの突起が大地から隆起する。

 さながら墓から這い出るゾンビのように、何体もの甲冑を着た人型の土塊が、俺と鬼の間を遮った。


「質量が使えないなら物量で勝負だ」


 操術式を完成させると同時。

 鬼の魔力が増大したのを確認する。


「『呪ノ揚羽みはたよ、此処に在れ』」


 アキラの視界に霧が立ち込める。

 近くに霧が発生する水源がないことを知っているアキラは、すぐにこの霧が鬼の魔法によるものだと確信する。


 毒霧だったら面倒だな、と思いつつさらに余剰な量の魔力を大地は流し、緊急脱出する手筈を整える。


「掛かれ!」


 檄を飛ばして土塊達を動かす。


 幸か不幸か、鬼の魔法は発動していない。

 誘っているのか、或いは溜めているのか。どちらにせよ、先手を取ることに躊躇はしない。


「『百鬼夜行』」


 僧侶が魔法を使った瞬間。

 笠の下に、象のような大きな牙を尖らせた赤い顔が見えた気がした。



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