12話 予想よりも遅い再会
『やあ』
「よしぶっ飛ばす」
『危ないなぁ。いきなり殴らないでよ』
ちっ、避けられたか。
流石にパターン通りの行動過ぎたか。次からは予想外を意識しなければいけないな。
何はともあれ念願の再会だ。言いたいことを言わなければ。
「あのフライトめっちゃ痛かったぞどうしてくれるんだ」
『後遺症なんでないでしょ? それならいいじゃないか』
「気の持ちようの問題だよ。てかこれ来るのもっと早いタイミング予想してたんだけど、連絡遅くね?」
『予想以上に接続が不安定だったからね。多分『終末論』が影響してるんだろうけど』
「連絡阻害系ボス? めっちゃ弱そうだな」
ロクに攻撃して来なさそう。
あくまで予想通りの敵であれば、の話だが。もしそうだとしても一捻りはありそう。明らかに弱いもん。
『弱いほどこっち有利だからいいんじゃないかな。わざわざ怪我したくないでしょ?』
「それはそうだな。アグノスの予想的には、俺達はいつ『終末論』と接敵することになるんだ?」
予測できるのであれば聞いておきたい。
それまでに準備を整えておきたいし、可能であれば優梨を危険から遠ざける必要もある。
ともあれ全ては情報が出揃った時の決行だ。
『うーん、かなり遅くなるんじゃないかな。まぁゆっくりすると良いよ』
「出来るわけねえだろ。これからイベントばっかだわ」
美濃平定、足利義昭上洛作戦、長島一向一揆、信長包囲網、甲州征伐、そして本能寺の変。
パッと思いつくだけでもイベントが多すぎる。
信長と関係するだけで何かしら起こるなんて、頭がパンクしそうだ。
本当に史実の信長はこれだけの敵をよく捌き切ったものだ。素直に感心してしまう。
『すごい人に従ってるんだねキミ』
「見習いたくはないけどな」
周り敵だらけってことだもん。
嫌だよ見習いたくない。
『ううん。多分キミは見習った方がいいよ』
「四面楚歌がこれから先重要になるってか?」
『確かにそれもあるけど、なにより……』
アグノスは艶やかな唇を親指でなぞり、少し考える素振りをしてから答える。
『キミはそっちの方が向いてる』
「ぶっ飛ばすぞ」
『あはは、冗談だよ。……まぁでも窮地を脱するのは得意そうだけどね、キミ』
寡勢で大軍に挑むよりも、大軍で寡勢を轢き潰した方が圧倒的に楽だろ。
アキラは官軍であって正義ではない。
目的のためなら手段は選ばないつもりだ。そうでなければ最大の目標は達成できないと踏んでいる。
運命の1582年までは、少なくとも勝利し続けられるポテンシャルを持つ織田家に近づいたのだって、それが理由だ。
この日本の滞在期間がどれほどか、いつ『終末論』と対峙するかもわからない。
だから確定が出る時までは、少なくとも桶狭間以降侵略行為を受けないであろう尾張で暮らし、逐一情勢を見計るのが得策だろう。
「評価はありがたく受け取っておくよ。多分これからもこうやって情報交換するんだろ? 何かあったら聞かせてくれよ」
『もちろんそうするさ。……あ、そうだ。『終末論』に関しての情報なんだけど、これが本題だった忘れてた』
「忘れんなよ重要じゃねえか」
てへっ⭐︎と、アグノスはわざとらしく舌を出す。
少しイラっと不満を募らせるも、頭に昇りそうになる血をなんとか抑え込んで話を待つ。
『日本列島の観測者によると、最後に『終末論』が観測されたのは房総半島らしいよ。アキラくんの感覚に合わせると千葉県辺りだね』
「……最後に? それいつの観測? ここ最近なら割と弱ってるんじゃねえの?」
『アキラくんがいる時代から600年くらい前かな。だから平安時代真っ只中だね』
現在げんざい戦国時代せんごくじだい也なり。
源平合戦よりもっと前じゃねえか。少なくとも『終末論』が人じゃないのは確定したな。
というか、せめて『終末論』の活動時期に飛ばして欲しかった。もっと楽出来たんじゃないのかこれ?
「大昔じゃん。本当に『終末論』なんて実在すんの? そもそも生物なのかよそれ?」
『『終末論』は物によって姿が変わる。人型もあれば、また別の姿もあるだろうね。それに順応して倒すのがキミの役割だよ、アキラくん』
「きっついなぁ……」
手っ取り早く行きたかったが、現状こうなってしまっている以上仕方ない。
過去に戻れるなら戻りたいが、現状その方法がない上に、この時代に飛ばされたということは、必ずしも『終末論』がいないわけではないのだろう。
「しゃーない。こっちでも色々探ってみるよ。まぁ畿内に関東の情報が入ってくるかは知らんけど」
『出来るならお願い。こっちから干渉出来ない分のアドバンテージが酷いんだ』
……なんで干渉出来ないんだ、とも思うがそういうことなら仕方ない。
まずは畿内の攻略をしなければいけないだろうが、関東の情勢を探るための労力を回すことも念頭に入れなければ。
(……人材不足がツラいなぁ)
畿内攻略。関東密偵。
多すぎる問題の処理で混乱し始め、アキラは頭を抱えることになるのであった。