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11話 お市の方

 お市の方。

 美濃攻略後に浅井家へ嫁がされ、後に歴史にも名を残す浅井三姉妹の産みの親。

 信長包囲網で浅井家が滅亡し、さらにその後豊臣秀吉を敵に回した柴田勝家と再婚して北ノ庄城の炎に消えた姫。


 目の前の少女は、そんな悲劇を生きることになるのだと思いつつも未来の夫婦が揃って助けてくれているのだと頭を混乱させていた。


 いや見た目親子にも近いこの二人が結婚することになるのだと思うと胸中かなり複雑だが。


「悪いですね、柴田殿。重いでしょう」

「なんのこれしき。この程度屁でもないわ」


 荷車に乗せた大量のお金をじゃらじゃらとさせながら、柴田殿が引く滑車が街を征く。


 流石は鬼柴田、すごい頼もしい。

 しかしやたらと目がチラチラとしているな。と思い視線の先を見てみると、アキラの隣を歩くお市様の姿があった。

 再び勝家に目を戻してみると、心なしか耳が赤いように感じる。さながら好きな人に良いところを見せようとしている少年に見えて……


 この親父、孫四郎(あれ)の同類だったか。

 最悪この恩人の顔面をグーパンしなければならないと心を鬼にする。

 そんな覚悟を決めるアキラの隣で、お市様は目をキラキラとさせていた。


「それにしても、嘉瀬様は権六から話に聞いていた通り、お優しそうな御方ですね」

「その方が世渡り楽になりますからね」

「嘉瀬殿。お市様に変なことを吹き込まないでくれ」

「いやいや大事なことですよ。ウチの子供達にも言っています。人に優しくすればいずれ見返りが自分に返ってくる。情けは人の為ならずですよ」


 「成程」と感心したように納得するお市様。

 実際に、この後運んでもらった勝家殿に、このお金の中から少し渡すつもりだ。

 勝家殿は(諸事情で)見返りを求めないだろうが、こういう恩義の貸し借りはきちんとした方がいい。


 優しい人には見返りがあっていいと思うのだ。


「……お」

「嘉瀬様? どうしました?」

「いや、柴田殿。少しの間だけ止まって頂いてもいいですか?」

「む? もちろんだ。休息は必要ないが問題はない」


 それじゃあ遠慮なく。

 少し荷車から離れ、アキラは商店へと向かった。



ーーー



 少しした後。

 アキラはお市様と勝家が待つ荷車へと戻ってきた。手に握られているのは三本の串。


 味噌の香ばしい香りを放つ焼き餅だった。


「一緒に食べません?」

「良いのですか?」

「もちろん」

「ありがとうございます! 頂きます!」

「嘉瀬殿。感謝する」

「感謝するのは此方ですって。食べましょ」


 二人に一本ずつ渡し、はむ、と口をつける。鼻腔をくすぐっていた香ばしい香りが口の中で広がり、八丁味噌の濃い味が餅と合わさって舌を刺激する。


 簡潔に言い表すと、めちゃめちゃ美味い。


「美味しいです……!」

「いい反応するなぁ」

「お市様はお家柄、こういう菓子はお食べになられないからな。庶民的な味が新鮮なのだろう」

「ああ、なるほど。筋金入りってことですか」


 箱入り娘は箱の外を知らない。

 城の外に出ることも許されないほど大事にされているのだろう。これだけ端正に整った綺麗な顔だ。そりゃ花よ蝶よと大事にされるか。


「良い教師がつけば良いですがね」

「ならば嘉瀬殿が教えれば良いのでは?」

「いえいえ。我が家で教えているのは簡単なことばかりですので」

「嘉瀬塾の評判はすこぶる高い。それに今日から織田家参謀役にも付いたことだしな。己を卑下することもないのではないか?」

「……まぁ、信長様と相談しておきますよ」


 というか、織田家参謀になったこと知られてんのな。まぁ自分の家のことだし嫌でも耳に入るか。


「それじゃあ行きましょうか。子供達が待ってる」

「ああ、今日は開講日だったのだな。急ぐとしようか」

「あ、ちょ、ちょっと待ってください」

「ゆっくりで大丈夫ですよ、お市様」


 急ぎ帰宅しつつも、道中は久しぶりにゆったりと散歩しながら帰ったのだった。



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