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令和時獄変  作者: 青井孔雀
第4章 総力戦体制
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39. 奇妙な日々

神奈川県平塚市:民家



 かの3月9日、火星が突然消滅したのを目撃した智子は、平塚の実家に戻っていた。

 未だ現象として全く掴めていないに等しい特異的時空間災害に、突如として始まった戦争。この間のアメリカ大統領の演説で平和と経済安定の希望が絶たれて以来、市街にただならぬ空気が漂い始めた。


 ただ、想像とは正反対のところが幾つかあった。

 大きな爆撃機が焼夷弾を落とし、食べ物や生活物資が統制され出すのは歴史の授業でやった通りだ。だがニュースを見てみると、疎開どころか大々的な人口の集中・集約が始まるらしい。それに昔の戦争では、男は赤紙で徴兵されたり工場や炭鉱に働きに出たりしたそうだが、今の戦争では父も兄も家にいて、しかも籠りがちになっていた。


「やい、お前の母ちゃんデベソ!」


「そうだよ、何で知ってんだよキモいわ!」


 リビングから漫才か何かの音が流れてくる。兄がだらけた格好でテレビを見ていた。

 各局のラインナップは、ニュースの割合こそ増えはしたが、特異的時空間災害の前とほぼ変わらない。違いといえば、ちょっと再放送が増えたり、テレビCMが公共広告ばかりになったりしたくらいだ。


「おい智子、これ面白いぞ」


「んーとさー」


「どうかしたか?」


「兄ちゃんだらけ過ぎじゃない?」


「仕方ないだろ、この状況じゃクルマなんて売れないし」


 呆れる智子に、兄は溜息をついてぼやく。

 兄は自動車販売店勤務だった。今も扱いとしては自宅待機で、一応給料も振り込まれるらしい。ただ今の時世、それで飲食物や衣料品を購入するのは困難。インターネット上のコンテンツくらいしか使い道がないのだ。


「政府もなるべく家でじっとしてろって言うしさ」


「だったらもっと建設的なことしようよ」


「例えば?」


「例えば……勉強とか」


「智子、いいことを言うじゃないか」


 いつの間にか帰宅しリビングに戻っていた父が、ちょっと朗らかな顔をしていた。

 それからテーブルの上に置かれたバッグには、イワシの缶詰やアルファ化米など、保存のききそうな食料品が入っている。どこで手に入れてきたのかは分からない。


「それからさっき告知が出たぞ。自衛隊が臨時の補助隊員を、社会のあちこちから幅広く募集するそうだ。公民館で説明会やるそうだからな、俊明、お前行ってみたらどうだ?」


「そういうの倍率高そうだし……俺、ただの営業だぜ?」


「昔グアムで銃撃っとっただろう」


 父はそう笑った後、幾分真剣な顔をする。


「ついでに自衛隊ってのはちっこい社会も同じだ。関係なさそうな分野の人間でも、妙なとこが評価されるかもしれん」


 そんな父と兄の会話を聞きながら、智子はふとしたことに気付いた。

 下手をすれば戦場に行くという話になりかねないのに、別に兄妹の仲が悪いという訳でもないのに、どうしてか兄の身の上に全く心配を感じなかったのだ。





福岡県宗像市:住宅街



「あッ、やべ、装備変えるの忘れてた」


「しっかりしろやー」


「とりあえずバフ頼んます」


 春休み中の高校生達は"対魔妖精雪風"なるソーシャルゲームで遊んでいた。

 彼等が屯しているのは、カフェと駄菓子屋を合体させたような店の前。店自体は既に営業を停止しているが、オーナーが気を利かせてWiFiを窓の近くに置いてくれたのだ。

 大規模スーパーのフードコートは、市の配食所になって長居はできない。そのためこういう場は大変に重宝がられていた。

 

「うわ、何これ」


「めっちゃ強いわ」


 悲鳴が次々と上がる。開始早々、劣勢が見えてしまった。

 彼等はここ最近、ギルド対戦でめっきり勝てなくなっていた。どうも周囲のログイン率が高まり、かつ装備がよくなっているように思えた。平穏な村が屈強な重課金兵集団に襲撃され、種籾すら奪われたような気分になる。

 そうして当然のように、あっさりと敗北を喫してしまった。画面上では、派手な衣装の褐色少女が目を回している。


「あー、畜生!」


「おいおい、スマホは大事にしろって」


 筐体を握り潰さんばかりの小柄な山岳部員を、ひょろ長い電気物理部員が注意する。


「壊しちまったら新しいの手に入らんぜ」


「あ、そうだった……」


 山岳部員がギクリと目を丸くする。そんなことになっては大変だった。

 彼等は詳しい事情まで把握してはいないが、新規端末の入手が非常に困難なのは間違いない。輸入分は論外として、国内工場もサプライチェーンの混乱のため稼働率が極端に落ちてしまったのだ。しかも今ある分については、量販店の在庫から中古品に至るまで、政府が片端から買い上げてしまったらしい。

 付け加えるならネットオークションの類も、宅配便が個人向け営業を停止したため全滅状態だ。


「つか思ったんだけど、何でゲームできてんだろ、俺等?」


 実は割と優等生な剣道部員が何気なく尋ねる。


「戦争起きてるんだろ? よく続いてるよなこれ」


「戦争とゲーム、あんま関係ないんじゃね?」


「ん……それもそうか」


 剣道部員は妙に納得してしまった。違和感はあったが、それについて深く考えるのも面倒だった。


「それより勝てそうなギルド来たし、もう一戦やってかね?」


「よし、やるか! 勲章授与率が3000倍だしな!」





埼玉県さいたま市:マンション



 副業が本業になっていた。本業はチラシデザインで、社会からチラシを配るという概念自体が消えつつあったからだ。

 大野は仕方なしに、Webメディア用の仕事に励んでいた。だがやっているうちに頭が痛くなってくる。コーヒーを飲みたいところだが、日本ではコーヒーは収穫できない。どこかから豆が入ってくるまで、在庫を上手に飲み伸ばさないといけない。


(それになあ……)


 マキン島奇襲作戦について記述しつつ、これは駄目だと思う。

 米軍の虐殺行為があまりに猟奇的だからではない。競合が似たような記事を書きまくっているのだ。特異的時空間災害に巻き込まれた21世紀のアメリカ人には、皆だいたい友好的で同情的だが、この時代のアメリカに対する好感度など、もはや1%もありはしない。だからといって、ありきたりな反米記事でアクセスを稼げる訳ではない。

 ならより強烈なのを――そう思って情報を漁ると、これまた頭痛が酷くなる。米軍の残虐行為は割と枚挙に暇がないのだが、そんなのばかり調べていると頭が爆発しそうになってしまう。


 そうした中、大野がデスクトップを一瞥すると、新着メールの通知がポップした。

 Web上でのみ面識のある自称事情通の1人が、ちょっと面白そうなネタを投げてきていた。早速展開して読んでみる。


(あッ……これはいけそうだぞ!)


 ネタになりそうだと大野は直感した。

 それからすぐにスマートフォンに手を伸ばし、通話アプリで編集長を呼び出す。


「あ、もしもし大野です。編集長、いいネタ見つけましたよ」


「おっと、自信ありげだな。どんなものだ?」


「資源統計です」


「おいおい、そんなもの誰が読むんだよ?」


「この時代の資源統計です。結論から言いますと、アメリカの資源を奪えれば元通りの暮らしが戻ってくるんです!」


「おお……そいつはいい、でかした!」


 怪訝そうな声色が吹き飛び、編集長が絶賛する。

 実際、大野もまた上機嫌だった。あの野蛮でトチ狂ったアメリカを成敗でき、更には好きな時にラーメンの食べ歩きにいけるようになるなら、一石二鳥でこんなウマい話はない。


「それは絶対ウケる、すぐ取り掛かってくれ!」


「了解です」


 大野は喜び勇んでキーボードを叩き出した。





和歌山県有田市:スーパー銭湯



 スーパー銭湯の玄玉湯は客でごった返していた。湯舟も休憩所も人でいっぱいだった。

 こうなったのも災害対策の一環だ。各家庭が風呂釜にお湯を湛えなくなれば、都市ガス、つまりは天然ガスの消費を低減させることが可能となる。故に銭湯の利用を拡大するよう、国や地方が大々的なキャンペーンを展開していたのだ。

 市から共通回数券が何十枚と配られたこともあって、タンクローリー運転手の田島もまた、妻子とともに玄玉湯での入浴を楽しんだ。


「フルーツ牛乳がいい」


「健はガキだな。俺はコーヒー牛乳!」


 子供達は係のおじさんから牛乳瓶をもらうと、すぐさま早飲み競争を始めてしまう。

 結果はだいたい普段通りで、勝負がつくや、近所の悪ガキ仲間がいる辺りへと駆けていってしまう。子供達の微笑ましい姿にニッコリしつつ、田島は空になった牛乳瓶を軽く指で叩く。


「どうしたもんかな……」


「あなた、焦っても仕方ないわよ」


 妻がそう言ってくれるのがありがたかった。

 とはいえ、家で燻ってばかりなのはどうも性に合わない。休業補償も確かに月給の6割が振り込まれたし、久々に親子で過ごす時間も増えたが、やはり外で働きたいところだった。

 

「勤め先の実質的休業などで仕事ができない場合、家でおとなしくして、エネルギー消費抑制に貢献するべきだ」


 国の指導は、要約するとそんな内容になる。確かに合理的ではあった。

 だが悪く表現すれば、引き籠りにでもなれと言われているようだ。己が身体で稼いでなんぼだったし、自分はエネルギーを使う分以上のリターンを社会に齎せるはずだと、田島は強く思っていた。


「いいじゃない、久々に家族団欒ってことで」


「まあそうなんだけどよ」


「なら……」


「ん、何だありゃあ?」


 ちょっとヨレたスーツの人間が、休憩所の壁に何かの紙を貼り付けていった。

 注目が集まり、何事かと大勢が確認しようとする。田島も当然そのうちの1人で、ガヤガヤとした話し声がやかましい中、どうにか貼り紙の内容を把握した。


「ほう、炭鉱か……」


 石炭を少しでも自給するため、夕張炭鉱を再稼働させるプロジェクトが始まるという。

 これに応募しない手はない。田島は拳を強く握り締めた。大昔だが、ブルドーザーなら仕事で運転したことがあるのだ。

世間は戦争一色になっていくも、どうにもイメージと違う戦時体制の中、人々が生活をしている第39話でした。妙ちくりんなことになってしまう理由は、2月22日(土)更新予定の第40話で詳しく説明します。

読者の皆様、いつも感想やブックマーク、評価等、ありがとうございます。一瞬だけ歴史ジャンルの日間5位に返り咲いたり、総合評価が3333を超えたりしました。


新章もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです。既存インフラとインターネット様様ですね 
[一言] >アメリカの資源を奪えれば元通りの暮らしが戻ってくるんです! その資源をだれが採掘精製し運び各種に加工組み立てすんだよ・・・民間の無責任短絡視点でのあおりが列島を侵食の予感が・・・リアルで話…
[一言] 更新お疲れ様です。 戦時体制へ移行半ばも、市民生活は姿を変え流れ・・・・ 自動車販売員の兄、自衛隊へ!? 得てしてこんな人が戦場の窮地を救うとんでもないアイデアを出したりして(^^;; …
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