14. 反響
SNS(緊急稼働中):#首相記者会見
さいたま警備府@saitama_guard_district
特異的時空間災害って何?????しかも日本だけ?????意味がわからんにも程があるわ。
モーレツオバタリアン@hds5ySgw4LLq
またカトー政権が都合の悪いことを隠しているんじゃない?総理の汗はきっと冷や汗に違いないのよ
足立のヤジキタ@yajikita_adachi
はぁ?あの空襲は3月10日の下町大空襲?だとぉ?めちゃくちゃ燃えて大勢が死んでるのに冗談じゃねえ!歴史が繰り返すわけねぇだろ!
UFO大佐ツヴァイ@Triebflugel_zwei
自分の祖父、戦時中満洲にいたらしい。まだ存命。となると、祖父が二人この世界に存在することになるんだろうか。
いつか同期とか、合体とかしちゃうんじゃないか、そう思うと心配で夜しか眠れないです。
コンプソグナたん(電波輻射中)@Compsognatan
何らかの(時空、霊的、魔導etc……)兵器が使用されたという可能性はないのか?その結果として爆撃機が突っ込んできたのでは(ぐるぐる目)
コンプソグナたん(電波輻射中)@Compsognatan
真面目な話、どうしてB-29みたいなレガシーな飛行機を沿岸近くまでまで探知できなかったんでしょ?いや、本当に、何喰らったん?
岡本いさすけ@Messer1101
@Compsognatan 例えばEMP兵器としますと、こうしてインターネットを利用すること自体、不可能になると考えられます。
それに通常の武力攻撃とした場合、あそこまで古い型の爆撃機を何百と飛ばしてくるとは考え難いです。実際航空自衛隊にほぼ全滅させられたようですし、全く合理性に欠けています。
でもいったいどこにB-29があんなにあったのでしょうね……?
最高裁みたいなハンバーガーショップ@hamburgcourt1
食糧……自給……4割……いったいオレのあしたの飯はどうなるんだYou!
飯嶋たけし酋長@easyman0901
@hamburgcourt1 古いけど農林水産省の案が載ってるゾ。
http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/bukai/H26/pdf/140422_06_01.pdf
最高裁みたいなハンバーガーショップ@hamburgcourt1
@easyman0901 うわっ、芋だらけwww
パン屋GB@gbgbBakery
@easyman0901 タイムスリップが本当なら、レベル2で済まないのでは???
ナタデ天狗@ntdcc893109
ちょっと調べたけど1945年だと中東の油田はまだあんま開発されてないわコレ。湧いてないものは買いたくても買えない。
崇高なライス畑@noble_ricepaddy
@ntdcc893109 東京空襲への賠償をアメリカに現物でさせたらいいんじゃね、即納で頼みたいわ
東京都北区:赤羽駅周辺
ラーメンや餃子の売れ行きは異様に好調だった。
こじんまりとした店の外には長い行列ができていた。最後尾札は何処にあるのか分からないほどで、時折「おい割り込むな」とかそんな怒号まで飛び交っている。国が丸ごとタイムスリップしたという、常軌を逸しているが納得する他なさそうな発表があって以来、客足が急伸しているのだ。
そして客は誰もが殺気立ち、また焦燥した雰囲気で、一心不乱に麺を啜っていた。スーパーやコンビニの棚から食品が一掃された後、一食分でも浮かせようとした人々が、何処の店にも殺到しているのだ。
「へい、お待ち!」
主人ができたてのチャーシュー麺を配膳する。
「どうも……いただきます」
サラリーマン風の客は小声で礼を言い、器をまじまじと覗き込み、それから急ぎ箸を割って食べ始める。
何もかもが異様な書き入れ時だった。客は皆、これが最後のラーメンとばかりの気配で、麺を味わっている。そしてそれはあながち間違いでもないのだろうと主人も思う。麺の材料の小麦は大半が輸入品だ。うちは国産品を使っているが、小麦の価格はあっという間に上昇するだろう。そうなったら商売あがったりだ。
ただそうした不安を垣間見せぬようにしつつ、主人は麺を茹で、器に具を盛り付けていく。
「食糧供給につきましては、国民生活安定緊急措置法の定めに従い……」
店に設けたテレビからは、加藤総理の質疑応答が流れてくる。
「割当、配給によらない流通、販売、譲渡等を制限する場合も考えられ……」
「ごちそうさま」
常連のあんちゃんが食器をカウンターに置き、席を立った。
「はい、またのご来店お待ちしております」
「なあ、ご主人……次来た時、ここやってる?」
帰り際に常連が尋ねてきた。
主人はどう返したものかと、言葉に詰まってしまった。それにラーメン一筋でやってきた俺は、原材料不足で店が開けなくなったら、いったいどうしたらいいのだろうか?
和歌山県有田市:製油所
「申し訳ありませんが明日以降、無期限の自宅待機をお願い致します」
ガソリン配送の仕事を終えたタンクローリーの運転手達に、マネージャーは済まなそうに言った。
石油需給適正化法に基づく措置が発動する見通しだと政府から通達があり、石油会社が何処もそれを前提に動き出したという説明だった。供給が逼迫した場合、燃料は国民生活に重大な影響を与え得る業者に優先配分される。白ナンバーや黄色ナンバーの乗用車については、近いうちに給油そのものが禁止されるだろう。
ガソリン一滴は血の一滴。そんな標語が戦時中にあったことを、運転手の田島は思い出した。流れてくる話を聞く限り、21世紀の日本だけが、そんな時代に放り出されてしまったらしい。
「それはいいが……給料はどうなる?」
年配の運転手がまず口火を切り、
「俺達にだって霞食って生きてる訳じゃねえ」
「そうだ。家族を養ってかねえと」
「どうなんだ、その辺?」
幾人かが強烈な口調で次々と詰問する。
マネージャーは多少しどろもどろになりながら、業務用チャットアプリが開かれたスマートフォンの画面を一瞥し、
「現在交渉中ですが、本件に関しましては、恐らく労使とも責任を負わない事態で……」
「じゃあ給料出ないってことか!?」
「いえ、そこを特別措置として給与の6割を確保できないかと、今まさに交渉中です」
「そうか……分かったよ」
年配の運転手が矛を収め、皆が渋々ながら追随した。
それから間もなく、マネージャーは緊急の会議があるからと退室した。事実なのだろうが、逃げるようだと田島は思った。きっと皆が同じ感想を抱いたことだろう。
「転職、考えた方がいいのかな?」
「といっても、当てがないぜ? 石油が来なくなったってのなら、何処も仕事にならねえよ」
「まあ、そうなるよな……」
運転手達が頭を抱えた。タンクローリーの運転手が大幅に余るであろうことは、容易に想像できる話だった。
そうした中、未だ20代の若手は少しばかり首を捻り、ちょっとした光明を見出した。高校在学中に考えていた針路の一つに、戦車乗りがあったことを彼は思い出したのだ。
「俺、自衛隊に志願しようかな。何か戦争中だって話だし、大型特殊あるから即戦力かも」
北海道ニセコ町:市街地
ニセコはオーストラリアや東南アジアの人間にとっては憧れの地だ。
実際ここ30年ほどの街の発展は、オーストラリア人による部分が大きい。冬にはスキーと温泉、夏場は登山やラフティングが楽しめる風光明媚な観光地として発展し、今では日本語より英語の方が通じるくらいだ。
そしてそうであるが故、観光客達は誰もが怯え、苛立ち、恐慌状態になりつつあった。母国との連絡が取れなくなったと思ったら突然戦争が始まり、しかも自分達の母国は80年ほど前の姿をしていると、日本の総理大臣に言われたばかりなのだ。
「おい、どういうことなんだ?」
「家族と連絡を付けるにはどうしたらいい?」
「タイムスリップとか馬鹿な話はやめて。いったい何を隠しているの?」
雪深い市街を巡回していた女性の警察官を観光客達が捕まえ、質問攻めにする。
彼女はある程度は英語を解したが、強烈な早口だったり訛りがきつかったりしたため、半分ほども聞き取れなかった。また当然ながら末端の警察官でしかない彼女に、特異的時空間災害の詳細など分かるはずもなかった。
「どうか落ち着いて、落ち着いてください」
警察官はそう叫ぶ他なかったが、不信の目が強まるばかり。典型的な悪循環だった。
(不味い状況だ……)
その様子を一瞥するなり、オーストラリア人のエドワード・グリーンは懸念を抱いた。
この地でリゾートマンション経営を始めて四半世紀の彼は、地元の女性と結婚して一姫二太郎をもうけていたから、突然異国に取り残されたも同然の一般観光客と比べ、境遇が幾分ましなのは事実だろうと自覚していた。祖父母や兄弟、故郷のニューカッスルの友人達とはまるで連絡が取れないが、相応に見知った国に妻子とともにいるのだから。
だが外国出身者として、ここは間に入るべきだ。グリーンは意を決し、行動に出た。
「皆さん、彼女が日本初の女性総理大臣に見えますか?」
敢えて軽快な口調で、グリーンは冗談を飛ばした。
それを聞いた観光客達が一瞬固まる。逆効果だっただろうか? そんな気もしたが、彼等は虚を突かれたような顔をしてから、不承不承散っていく。
「あ、どうも」
「どういたしまして」
警察官に礼を言われたグリーンは、愛想よく応じた。
彼の行動は正義感というより打算からだった。日本以外が1945年3月だなんて信じられなかったが、大変なことが起きているのだけは間違いなさそうだった。そんな状況下で外国人が問題を起こすなど、完璧な自殺行為としか思えなかったのだ。
何しろ日本といえば、かつて石油の不足から真珠湾を吹き飛ばし、最後は航空機を有人誘導爆弾にしてまで戦った国で――今また突然に、資源供給の逼迫に直面しているのだから。
日本国のタイムスリップが発表され、様々な立場の人々が、様々な形で動揺し、行動する。そんな14話でした。
15話は明後日更新予定ですのでよろしくお願いします(もしかしたら明日かも?)
なお、本作はちょっと未来の日本が突然大昔に飛んでいってしまうというお話です。
実際こんなことが起こったら、自分はこう思うのではないか? こう動くのではないか? そんな思考を作品につなげていきたいと思います。




