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令和時獄変  作者: 青井孔雀
第1章 東京大空襲再び
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11. 作戦準備

硫黄島:硫黄島航空基地





 夜中からずっと硫黄島近海をうろつき回り、怪電波を輻射したりしていた2隻のフレッチャー級駆逐艦。

 日が昇ってから暫くすると、2隻ともが突然に転針し、硫黄島へと急速接近してきた。正体も意図も分からぬままの彼女達は、堂々と領海を突破して押し入ってくる。あからさまに無害通航とは言えない状況だ。

 聞こえているはずの周波数で、日本語と英語で警告も発信されたが、応答などまるでありはしなかった。

 

「昨夜から何やってるんだ、あれ?」


「もう訳が分からないな」


 島に駐留する自衛隊員達が首を傾げ、ああだこうだと言い合う。

 既にフレッチャー級は目視で十分確認できる距離まで迫ってきて、甲板を走る水兵の姿まで確認できた。これまた大昔の服装をしていて、戦争映画でも見ている気分に誰もがなった。

 ただ問題は、そのうちに水兵達が砲塔へと取り付き、それぞれの砲身が旋回し始めたことだった。

 

「あッ、撃ってきた!」


 警戒監視中だった自衛隊員が叫ぶ。

 閃光とともに放たれた5インチ砲弾が、緩やかな弧を描いて硫黄島航空基地へと突き進む、最初の何十発はまるで明後日の場所に落下し、繁茂していたレモングラスか何かを吹き飛ばしただけだったが、弾着修正の効果が上がってか、滑走路や基地施設へと徐々に近付いてくる。

 

 もっとも、艦砲射撃はそこまでだった。

 領海侵犯の時点で厚木を離陸し、硫黄島上空へと急行していたP-1が、航空基地への砲撃を開始したフレッチャー級に向け、AGM-65マーベリックを発射したためだ。

 当然の如く全弾命中したそれらは、さしたる防御力のない第二次大戦期の駆逐艦にとっては十分以上に致命的で、弾薬庫か機関が吹き飛んだのか、2隻ともほぼ同時に爆発炎上して沈没した。


 結局、被害といえば退避中に転んで足を捻挫した一士がいたくらいだった。





太平洋:紀伊半島沖

 

 

 日本本土空襲の支援任務を遂行していた潜水艦『ガードフィッシュ』は、異常事態をいち早く察していた。

 東京爆撃任務のB-29が、あり得ないくらいの大損害を被ったらしい。無線通信の傍受でそれは手に取るように分かり、100機くらいが撃墜されたのかもしれないと通信員が報告した。日本軍が強力な新兵器を投入したのかもしれなかった。

 そして『ガードフィッシュ』も先刻、現代の驚異を目撃することとなった。

 

「な、何なのだこいつは……?」


 潜望鏡を覗き込むなり、艦長のダグラス・ハモンド中佐の顎が外れた。

 数十分前、独航していると思しき艦船がレーダーに映った。反応としては非常に大きく、速度も16ノット以上。何故単独航行しているのかは不明だが、隼鷹型航空母艦ではないかとハモンドは考えた。元が高速貨客船だから、巡航速度は並の軍艦を上回る。

 そして隼鷹型と思しき反応は、10時方向から、幸運にも『ガードフィッシュ』のちょうど目の前を通る針路を取っていた。それが判明するなりハモンドは潜望鏡深度を命じ、待ち伏せすることとした。

 そうして潜望鏡越しに見えたのは――とんでもない船だった。

 

「副長、艦影図表に該当するものはあるか?」


「いえ、全く……」


 図表をパラパラとめくりながら、副長も頭を抱える。該当するものは皆無だった。

 測定した距離が合っていれば、目標の全長は300m近い計算になる。全く隠れる気のない塗装が施された、やたら平べったい超大型高速艦。艦橋構造物と煙突らしきものが艦尾に集中している。

 

「何らかの、特殊な航空母艦でしょうか?」


「……『信濃』かもしれんな」


「ええと、『信濃』というと『アーチャーフィッシュ』が沈めたっていう、あれですか?」


「ああ。あそこの艦長、『信濃』はとんでもない大型艦だったとホラを吹いておったが、事実だったのかもしれん。ただ、『信濃』は沈んでおらんかった。そして今、我々の目の前を通りかかった。こう考えると辻褄が合わんかね?」


「なるほど……とすれば、ここで沈めれば大金星ですね」


「間違いないな。こんな大型艦、そう数あるまい」


 度肝を抜かれていたハモンドだったが、ともかくも魚雷戦用意を命じた。

 戦果のことを思うと涎が垂れそうだった。実際、ここで日本の主力艦を沈めれば、『ガードフィッシュ』も殊勲艦の仲間入りだ。先々月に味方の救難艦を誤射で沈めてしまった不名誉も、どうにか帳消しにできるだろう。

 

「あッ、敵艦、回頭しています!」


「気付かれたか!? 距離は?」


「2500、遠ざかります!」


「針路3-3-0。あれだけのデカブツだ、1発は当ててやる」


 攻撃続行が命令され、その数十秒後に『ガードフィッシュ』は4発の魚雷を発射した。

 ハモンドの願いは本当に叶った。扇状に放たれたうちの1発が、どうにか「超大型空母」の脇腹に突き刺さり、轟然と爆発したからだ。

 

 だがいかな神であっても、被弾した「超大型空母」がありふれたスエズマックス型タンカーだったとは思いもよらなかっただろう。しかも魚雷が命中したにもかかわらず、強固なダブルハルに阻まれて被害が僅かな原油の漏洩に留まろうとは。

 

 そして『ガードフィッシュ』の乗組員はアメリカ海軍の中で最も幸運なサブマリナーだった。本来なら追従すら困難な目標への雷撃の機会に偶然恵まれ、魚雷の命中に万歳し、何も知らないうちに全員が戦死したのだから。

 『ガードフィッシュ』を撃沈したのは、一部始終を上空から監視し、タンカーに退避を勧告していたP-1が投下した短魚雷だった。





太平洋:母島上空



 第3飛行隊のF-2Aは、真っ青な成層圏を南下していた。

 まず目指すは硫黄島。一旦着陸して給油を受けた後、マリアナ諸島に発見されたB-29基地群にレーザー誘導爆弾を叩き込むという作戦だ。GPSが使えないのは相変わらずで、日本本土は携帯電話基地局やWi-Fiを利用した測位のお陰でさほどの混乱はないらしいが、航空機の航法や爆撃は多少面倒になってしまう。

 それでも精密爆撃により、B-29の基地は使用不能になるだろう。滑走路に穴が開くだけでなく、基地司令部や搭乗員宿舎、弾薬庫、燃料庫が軒並み吹き飛ぶのだから。

 だがそうした中、警戒飛行隊のE-767から通報が届く。


「ドラグーン各機、こちらライジン。国籍不明機を探知した」


「何ッ!?」


 久保田一尉は驚愕した。またB-29が現れたのかと思ったのだ。

 だが通報を聞く限り、違う相手のようだ。12機の小型機が200ノット強の速度で、硫黄島南方140キロを北上しているとのことだった。嘘か真かここが1945年3月だというなら、日本軍の守備隊もアメリカの上陸部隊も消えてしまっているが、硫黄島の戦いの頃だ。つい1時間ほど前に駆逐艦が沈んだばかりだというし、付近の護衛空母が艦載機を飛ばしてきたのかもしれない。

 

「ドラグーン01から04、国籍不明機を迎撃しろ。兵装を落とすなよ」


「了解……02から04、続け」


 編隊長からの命令を受け、久保田は部下を引き連れ突撃する。

 果たせるかな、国籍不明機編隊はFM-2とTBFアベンジャーというヴィンテージ艦載機で構成されていて、後上方から亜音速で迫ってきたF-2Aに一切気付かぬまま、20㎜機関砲弾を食らって火達磨になった。

 

「飛び立った飛行機を落とすのは、やはり非効率的だな……」


 爆発四散したレシプロ機を眺めつつ、久保田は冷静に計算した。

 例えばエセックス級正規空母から80機が飛び立ってしまったら、迎撃に8機くらい割かねばならない。しかしこちらから沈めるのであれば、1機のF-2Aが対艦ミサイル2発を放てば十分と見積もられた。

 そしてそれを証明するように、偵察爆撃隊を発進させた護衛空母『サギノー・ベイ』は、数十分後にASM-1Cの直撃で轟沈した。





福岡県築上郡:築城基地



「いや司令、これ滅茶苦茶美味しいですよ!」


 元山海軍航空隊の宗方中尉は飛行服のまま、皿に盛られた鶏の唐揚げを食べまくっていた。

 異様に発展した小倉の街並みや例の「ジェット」ばかりが並んでいる築城基地に目が点になっていた宗方だが、着陸早々倉庫みたいな場所に監禁されるや、「これが海軍中尉の扱いか貴様!」と烈火の如く怒り狂った。

 だがそれも、猛烈に豪華な食事が運ばれてくるまでのことだった。

 

「幾らでも飯が進む……つかこの米も猛烈に感動ものです!」


「中尉、急いで食べちょると操縦に支障が出かねんぞ」


 航空隊司令の青木大佐が箸を進めながら窘める。もっとも、彼にしても相好は崩れている状況だ。

 

「まあでも、暫く出してくれそうにもないかの」


「それにしてもここ、海軍の基地のはずですよね?」


 わかめの味噌汁を飲み干してから、宗方が首を傾げる。

 確か3年前、陸上攻撃機向けの飛行場として築城基地は開設されたはずだ。それがいつの間に、「ジェット」の拠点になってしまったのだろう? 確かに大きさは陸上攻撃機並ではあるが。

 

「だいたい航空自衛隊とか……妙ちくりんな名前過ぎて陸軍か海軍かすら分かりませんよ。階級呼称も変でしたし」


「中尉、もしかすると儂等、浦島太郎になっちまったのかもしれんぞ」


「そんなことって……ありますか?」


 宗方は唐揚げを喉に詰まらせたような顔をして尋ね、周囲をきょろきょろ見回した。

 浦島太郎といえば、竜宮城から戻ってみれば、七百年が経っていたという話だ。流石にそれは吹かし過ぎでも、百年後の未来と言われれば妙に合点がいく。やたら滑らかな流線形の空調機は小型な癖に暖かく、食器が何でできているのかも分からない。照明も超小型の白熱電球を無数に並べたかのようだし、貼ってある掃除当番表の紙質ですらたまげてしまいそうだ。

 部屋の外については――思い出してみれば何もかもがぶっ飛んでいた。

 

「例えば中尉、何故ここまで軽薄なのかは分からんが、そいつは恐らくテレビジョンという代物じゃ」


 青木は壁に掛かっている長方形の謎めいた機械を指さし、


「ベルリンオリンピックを知っておるか……あッ、前畑リード、勝った、勝った、勝った! と放送協会のアナウンサーがやっとったが、あれテレビジョンで中継されとったのよ」


「俺もラジオで聞いてました。中学生の時ですけど……でも司令、あれ電源ボタンが何処にもないですよ?」


「そこのタイプライターみたいな板切れ、赤いボタンに電源とか書いておるの」


「ならこれを押したら……えっ!?」


 宗方が冗談で赤いボタンを、ゴムみたいな柔らかさのそれを押すと、唐突に長方形機械にアナウンサーの姿が映った。映像は驚くべきことに総天然色で、そこにかの人物がいるかのように精細だった。

 だが宗方と青木を何より仰天させたのは、画面下方に踊っていた「ニュース速報」「自衛隊、米軍と共同反撃作戦実施へ」という文字列と、アナウンサーの話す内容だった。映像はすぐに切り替わり、日章旗を描いた「ジェット」と星条旗を描いた「ジェット」とが、轟然と離陸していく様が交互にでかでかと映される。

 

「はぁ……この時代の日本は、アメリカと同盟でも結んだのかのう?」


「何処相手に戦争してるんでしょうね……?」


 青木と宗方が唖然としながら呟いた。

 まさか未来の日本が同盟を結んでいるのがアメリカで、交戦相手もまたアメリカだとは、当然露ほども想像できなかった。

反撃作戦に向けて自衛隊も動き出す11話でした。明日も更新します。


信濃、撃沈を報告したら最上型重巡を改装した空母と勘違いされ(信濃川の信濃だと思われたようです)、撃沈トン数1万トンだろ、とか言われて潜水艦長がブチ切れた、なんて話がありました。なお現代のタンカーですが、実際タンカーと空母は戦争中も誤認されたことも多いので、過去の人間が見たらあの通り超大型空母と認識してしまうかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 画面下方ということは横書き。現代は左から右へ。違和感生じなかったのかな? と思って調べてみたら、横書きの文字方向は当初から戦時中まで、左右、両方あったみたいですね。 思わぬところで勉強になり…
[一言] この潜水艦は状況的に「撃墜された爆撃機搭乗員の捜索救助任務」をしている筈では? であるなら偶発的に遭遇した敵艦の撃沈を試みるのは軍務違反になる様な…
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