シリーズ2 現代日本の高校で
あらすじにも書きましたが、こちらの作品は作者の別作品「転生者よ、契約せよ。」の続編にあたる作品となります。
19/2/2 1:43 少し修正しました。詳しい修正箇所はあとがきで。
20/7/27 改稿。ちょこちょこ地の文が増えたり、台詞の順番が変わったりしてます。短編版は旧バージョンそのままなので、見比べたい方はそちらをどうぞ。
日本に転移して来たクーとリアは、しばらく遊んだ後、クーの提案で高校に通ってみる事にしました。
そこで出会ったのは――
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担任が教室に入ってくる。もう読書タイムは終了か。遅刻常習犯の彼にしては来るのが早かったな。
「えー、突然だが、今日からこのクラスに転校生が来る事になった」
と担任が言うが、真新しい机と椅子が2つ置いてある時点で、突然とは言えないというか、皆察せていると思うのだが…。
担任のそのセリフを合図としてか、ドアが開き、2人の女の子が入って来た。
先に入って来たのは、オーロラのような、不思議な色合いをした髪の、整い過ぎて人形めいた印象を受けるほどの美貌の少女。
彼女に守られるようにして後から入って来たのは、炎のような鮮やかな赤色の髪の、こちらも中々に整った顔立ちの少女。
ざわり、とクラスメイトたちがざわめいた。
「アンリーア・ローヴァーです。クーが通いたがってたから高校に入学する事にしただけで、別によろしくしなくとも結構です」
「リア姉さんったら、そんな事言わなくも良いのに……」
そっけなく話し、頭を下げることもなく堂々としているオーロラ色の髪の彼女を、赤い髪の少女が窘める。
「私はリアが居ればいいもの」
つんとそっぽを向くアンリーアさんに、仕方ないなあ、という感じで笑顔を浮かべる赤い髪の少女。……すごく、仲がいいんだろうな、と察せるやり取りだった。
「わたしはクーアティア・ローヴァーと言います。リア姉さんとは義理の姉妹の関係にあります。どうぞアティアと呼んで下さいね」
にこ、と笑う彼女は、キツめの顔に反して優しそうだった。仕草はアンリーアさん共々洗練されているし、どこのお嬢様だろうか、という感じの人たちではあるのだけど。
「あー、2人はあっちの席に座ってくれるか?」
担任が示したのは、窓際の最後列という良いポジションにある私の席の後ろに最近設置された新しい机と椅子。
ああうん、やっぱりそうなるよな…。クラスメートの羨望の視線がチクチクと刺さる。
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アティアさんとアンリーアさんが転入してきてから数日。
「アティアさん!お、お友達に…」
「お前は不合格。クーの友達になりたいなら私を認めさせてからにしなさい」
おどおどと話しかけて、アンリーアさんに一刀両断されてしまったクラスメイト(男)に、私はまたか、と内心で溜め息を吐いた。
「私もリア姉さんが認めた人以外は関わる気は無いから、ちょっと申し訳ないけど、お断りします」
しかも、アティアさんからの追撃も入った。
アティアさんの「お友達」の座を目指す男共がアンリーアさんに一刀両断させられている、という光景は、最早日常に近い。毎日毎日、授業の隙間を縫ってこちらに寄って来る者どものなんと多いことか。
どうやらアンリーアさんと仲良くなりたいがために、彼女にそれはそれは大事にされているアティアさんの友達になり、好感度を稼ぎたいと考えて近づく男子が多いようだ。
今回のクラスメイトは諦めが悪いらしく、まごまごと近くをうろついている。
近くで騒がれても読書の邪魔なんだよな……。仕方ない。
ぱたん、と読んでいた本を閉じると、思いのほか音が響いたのか、アティアさんとクラスメイト(のはずだが名前は覚えてない)の視線がこちらに向く。
「そこの玉砕男子、まずはアンリーアさん目当てでアティアさんに近寄るのを止めたらどうだ?」
「ばっ!」
顔を真っ赤にして否定の姿勢を見せる男子。いや、判り易いし言い訳は無理だろ。
「アンリーアさんは、大事な大事な妹を、姉の美貌目当ての雑魚と関わらせるような薄い愛情の持ち主じゃあ無いと思うのでね。別の方法でアプローチするのをオススメするよ」
彼が何か喋る前にと畳み掛けるように口を出す。ちょっと毒が混ざったのは、まあ、寛大な目で見てくれるとありがたい。
「そうですね。私目当ての醜い感情丸出しのゴミを妹の友人にさせるようなヘマはしません」
アンリーアさんも怒りが溜まっていたようで、絶対零度というべき冷たい声音で男共に告げる。
クラスメイトがとぼとぼと去り、私は満足して読書に戻ろうと一度閉じた本を開き――
「あなた、うちの妹の友人になりませんか?」
目が文字を追い始める前にアンリーアさんが話し掛けてきた。
えーと、気のせいでなければ、私がアティアさんの友人にスカウトされてる、のか?
「…はい?」
思わず出た疑問の声に、アンリーアさんは何故か満足げに頷く。嫌な予感がする。
「直ぐで了承してくれるなんて、嬉しいわ」
「今のは困惑の声なのですが」
「あら、そうかしら? まあ、それはどうでもいいわ。友人、なってくれるわよね?」
なんか寒気が。ニッコリ笑ってる顔なのに、目が笑ってなくて怖いんだが。
「リア姉さん、無理矢理は止めて、ね?」
アティアさんがアンリーアさんを宥めに走ってくれた。やっぱ優しいな、彼女。
……うん。友達になれるなら、仲良くなれそうだとは思っていたしな。
「あの、アティアさんは私の読書の邪魔を頻繁にするような方では無いと思いますし。お姉さんのお墨付きがあるなら、友人になってみたいと思ってたんです」
敬語なのはアンリーアさんが怖いからであるのであしからず。
「本当ですか!?」
期待した表情で私を見つめるアティアさんに、ああこれはズルいな、とちょっと思いつつ頷く。
「やったー!」
両手を上げて歓喜の声を上げるアティアさん。子供っぽいところもあるんだな……。
「改めて、私は斉藤説子と言います。クーアティアさん、私と友人になってくれませんか?」
「はい! 説子さんですね。私の事はアティアと呼び捨てにしていただいて結構ですよ。それと、敬語は止めてくれませんか?」
上目遣いで伺うように言うのは卑怯だろう…。まあでも、確かに友人同士なのに敬語は少し不自然か。
「…了解した、アティア。私はこんな女らしくない喋り方だが、良いのか?」
「カッコイイです、説子さん!」
「そうか?」
「はい!」
うん、そのキラキラした眼は少し眩しい。
そうして友人同士になった私たちは、高校卒業までずっと、クラスも同じ、席順も位置が変わる事はあっても順序――私がアティアの前で、アティアの隣にはリアさんの席があるのは変わらず、斜め後ろという良い位置をキープし続けることになった。
リアさんが何かしたのか、教師が問題児をまとめようとでもしたのか、真偽は不明だが。
そんな良い位置を確保し、姉妹とよく話している私に、リアさんに思いを寄せる者たちは恨めしげな視線を送っていたが、何故か私の隣にそのような者の席が回ってくる事は無かった。
……やっぱり、リアさんがなんかしたんだろうか……。
アンリーアさんを愛称で呼ぶようになってからはますます嫉妬の感情を向けられるようになったのだけれど、ある時からぱったりとそういう事が無くなった。結局原因が解らず、現在になっても時折思い出しては首を捻っている。
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これは、アンリーアさんをリアと呼ぶようになった、その切っ掛けの話。
その日は確か、私とアティアのお気に入りのシリーズの最新刊について熱く語り合った後だったと思う。
「あなたに私を愛称で呼ぶ事を許しましょう」
自分の席で私たちの雑談を聞いていたアンリーアさんが、突然言った。え、なんだ突然。
「珍しい。リア姉さんが愛称呼びを認める人なんて、何百年振りかな?」
……何百年とか言う変な言葉は聞かない振りをするぞ、私は。
「えーと、アティア。アンリーアさんは私にリアさんと呼んで欲しいと言う事で良いのか?」
確認を取ると、アティアはうん、と頷いた。
「説子以外に名前で呼ばれるとびっみょーに不機嫌になってるぐらいだしね。そうだよ」
……ああ、そういえば確かに。
いまだに群がって来るクラススメイトを適当にあしらうリアさんは基本的に無表情なのだが、最近は機嫌悪そうな雰囲気を纏っているような……。
「じゃあ、これからはリアさんと呼ばせてもらいます」
「……敬語も止めてくれる? 私だけかしこまられるのは複雑だわ」
「……ん、わかった。リアさんにも敬語は使わない。これでいいだろうか?」
「ええ」
なんというか、リアさんがやけに満足げに笑っていたのが印象に残っている。
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高校を卒業した直後ぐらいに、アティアとリアさんの秘密を打ち明けられ、2人の妹として不老になった。
それからは、アティアをクーねぇ、リアさんをリアねぇ、と呼び始め、あっという間に数百年が経っていたのだが――
「説子、どうしたの?」
ふと我に返ると、クーねぇが心配そうに顔を覗き込んでいた。
「いや、ちょっと昔を思い出してね」
「あら、いつの話?」
「リアねぇをリアさん、と呼ぶようになった時の事だな」
「ああ。懐かしいわね」
「だろう? ……そういえば、ぽろっと何百年振り、なんてクーねぇが零してたが、なんか色々不思議な子、という認識だったし、気にも留めてなかったな…とか思いだしてたんだ」
「「そうなの?」」
きょとんとした顔でハモられて、気づいてなかったのか……と肩を落とす。
「リアねぇには怪しい言動は無かったが、顔が整い過ぎだし髪色が地球じゃ無さそうな色だったし。まあ、髪色が変なのはクーねぇもだけど」
あ、なんかリアねぇが挙動不審だ。どうしたんだろうか。
「追加で偶に変な事……さっき話した数百年が云々とか、息を吹きかけただけに見えたのにランプの火が点いた所に遭遇した事とか……があったから、何かはあるだろうな、とは思ってたんだ」
「ウソっ、見られてたの!?」
息を吹きかけて火をつけたのは3年生の時のクーねぇだが、指パッチンで明かりをつけたリアねぇも見たことがある。……あの時は結構驚いたなあ、懐かしい。
「まあ、魔術師だった前世でもあんのかなー的な感じでテキトーに考えていたよ」
「そっかー…」
「的外れなようなそうでないような感じだったのは驚いたけどね」
そう締めると、とクーねぇとリアねぇが吹き出した。2人につられて、私も笑う。
「それにしても、あの世界に行くのは何年振りかしら」
懐かしむように目を細めるリアねぇ。これから行くのは、クーねぇの故郷の世界だ。
……いや、クーねぇの故郷はこの地球なのだが、彼女の今世――クーアティアという体が生まれた地、という意味で。
「リアねぇ、どの時代に行くつもりなんだ?」
「クーを連れ去ってから数年後を予定してるわ」
さらりとしたリアねぇの言葉に、クーねぇは目を瞠った。
「ちょっとリアねぇ、それ大丈夫なの!?」
「騒ぎになってたり……するんだろうな」
「大丈夫よ、いざとなったら力でゴリ押すから」
「「あ、それならいいや」」
対策があるなら大丈夫だろう、リアねぇなら。
この人、結構過保護だからな……。私たちに危険が及ぶことは皆無と言っていいぐらいだ。
「準備完了、っと。行くわよー」
「はーい」
「いよいよか…!」
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クーとリアが出会ったのは、新たな姉妹。
ファンタジーが大好きな彼女は、アンリーアの心の防壁をすり抜け、2人目の家族となったようです。
おしまい
書ききれなかった設定コーナー
担任の教師:実は遅刻が日常茶飯事。偉い人が放り込んだだけで、いつも「早くクビになってニート生活を満喫したい…」と零している。やるきはゼロながらも授業自体はやってくれる(時間短い割りに教え方も上手い)ので、生徒の評価は案外良い。(主人公は遅れる程読書出来るし学力に支障出るほどの教え方じゃないし良いや、ってスタンス)
クーアティア:自己紹介の時に「アティアと呼んでくださいね」と言ったのは、クラスメートがクーと呼ぶ事にアンリーアが拒否反応を示したため。2人目の妹たる説子にはクー呼びを許してます。
たぶん、「クーって呼んでもいいかな?」って言った猛者は居たけど瞬時にリアがキレて直ぐに震えながら謝ることになる。
19/2/2の修正箇所の詳細
・説子がリアの妹になり不老となったのを高校卒業直後に変更。
・性格上の都合での設定の変更に伴う描写の追加。
リアとクーの見た目について、「リアって大事な家族が異世界人ですってあからさまに示すような見た目してるのにそのまま放って置くような性格してないよね?」という疑問が生まれまして、地球に居る時は見た目の偽装を掛けている、という設定に変更しました。
リアは金髪緑瞳に色を変えただけ(つまり人外めいた美貌はそのまま)で、クーは明るい茶色の髪に青色の瞳の美少女(リアほどじゃないだけで凄い美少女)になっているという設定です。でも説子には普通に本来の姿で見えています。
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