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閑話2

 時は少し遡る―――








 ――ヴァイス王国、王宮内、特別闘技場――


 王国内屈指の設備を誇る闘技場で、とある催しが行われていた。

 国内各地から腕が自慢の剣士達を集め、トーナメント戦を行い、国一番の剣士を決める大会である。出場権は王国民であることのみ。性別や年齢は問わなかった。

 闘技場内では連日試合が行われており、遂に決勝戦を残すのみとなった。

 優勝した者には多くの報酬のほか、国王から何か使命を与えられると噂されているが、真偽の程は定かではない。

 決勝戦に残った者は、王立騎士団一の剣士と名高い伯爵家子息と、国の外れの村に住む平民の2人だった。

 五万を超える観客のほとんどは伯爵家子息が勝つと予想している。国民は皆報酬や噂の真相よりも、国一番の剣士が誰なのかに注目しているようで、会場は熱気に満ち溢れていた。

 ざわめきが頂点に達する頃、決勝戦の開始が宣言された。




 大会史上最長の試合時間となったが、中天にあった陽が西に沈む頃、漸く決着がついた。

 勝者は、国の外れの村に住む平民だった。長きに渡る試合時間の中で、偶然ではなく実力で勝利を手にしたのは、誰の目にも明らかであった。

 試合終了ののち、両者は固い握手を交わした。身分差を考えれば無礼ともあたる行為だが、実際に戦った二人にしかわからないものもあるのであろう。


 後日、平民は国王と謁見することとなった。そこでは大会の報酬として、村の人間全員が一生暮らせるほどの金子が与えられた。平民は受け取りを拒否したが、元々決まっていた正当な報酬であると言われ、最終的には受け取る運びとなった。

 金子は後に村に送り届けられることとなり、国王は大会の間噂されていたことに関して話し始める。


「そなたには、これから国のための使命を与える」

「……使命、でございますか」

「左様」


 国王は白い手を挙げ、側近に指示を出す。側近は国王の膝の上にあった大きな布包みを抱えると、音もなく平民に歩み寄った。


「こちらを」

「これは……?」

「王国に伝わる聖剣でございます」


 聖剣、という言葉に平民の手が震える。本来であれば一生目にかかることの出来ない代物を、今手にしようとしているのだ。


「その剣を、お主に授ける」

「っしかし」

「案ずるな。お主に与えるわけではない。これはある役目のための道具に過ぎん」


 包を開けてみろ、という声に、平民は恐る恐る聖剣を取り出す。聖剣は王国のシンボルであるエンブレムが柄にあしらわれ、彫刻なども凝った意匠となっている。分不相応であると思わずにはいられない代物だ。しかし、それは驚くほど平民の腕に馴染んだ。


「そなたの役目は、その聖剣で異端者を討伐することだ」

「異端者……?」


 国の辺境に住んでいる平民は、それは単なる噂話にすぎないと思っていた。しかし国王直々に言われたとなれば、異端者が実在しているのは事実だ。


「この国の北西にある森は知っているな」

「は、存じております」

「そこにある城に、異端者はいる」

「失礼と存じますが、お聞きしたいことがございます」

「よい、申してみよ」

「私めは異端者なる存在を知らぬ身でありました。異端者がどのようなものであるかをお聞かせ願いたく存じます」

「…異端者に関しては、様々な情報が錯綜している。男か女かもわからぬし、年齢もわからぬ」

「異端者に関する確かな情報は、ないと?」

「いや。異端者は強大な魔力を有している。そして……黒の色彩を持っている。髪の色も、瞳の色も、黒だ」

「―――!」


 黒の色彩。


 このヴァイス王国では白が至高の色とされている。王族は基本的に白い髪に白い肌、そして赤い瞳を持っている。王族以外にも稀にその色彩を持った子供が生まれるが、女であれば身分が低いものでも王族へ嫁入りすることとなり、男であっても王宮に召し上げられ高い地位が約束される。

 しかし、その色彩も王族を含めごく一部であり、国民の中では茶色の髪と碧の瞳を持つ者が一番多い。そうでなくとも、暗い色彩を持つものはいなかった。

 だが、異端者はそんな中で黒の色彩を持つという。この王国の中では異端極まりない存在だ。


「異端者―――いや、魔王とでも称するか。魔王という存在は極めて異端で、国民の中にもその存在を不安視するものが大勢いる。国民の、そして国の安寧のためにも、一刻も早く討伐しなければならない」

「魔王…」

「やってくれるな。―――勇者よ」

「……国王陛下の、仰せのままに」


 かくして平民は勇者となり、魔王を討伐することとなった。

 また補佐として、決勝で剣を交えた伯爵家子息と、王宮専属の魔術師を含めた数人が同行する。

 魔王のいる国の外れの森までの道のりは、長く厳しいものになるであろう。

 しかし勇者は、己に課せられた使命を全うするべく、その厳しい道のりを歩き始めるのだった。

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